高校生の質問にお応えします!

コロナ禍で受験勉強に苦労されている受験生や、そもそも大学か専門学校か、または就職をするかで悩んでおられる高校生が多くおられる事と思います。

少しでも「大学進学」についてお考えいただけることを願い、大学試験までの約半年間 大学教授へお願いをし、「高校生の質問にお応えします!」というコーナーを設けました。

質問にお応えいただく大学の先生

紀 葉子先生
紀 葉子先生

東洋大学 社会学部 教授:紀 葉子 先生

1986年 立命館大学文学部卒、1988年 立命館大学大学院社会学研究科、博士課程前期課程修了
1991年 立命館大学大学院社会学研究科博士課程後期課程, 修了(社会学博士)

専門分野·研究テーマ 社会学
「聖なるもの」の社会学、日系ブラジル人の生活世界に関する調査研究、フランスにおけるネオジャポニスムについての調査研究など。
主な著書·論文
『日仏社会学叢書 第3巻 ブルデュー社会学への挑戦』、厚生社恒星閣
『日仏社会学叢書 第4巻 日仏社会論への挑戦』、恒星社恒星閣
『大学事典』、平凡社、「大学の民主化」「ダイバーシティ」「ジェンダー」他
所属学会
日本社会学会、関西社会学会、日仏社会学会、大学評価学会

Q

「大学ってどういう場所ですか?」

滋賀県立高等学校 S.N君

Q

 高校までの学習が「正解」を導き出すものであるとすると、大学での学びは「正解」を探すものです。「正しい」ことが書かれているとされている教科書ですが、お父さんやお母さんの世代から変わってきていることはご存知でしょう。現時点で「正しい」とされていることも学問の展開によって誤りであることがわかり訂正されることがあります。この誤りを発見し修正する作業が研究です。大学は学習から研究へと学びのステージが転換します。
 日本の教育は高校でも要領よく教科書に書かれている内容を整理して憶えてゆくことが重視される傾向にありますが、大学では「正しい」とされていることを疑うことを身につけてゆきます。近代哲学の扉を開いたデカルトは「方法的懐疑」としてあらゆるものを疑ってみました。日本の文化では「疑う」というのはあまりお行儀の良いことではなく、素直に信じる心が美徳とされる傾向がありますが、こうした素直さは大学ではむしろ邪魔になります。源頼朝の肖像画とされていたものがその時代の衣装についての研究が進むと頼朝ではあり得ないことが明らかになり教科書が訂正されます。「これって何かおかしくない?」という疑問を抱き、それを科学的に解き明かしてゆくための方法を身につける場所が大学なのです。
 現代社会では「正しい」とされていたことが目まぐるしく変わります。このような時代だからこそ大学で「疑う」方法を身につけることはとても重要です。「もしかしたら間違っているのではないかな」という気づきを与えてくれるのは、学問的な知識だけでなく、親しい人とのコミュニケーションでもあります。率直に疑問を投げかけ合うことができる仲間と出会うのも大学という場所の魅力のひとつだと思いますよ。

Q

「専門学校へ行くか、大学へ行くか迷っています。
大学で勉強する(学ぶ)ことって、その先で何が掴めるのでしょうか。」

富山県立高等学校 R.Mさん

Q

 今現在、身につけたいと思う具体的な技能や技術があるのでしょうか? 自分が就きたいと思う仕事があって、その仕事をするために必要な資格等がはっきりと決まっている場合、専門学校に進学するほうが夢への近道になるかもしれませんね。でも、ただ漠然と専門学校に行ったほうが将来、役に立つような気がするというのであれば、大学進学も考えてみたほうが良いでしょう。
 昔の写真を見ると大学生は随分と大人です。第二次世界大戦に学徒出陣をした学生さんの肖像は今の30代より大人びています。社会が豊かになったことで、人はゆっくりと成熟することが許されているのかもしれません。今日、17歳、18歳で自分が何をしたいのか明確に説明できる人は多くはないでしょう。自分にとって最もミステリアスな存在である自分自身と向き合って自分が何者であるかを確かめてみる、それができるのが大学です。
 勉強だけでなく、サークル活動やコンパのような交流の場で大人になってゆく自分と向き合うことはとても大切です。「鏡に映った自我」という概念で自己の社会学を構築したクーリーは、私たちは他者という鏡に映る自画像から自分自身を知ると考えました。高校よりも広がる人間関係の中で様々な他者という鏡に多様な自己の姿が映し出されます。本当の自分の姿をゼミの友達や先生、アルバイト先の先輩、サークルの後輩という鏡を通して見つめ直す機会が与えられるのが学生時代なのです。
 やりたいことを見つけて就職活動に進むこともあれば、やりたいことのために専門学校に入り直したり大学院に進学したり留学したりしてさらなる学びを選ぶこともあるでしょう。人生100年時代、大学を卒業してからも70年以上を生きてゆくのですから、自分自身と向き合う4年間は決して無駄な回り道ではないはずです。

Q

「受験勉強の”やる気“を一定に保つ方法を教えてください。」

千葉県立高等学校 M.Sさん

Q

 ”やる気”を一定に保つ前に、まず、”やる気”を出さなければなりませんよね。どうして自分は受験に臨むことになったのか、振り返ってみましょう。大学に入りたいと思ったのはどうしてなのでしょうか? 周りが受験ムードに染まっていったからなんとなく…というのであれば、なかなか”やる気”が高まりませんよね。理由を自分の外に求めながら気持ちを高めるのは難しいことです。周囲の盛り上がりでなんとなくその気にさせられたとしても、部活動や体育祭などの競技で「勝ちたい」という気持ちが高まった時、厳しい練習は苦にならなかったりしますよね。「勝ちたい」という理由は自分自身を満足させるためかもしれないし、仲間と喜びを分かち合いたいからかもしれないし、励ましてくれる家族の思いに報いたいからかもしれません。理由は多様であっても、「勝ちたい」という気持ちが自分の内側からふつふつと沸き起こるならば、”やる気”はそれに伴うものです。受験勉強を始めたきっかけを思い返してみましょう。大学のアカデミックポリシーに惹かれたから、尊敬している先輩が進学しているから、高校の友達と同じ大学に通いたいから、進路指導をはじめとする先生の助言に報いたいから、いつも温かく応援してくれるお母さんの笑顔が見たいから……理由はなんでも良いのです。そのために「がんばろう」という思いを新たにすれば、きっと”やる気”もついてくるはずです。
 受験勉強をすることは、勉強の内容を憶えることにだけでなく、日常的な勉強を通して対処法を身につけてゆくことに意味があります。受験だけなく、これから先の人生で”やる気”を保つことが求められる場面はいくつもあるはずです。自分の”やる気”の源泉を把握して、それに向けて努力することが苦にならない自分になれるようにがんばってみましょう。

Q

「受験勉強には『集中することが大切だ』と先生方は仰います。
どのようにすれば「集中力」は高まりますでしょうか。」

山口県立高等学校 F.Tさん

Q

 入試の監督をしていると、最初の15分くらいで一通り問題を解いた後、机にうつ伏せて眠りはじめたり、周囲が気になってキョロキョロ見回しはじめたりする受験生がいる一方で、終了の合図があるまで問題と答案用紙を繰り返し見直している受験生がいます。きっと、前者は集中力が15分くらいしか保たず残りの時間は休むか気晴らしをするしかないのでしょう。わずか15分でも集中して正解できれば良いのかもしれませんが、人間は誤ちをなす生き物です。フランスの哲学者バシュラールは唯一確かなこととして人は誤るとしました。実際、全知全能の神でない限り、間違えない人はいません。だからこそ、誤答を制限時間いっぱいまで探し続ける集中力を養うことの大切さを、先生は指摘されているのでしょう。
 では、どうすれば良いのか? その答えは容易ではありません。おいしいと感じるものが違うように、楽しくて夢中になれるものが違うように、集中するためにどうすればよいのかは人によってそれぞれ異なりますし、集中することは身体をそのように習慣づけることでもあり、一朝一夕に身につくものでもありません。試行錯誤を繰り返しながら、自分が最も集中できる方法を見つけそれを身体に癖づけてゆくことが必要です。試験時間が60分なら60分、90分なら90分、タイマーで時間を設定し、問題を解き回答を点検する訓練を続けてみてはいかがでしょうか。
 実際に、進学後の試験でも30分で意気揚々と答案用紙を提出する学生より終了の合図まで粘りに粘る学生の答案の方が優れている傾向がみられます。集中力を高めるための訓練は決して無駄にはなりません。水の呼吸拾壱ノ型凪が無敵であるように、自分なりの全集中の技を日々の鍛錬で身につけましょう。

Q

「いよいよ来月1月から入試がスタートします。
入試に向かう心構えを教えてください。」

東京都立高等学校 N.Tさん

Q

 例年とは違い100年に1度とも言われるパンデミック下では何より健康管理が大切ですよね。そうでなくても不安が多い受験のシーズンに体調の維持管理を求められる今年の受験生は本当に大変だと思います。でも、こうした不運な巡り合わせを乗り越えることで得られるチカラもあるはずです。不運を嘆いたところで環境が変わることはないので現状をあるがままに受け入れて前に進みましょう。
 この時期になると今までに自分がやってきたことを信じて、良い意味で開き直るしかないでしょう。様々な不安要素に思いを巡らせて悩みを深くしても何も得るものはありません。たまに番狂わせに見えるようなことがあったとしても、基本的に試験に反映されるのは「やってきたこと」です。自分を信じること、それに尽きます。
 不安な気持ちを抱えながら受験に臨むと、本来なら簡単に導き出せる答えにも自信が持てなくなってきます。不安に思いながら夜道を歩いていると風に揺れる柳の枝に幽霊が見えてしまうように、正答があやふやになってできるはずの問題にすらつまずいてしまいがちです。よくやってきた自分を褒めてやる勢いでこの不安を払拭しましょう。そして、自分を励ましてやりましょう。
 褒めてやれるほどやってこなかった? それならなおさら開き直るしかありませんね。「なせば成る!」

大学入学が決まったら…

東洋大学生活協同組合
専務理事 柏木浩樹

 コロナ禍での学校生活や受験勉強は、大変なご苦労をされたかと思います。でも、あともう少しで、皆様が待ちに待った大学生活が始まります。「大学にほとんど行けない」「課題に追われている」「相談できる友達がいない」等が「大学生」の声としてマスコミで紹介されていますが、これらは大学生の「全体」を表しているとまでは言い切れないようです。

 東洋大学生協では「東洋大生まるごとアンケート」に取り組み、400名の方にご協力いただきました。ほんの一部ですが、ご紹介いたします。

Q. 2年生以上の方に伺います。テストやレポートで昨年までと大きく変わったことは?

  • 「レポートや課題の量が倍以上増え、勉強にかける時間も増えた」
  • 「先生に質問しやすくなった」
  • 「自分の時間を有効活用できるようになった」
  • 「オンデマンド授業だと分からない点を繰り返せるため、理解が深まり成績が良くなった」

Q. この春大学に入学する後輩に一言お願いします。

  • 「課題に関しては有益なアドバイスができると思う。一緒に頑張ろう!」
  • 「先輩や教員等への相談会や交流会に、Web上であっても積極的に参加すると不安が軽減するかと思います。皆さんが大変な状況であることを理解し、サポートする気持ちがある人も多いと思うので、遠慮なく頼ってください!!」

 大学入学が決まったら、ホームページで『○○大学 生協』と検索してみてください。全国には205の大学等と6つのインターカレッジコープ(入学した大学に生協がない方のため)に大学生協があります。これらの大学生協では、新入生サポートセンターや入学準備説明会、新入生歓迎会等を企画準備中ですので、ぜひ多様な大学生の声を聴いてください。皆さんと同じように、この1年間苦労しながらも頑張ってきた先輩たちですから、皆さんが抱かれるであろう「暮らし」「学び」「コミュニティ」の不安をきっと解消してくれることでしょう。

Q

「私学を受験します。ここから先、より効率よく勉強を進めていく
『手順』みたいなことがあれば教えてください。」

長野県私立高等学校 K.Tさん

Q

 もしあなたが3年生で試験日を目前に控えていらっしゃるのであれば、大切なのは勉強の「手順」より心穏やかに受験日を迎えるための準備だと思います。私学は複数のキャンパスを有するものも少なくありませんので、受験会場とそこに至る交通手段を確認することが大切です。なるべく平常心で受験に臨めるように今までに努力した過程を思い起こして自分で自分を励ましてやりましょう。「大丈夫、私なら、きっと大丈夫」。

 もしあなたが2年生で、これから1年間かけてどのように勉強するのかを考えていらっしゃるのであれば、受験する大学の出題傾向を進路指導室にある資料を閲覧して整理してみることをお勧めします。科目ごとの配点の仕方や出題される問題文の傾向性は大学ごとに特徴がある場合が少なくありません。漢字の書き取り問題にしても、複数の選択肢の中から選んでマークさせる大学もあれば実際に筆記で書かせる大学もあります。受験する私学の特徴を踏まえることが効率よく勉強を進める第一歩になると思われます。

 いずれにしても、最も大切なことは周囲に惑わされない自信を持つことです。試験会場にいる他の受験生はなんとなくデキる人に見えてしまったりします。でも、あなたが頑張ってきた証しは、あなたの身体に刻み込まれています。自分を、自分の努力を信じましょう。「大丈夫、あなたらなら、きっと大丈夫」。