JICA青年海外協力隊事務局
内山 貴之 氏 インタビュー

内山 貴之 氏インタビュー「人生なんて きっかけひとつ。」想像できない経験と、まだ見ぬものを求めて一歩踏み出してみませんか?

 

「JICA海外協力隊」、一度は耳にしたことがあり、募集ポスターを目にしたことがありませんか?どんな人が、どんなきっかけで、どんな国に行って、どんなことをしているのだろう?

この疑問に対する、このインタビューが「きっかけ」となるべく、JICA青年海外協力隊事務局の内山貴之さんにお話を伺いました。

 
 

JICA青年海外協力隊事務局
次長 内山 貴之 氏
JICA 独立行政法人
国際協力機構

インタビュイー

全国大学生協連 全国学生委員会
委員長 加藤 有希(司会/進行)
インタビュアー

全国大学生協連 全国学生委員会
副委員長 戸張 桜
インタビュアー

全国大学生協連 全国学生委員会
吉村 珠李
インタビュアー

全国大学生協連 全国学生委員会
髙須 啓太
インタビュアー

 

(以下、敬称を省略させていただきます)

 

はじめに

自己紹介

 

加藤
全国大学生協連の学生委員会で委員長を務めております加藤有希と申します。
本日はよろしくお願いいたします。
 

戸張
全国大学生協連、学生委員会で副学生委員長を務めております戸張桜と申します。よろしくお願いいたします。
 

髙須
全国学生委員会の髙須啓太と申します。今年、岐阜大学を卒業しました。
 

吉村
同じく全国大学生協連の学生委員会をしております吉村珠李と申します。
髙須と同じで今年の春に宮崎大学を卒業しました。よろしくお願いいたします。
 

内山
JICA青年海外協力隊事務局の内山です。よろしくお願いいたします。
 

加藤
大学生協は、よりよいキャンパスライフ、よりよい生活を実現するための視点を持ってもらうためにいろいろな情報発信を行っており、その中の一つとして著名な方や団体の皆さんへのインタビューを実施しています。
 

このインタビューの趣旨


加藤
今回のインタビューの趣旨としましては、昨年度の秋に全国大学生協連で実施した「※1全国学生生活実態調査」の中で、SDGsの17の目標の中で関心があるものはどれですかという問いに対して、すべての目標において割合が減少しているという結果が出ました。昨年はほぼ全ての項目において関心が高まっているという結果だったので、今回の調査結果は何故なのか考えていく中で、先日弊会をご訪問いただいたことをきっかけに、JICA海外協力隊の方々が途上国からのニーズに基づいて、技術や知識やこれまでの経験を自発的に人々のために活かしたいという方を派遣されており、社会の発展に貢献されていることを知りました。

大学生協には、学生同士の加入者によるたすけあいの制度として、保険共済の「コープ学生総合共済」というものがあり、これは一緒に助け合う、相互扶助の考え方をもって社会に出てほしいという考えをもとに運営されています。JICAの皆様とお話をさせていただく中で、大学生協の事業や活動と非常に親和性の高いものを感じました。

今回のインタビューを通して、JICA海外協力隊により興味を持つ人を増やすことや、助け合うことを国際貢献という形で社会に広げることに関して理解を深めてもらうきっかけになればと思います。本日はよろしくお願いいたします。
 

※1 SDGsについて

 

JICA海外協力隊について

JICA海外協力隊とは

インタビュー

加藤
JICA海外協力隊では、途上国へ隊員派遣をされていますが、活動内容について詳しくお聞かせいただけますか。
 

内山
JICA海外協力隊のうち青年海外協力隊は1965年に始まったので、今年で59年目、来年60周年の還暦を迎える事業になります。
まず、途上国からニーズを集めます。例えばある国では学校の先生に来てほしい、別の国では卓球のナショナルチームにコーチがほしい、またお米がいま特にアフリカで人気なので、お米の普及ができる人を送ってほしい等さまざまです。病院で院内感染が多いため、病院のマネジメントを支援してくれるようなボランティアが欲しいとか、いろいろな要望が全世界からきていて、これまでに延べ99カ国に56,000人以上、分野・職種でいうと約190の職種でボランティアを派遣してきました。

海外協力隊を派遣するにあたっては、まずは現地にニーズがあるということが大事です。そのニーズもいま紹介したように多種多様です。日本語の先生を必要とされる場合も、タイの中学校の日本語のクラスで先生が欲しいという場合もあれば、スリランカの大学の日本語学科でカリキュラムなどの指導をしてほしいという要請もあります。そのため、成績上位者から合格する大学入試とは異なり、海外協力隊の選考にあたっては応募者の経験と現地とのニーズがマッチングするか否かを重視しています。未経験者でも歓迎する要請もあるので、必ずしも経験がなくても、現地の要請の内容が応募者の経験等に合致すれば派遣されます。ボランティアであるからレベルが低いということもなく、高度な知見が求められる活動をしている人もいます。

ワーキングホリデーや留学は究極的には自分のため(収入を得たい、学歴を得たい等)に参加するケースが比較的多いと思いますが、海外協力隊事業は、社会のため、誰かのために少しでも貢献したいという気持ちがあり、そして誰にも強制されずに自ら「行きたいです」と手を挙げる、そういった方々を現地のニーズとマッチングさせて派遣する事業です。

規模でいうと、累計で56,000人以上を派遣しています。常時2,000人程度を派遣することを目指しています。一般的な隊員の任期は2年間ですので、毎年約1,000人派遣して、約1,000人戻ってくるのが我々の目指す事業規模となります。コロナで全世界から一気に退避したので、現在赴任中の隊員は1,400から1,500人程度です。コロナ前の派遣規模は2,000人くらいでしたので、来年くらいにはまたコロナ前の規模に戻るかなという感じですね。

昔は「青年海外協力隊」といい、「青年」とあるように20歳から39歳までが募集対象でしたが、現在の年齢区分は20歳から69歳までなので、「青年」をとり、「海外協力隊」と事業の総称を変更しました。他方で、海外協力隊のサブカテゴリ―として「青年海外協力隊」という名称も残していて、海外協力隊の中で若い人たちは引き続き「青年海外協力隊」と呼んでいます。
 

JICA海外協力隊の事業目的


内山
事業目的としては、3つあります。一つは、先ほど話した途上国の社会経済の発展や復興に寄与すること。

二つ目は、この事業の大きなところだと思いますが、日本と派遣された国の信頼を深め、友好を深めること。要は日本を好きになってもらうことです。国同士でも仲の良し悪しはありますが、日本を信頼してもらい、日本と友好な国が世界中に増えることは、日本にとっても地域の平和という意味でも本当に大事なことになります。

やはり派遣先の国の人々にとっては、私利私欲のためではなく、自分たちのために何かしたいという想いをもって日本人が海外協力隊員として来てくれている。そして派遣された海外協力隊員が一生懸命に頑張っている。その姿がすごく現地の方々のハートに響くのだと思います。東日本大震災の時に、海外の国からたくさんの支援があり、とてもありがたく思ったのと同じで、そのような純粋な支援の行為は、個人レベルにとどまらず、国同士の信頼を深め、お互いにリスペクトし合うことに繋がっています。

三つ目を我々は「社会還元」と言っていますが、日本の国の事業として税金で運営していますので、2年間海外で頑張ったその経験やネットワークを、帰国した後も社会のために役立ててもらうことです。ボランティア経験を社会還元するということは、ある意味終わりがありません。海外協力隊は一生続くとも言えますが、それは何十年も前に帰国しても、未だに派遣された国に対して繋がりを感じて支援をされている方もたくさんいらっしゃるし、その時の経験を活かしていろんな事業をされている方もたくさんいますので、そこまで含めて海外協力隊事業だと私は捉えています。
 

途上国で求められていること

ニーズを集める方法

インタビュー

加藤
途上国のニーズを集めるのは、どのような方法で行うのですか。
 

内山
それは国によりますが、協力隊を派遣している国にいるJICAスタッフが、御用聞きをしてまわるというのが一つ。あとは、日本だとJICAを知らない人が多いですが、長年支援をしているので、皆さんが思っている以上に途上国でJICAは有名です。そのため、先方からJICA事務所に海外協力隊の派遣の要請をいただくこともあります。あとはJICAとして、途上国で様々な事業を行っていますが、JICAが途上国政府と一緒に取り組む事業と連携する形でボランティア派遣の要請があったりもします。

いろいろな要望を頂きますが、途上国の要望だけを聞いていても日本の応募者とマッチングしないことが多々あります。例えば、竹細工ができる人に来てほしいとか、養殖ができる若い人に来てほしいとか、かつてはそういった農業、水産、職業訓練関係の要請が多かったのですが、今は日本で公募してもなかなかそういった知見を有する人はいません。現地の要望にも応え、かつ日本の応募者の知見にも合致する分野として最近増えてきている職種として環境教育があります。日本はリサイクルが進んでいるし、行政サービスや教育が行き届いているのでそもそも街にゴミがない、それは途上国の人にとってはとても驚くべきことです。
 

青少年活動への協力

インタビュー

内山
次にニーズが多い職種としては、青少年活動があります。途上国は子供が大変多いので、なかなか教育が行き届かないし、ドロップアウトも多く、仕事もない若者が増えていることが社会問題になっている国もあります。そのような国では、現地の子供たちが人生を生きる目的や手に職を持つことができるようにするために、その手助けをする青少年活動分野の海外協力隊員の要望も多くいただいています。

やはり人間は夢がないと生きていけないですよね。私はウガンダという国にいたことがありますが、国境を接している近隣国の一部では武力紛争や略奪等が現実として存在しています。それらの地域から逃げてきた人たちがウガンダ国内に難民として多く滞在しており、ウガンダ政府はそれらの難民のために居住地域を整備し様々な人道支援を行っています。ただし、いくら衣食住が確保されていても、夢を持てない、未来が描けないと、特に若者の一部は将来に絶望してドラッグや自殺、犯罪に走ってしまうケースもあります。そして中には母国の国籍を得られず無国籍の方も中にはいらっしゃいます。無国籍であることで移動の自由や、就職・職業選択の自由が大きく制限されることがある。そういう世界があります。

ウガンダは一例ですが、ウガンダに限らず未来を担う若い人たちが夢を持てなくて、生活や身を持ち崩すというのは、社会の不安定化につながりますし、やはり国としても対応しなければいけないということで、青少年活動の要請が増えています。具体的にはストリートチルドレンなどの恵まれない境遇にある青少年をサポートする施設で青少年への支援や各種イベント等を実施するといった要請が多くあります。日本でのボーイスカウト経験や、大学のサークル運営の経験、もしくは音楽やスポーツの経験者がそういった施設で大変役に立ちますので、学生の方がこのような要請に多く応募いただいています。

あとはコミュニティ内での生計向上のために地域おこしをしてほしい、地域の特産品を見つけてアピールしてほしい、地域の魅力や特産品をSNSで発信してほしいなどの要請も多くあります。大学生でも応募できる要請はたくさんありますので、是非一度海外協力隊のホームページをご覧ください。きっとあなたを必要としている要請に出会えるはずです。
 

日本的な支援


加藤
JICAのホームページを拝見した際に、野球経験者が途上国に行く体験記が掲載されていて、野球を教えることもですが、スポーツを通してチーム競技における協調性みたいなものを育てることの方が比重として大きいのでしょうか。
 

内山
日本の競技スポーツの場合、勝てば何をしてもいいという指導や教育はありませんよね。だから日本でスポーツに取り組むなかで自然と身につくそういった目的意識、チームワークや頑張ること、諦めないことの大切さとか、チームスポーツだったらロジカルに分析をし、戦略も考えないといけないとか、お互いに尊重しあうスポーツマンシップだとか、そういった日本人が何気なく身に着けている教育や姿勢が多くの途上国で評価され、是非日本人に来て欲しいという要望を多くいただいています。

最近では、多様性や誰も取り残さない重要性が謳われていますが、障害者スポーツや女子スポーツの育成に取り組むことで、そのような社会の実現に貢献することに力を入れています。

他国をみると実は政府のボランティア事業としてスポーツ分野の協力を扱う国はほとんどないのですが、日本の海外協力隊では発足時からスポーツの価値を認め、スポーツ分野での海外協力隊員の派遣を継続しています。スポーツを通じ、人間として他者を尊重し、相互に信頼をして成長する、そういった社会性を学ぶものとして重視しています。日本の武道についても多くの海外協力隊員を派遣しており、柔道、剣道、空手、合気道、少林寺拳法などの分野でも、継続して派遣をしています。その胆は精神的なところですよね、「敬う」というところ。そこを大事にしている事業だと思います。
 

JICA海外協力隊の参加者

協力隊員の内訳

 

戸張
参加する方はどのような人が多いのか、若い世代や学生で特徴があったりしますか。
 

内山
協力隊に参加する年齢層で一番多いのは、20代後半から30代前半で、次に多い世代は60代になります。大学生の参加がまだ限定的である理由としては、やはり経験を求める要請もまだまだ多いからだと思います。例えば学校の先生だったら、教員免許を取ってすぐに海外協力隊員として派遣される人もいますが、やはり経験ある先生に来て欲しいという国も多いです。医療分野、例えば看護師を海外協力隊として派遣する場合には、人の生命にも関わるところなので実務経験は必須としていますので、看護師として海外協力隊員に参加する場合には、4、5年くらいは経験が必要となるケースが多いです。看護師に限らず、やはり大学を卒業して4~5年社会経験を積んで海外協力隊に応募する方が多いので、結果として参加する際には20代後半から30代前半が多くなります。
子育てなどが終わり、改めて自分のやりたいことはなんだろうと考えた時に、海外に行ってボランティアをしたかったという思いがあったシニア層の方などが、多く手を挙げてくださり、次に多い層になっています。

とはいえ、実務経験がなくても応募できる要請もありますので、大学生や大学を卒業してすぐ参加される方も比較的多いです。アフリカなどでは先生が足りないため、教員免許がなくても小学生に算数や体育、理科を教えてほしい、というニーズが結構あります。またスポーツ関係も、上記のとおり教育的な価値が高くニーズがあります。途上国の体育教育は、体系立てていろいろな種目を指導したり、チームワークやリーダーシップを育むということが弱かったりするので、体育教員の要請や、その国の特定の競技レベルを上げるために、その強化が必要な種目のコーチが欲しいという要請も多いです。

環境教育やコミュニティ開発の一部の要請では、日本で高等教育を了していて、元気でやる気のある人に来てもらえれば対応できるケースも多いです。なぜなら現地の方からすると、そもそも大卒の人材が貴重ですし、現地では知りえないような情報を知っていたり、なによりも外部の目はすごく大事で、地域の人にとっては普通のことが、外部の人から見ると際立って魅力的なことなどがありますよね。そういったことを発見して、しっかりと地域の価値として対外発信していくことは現地にとってはすごく助かるのです。ですので、繰り返しになりますが必ずしも社会経験や資格を必要としない要請も多くあり、若い学生の方が手を挙げて参加してくれています。
 

学生参加者の傾向

インタビュー

内山
学生で参加される方はいろいろなパターンがありますが、一つは国際協力を自分のキャリアにしたいという人たち、例えば将来は国連の職員になりたい、UNHCRに入って難民支援をしたい、ユニセフに入って世界の子供たちに支援をしたいです、とかね。WHOに入って世界のパンデミックに立ち向かいたい、あとはJICAの専門家になりたいとかいう方もいます。そういう人たちが、国際協力のキャリアの最初の一歩として海外協力隊を選択しています。

もう一つのグループは、自分が成長するために様々な経験をしたいという方たちです。海外でポランティア活動をすることは大きなチャレンジだし、想像できないことがたくさんあります。派遣される地域によっては電気も水もなくて、ソーラーパネルで携帯やタブレットを充電し、水は井戸まで何分も歩いて汲みに行くとか、そういった生活が必要な場所があります。日本ではまず経験できないようなことを経験しながら、現地で求められていることに対して少しでも出来ることをする、そのような経験を通じて自分の殻が破れて、一回りも二回りも大きくなることができます。

このグループの中には、やりたいことがわからないけど、とりあえず外に行って経験してみることでやりたいことが見えてくるのではないかとか、語学を一つしっかりと極めたい、成長する機会として協力隊に参加したい、その先どう進むかは未定だけど、とりあえず自分で飛び込んで挑戦することで次の道が見えるんじゃないかと、まず一歩踏み出したい人たちも多いです。

最後は、もう少し目標がクリアになっていて、自分は社会のために人生を使いたい、一度だけの人生だから、誰かのためになるような仕事を自分のライフワークにしたいと考える人たち。国内外を問わず、何か社会のためになるような人材に自分はなりたい、だけどまだ一学生であって経験値が足りないから、経験を積みたいと。二つ目のグループと似ているけど、もう少し方向は定まっているグループ、結構今はここが増えている感じがしますね。

似たところで、自分は社会起業家になりたい、社会を良くする、もしくは社会の厳しい部分を少しでも緩和することを、社会事業を通じてやっていきたいので、その一歩としてJICA海外協力隊に参加してみて、どこまでできるのか自分の身一つで頑張りたいという人たちもいます。大学とは違い、協力隊は60代の元学校の校長先生や、エンジンの技術者で南極基地で働いていた人、サッカーでインターハイに出た人、臨床検査技師、理学療法士、これまでの環境では会うことのない人たちと会える、そこで刺激をもらえるということが、何か事業をしたいという場合に絶対プラスになると考えて、集団で刺激を受けながら成長し、ネットワークを築いて、帰ってきたら起業したいという人も増えてきていると思います。
 

加藤
目的がはっきりしていないけど経験をつけたい人の場合、実際に派遣されて何もできなかったということはないのでしょうか。
 

内山
やはりスクリーニングはしています。マッチングをする際の合格率が、大体五割くらいですかね。派遣される要請先で貢献したい、頑張りたいという気持ちがあって、それがなぜ可能なのか、様々な選択肢の中でなぜ協力隊なのか等、しっかり自分の言葉で説明できるかどうか確認しています。

あとは良い面も悪い面もありますが、日本人の性格としてボランティアで行くと決めて合格すると、少なくとも家族や友達にはそのことを報告しますよね。みんなに海外でポランティアを頑張ると言った手前、頑張らざるを得ない。そういうプレッシャーはやはりあると思います。実際に現地に行ってみると、現地の人の方がよくできるし、経験もあるし、当然だけど言葉も喋れる。かたや自分はあまり言葉も喋れないし、経験なさすぎて何をしたらいいのかわからない、こんな状況で来てしまって申し訳ないのに現地の人はすごく助けてくれる。自分は全然貢献できていないことが、情けないし申し訳ないけど帰れない、みたいな。
 

戸張
何か日本を背負って来たみたいな感じでしょうか。
 

内山
本当にそうで、日本政府の事業ですので、受け入れる側も日本政府から派遣されているという認識になります。着任した時は国によっては現地の外務省に挨拶に行ったり、自分の任地の知事や市長を表敬訪問したり、その様子を現地メディアが取材し、新聞に顔出しで掲載されたりすることもありますから、プレッシャーですよね。頑張らざるを得ない。ただ、そこで逃げずに頑張って乗り越えることは大きな経験になって、皆さんすごく成長します。2年間で見違えるほどに変わるんです。だから募集広報ではどうしてもその苦労を乗り越えた後のすごくキラキラしたところを見せることが多いですが、そこに至るまでには、各自が歯を食いしばって耐え、涙を流しているということもあったりします。
 

派遣中の活動

内山さんが見た状況

インタビュー

髙須
内山さんご自身の活動された職種や、現地の派遣先の状況などのご経験についてお伺いしたいです。
 

内山
私自身は残念ながら海外協力隊に参加したことはないんです。ただ、大学生の頃に海外のポランティア団体のプログラムに参加して、南部アフリカのモザンビークという国で公衆衛生の活動をしました。JICAに入ってからは、マラウイという南部アフリカの国と、昨年まではウガンダという東アフリカの国に駐在していました。いずれの国も海外協力隊員が多くて、70人から80人くらいいました。本当にさまざまな職種で多種多様のバックグラウンドを持つボランティアが奮闘していましたね。

海外協力隊員の任期は原則2年間ですので、最初からフルスロットルでは活動できないというのもあるし、そもそも現地のことを知らないから、自分の経験をそのままやることがベストじゃないので、最初は勉強して、現地のことを知る期間が必要だったりします。そういった意味では、最初の頃は苦しんでもがいている人たちは多いし、それを乗り越えてエンジョイしている人もいれば、最後まで苦労している人もいるし、本当に人ぞれぞれです。海外協力隊に応募した時の目的意識や自分で設定するゴールにもよると思います。

日本の学校の先生が、休職して参加するとか、日本の企業でボランティア休暇を使って参加するなど、現職で参加する人は3割くらいいるのですが、そういった人たちは、参加した後にその先のキャリアを自分が切り開いていくというよりも、在籍する職場に戻って海外協力隊で得た経験を還元していくことになります。
 

派遣中の過ごし方

インタビュー

戸張
マッチングして派遣されるわけですが、実際に現地で全く違う仕事をしている人はいらっしゃいますか。
 

内山
基本は要請があって派遣しているので、中学校の先生で着任しているのなら、もちろん中学校の先生として活動することが前提となります。ただし、途上国の多くでは部活動というものはあまりないので、学校は早く終わりますし、休暇中は先生も子供もすっかりいなくなります。そのような学校が休校の時期には、みなさん創意工夫して様々な活動をしていますよ。学校が休校の間も当然子供たちは村にいるので子供たち向けのスポーツ大会とか、日本文化の紹介とか、他の職種の海外協力隊員の手伝いをしてみたり、場合によっては休暇を取って隣の国の同期隊員のところに遊びに行くとか、人によっては自分の任地以外の学校での課外授業とか、支援をつのって図書館を作ろうとか、いろいろな他の活動をしている人もいます。
 

吉村
基本的に決められたこと以外は、現地でどう過ごすかも含めて派遣されたその人次第ですか。
 

内山
2年間どう過ごすのかは、本人次第です。ただ日本の代表でもあるので、公序良俗に反することや名誉を汚すようなことはしてはいけません。ルールは守った上で、自分の趣味や特技などを通じて、余暇や週末などを利用して様々な活動をしている隊員は多いですね。
 

JICA海外協力隊の任期を終えて

派遣後の進路

 

吉村
帰国後の進路についてお聞きしたいのですが、キャリア志向の人はその道に、休職していた人は復職をそれぞれ選ばれることが多いと思いますが、やりたいことを見つけたいと参加された人は、帰国後にどのような道に進まれることが多いのでしょうか。
 

内山
これは人それぞれですが、やはり就職するという人が多いですね。例えば、ゆくゆくは起業したいと思っていても、起業資金を貯めるために就職する人もいるし、ボランティアでの経験を基に勉強した上で独立したいという人もいるし、海外で経験したことを糧に、自分がやりたかった業種にチャレンジして就職する人もいます。あとは、海外協力隊員の採用枠がある自治体も多いので、採用試験を受けて公務員や教員になる人もいるし、調整をしてたくさん失敗を経験しているタフな海外協力隊経験者を是非採用したいという民間企業も増えています。

あとは現地に惚れ込んで、また派遣された国に戻る人も一定数います。現地の日系企業に就職する、現地の日本大使館に就職したりするケースも多いです。教員では海外の日本人学校のポストに応募する方も多いです。自分の任国で起業した人や伴侶を見つけた人もいますよ。だから人生は何が起こるか本当にわからないですね。

派遣国の布地に魅せられて、それでアパレルブランドを立ち上げた人もいるし、現地でレストランを興す人もいる。モバイルマネーを使った井戸料金徴収システムを開発してそれで起業する人もいたし、途上国は糖尿病患者が多いので、3Dプリンターを使い、通常の1/10の価格で義足を作るビジネスを立ち上げた人もいます。現地に行ったからこそ気づくことや出会いによって、各々が多種多様なキャリアに進まれていますね。
 

JICAに関わり続ける

インタビュー

吉村
帰国後に、再度派遣されたり、またJICAに入られる方はいますか。
 

内山
長期ポランティアに行くことは2回までなら可能ですから、20代で1回海外協力隊に参加して、定年になって60歳でもう1回という人もいますし、親子で協力隊という人もいますね。

青年海外協力隊事務局の橘事務局長は元海外協力隊員です。海外協力隊を経験した後に、日本の国際協力に携わりたいとJICAを就職先に選ぶ人もいます。JICAの職員以外にもJICA専門家や、企画調査員という海外で協力隊のニーズを開拓し派遣隊員をサポートするポストもあります。海外協力隊を経験した後に、そのサポート側として派遣されるというキャリアもあるわけです。

JICAのサイトに「PARTNER」というページがあるので、そこを見ていただくと、いろいろな求人を掲載しているので、イメージしていただけると思います。あとは、各都道府県に「JICAデスク」というのがあり、国際協力を推進する人材をJICAが募集し、採用した上で各都道府県に派遣しています。その方々は、7、8割くらいがボランティア経験者ですね。かけがえのない経験をしてきたから、その情報を提供することに携わりたいという人だと思います。
 

経験者同士のつながり


吉村
それもJICAでというか、協力隊を経験したからこそ得られるというか、出会いがきっかけですよね。
 

内山
たくさんの選択肢やキャリアについて、いろいろなロールモデルがあります。考えるだけで悩んでいても回答がでませんが、実際に様々なキャリアを積んでいる方と出会うことでご自身のキャリアが明確になることも多いです。ネットサーフィンをして得られる情報は多いですが、必ずしもそれが自分が必要とした情報でないことも多いですよね。だからこそ学生の方にはJICA海外協力隊へ参加して、リアルな経験と出会いを通じて自分のキャリアを自ら創っていくことをお勧めしています。

いまキャッチフレーズとして「人生なんて きっかけひとつ。」と掲げています。参加することはきっかけの一つですが、海外協力隊に参加することで100%人生が変わります。それは思い描いていたものとは違うかもしれないけれど、参加して後悔することはないと思います。どのような経験であるにせよ、日本では得られない経験がえられ、日本では会えない人に会え、そして確実に世界は広がります。

海外協力隊に参加している人は、前向きに能動的に一歩踏み出して行動している集団なので、お互いに刺激を与えあっていますね。私は経験者でないので羨ましいのですが、海外協力隊の経験者同志は秒でお互いを分かり合えるというか、みんなリスクを冒して一歩踏み出して2年間参加しているわけですから絆が深いんですよ。

また、大人が感動して泣くシーンも、数多く見てきました。現地ではいい話だけではなく、すごく大変なこともあり、苦労もして、助けられて、心に響くようなたくさんの経験をしているので、そこにはやはりデジタル、オンラインでは経験できない世界が濃縮されてあるんですよね。

数年前にトンガで噴火があった時に、2、30年前に協力隊でトンガに赴任していた佐賀県の学校の先生が、トンガのために義援金を集めて、在京トンガ大使館に持って行ったら、大使が当時の教え子だったということもありました。大使は着任時からずっと恩師を探していたのですが、先生は結婚されて苗字が変わっていたので見つけることができなかったそうです。自分の国が国難の時に、佐賀から義援金をもって駆けつけてくれた日本人が恩師だった、そんなストーリーがたくさんあるんですよ。

日本が安心・安全だからリスクを冒さないというのは分かるけど、一歩踏み出すことで、すごく人生が豊かに変わります。なかなか損得勘定では語れない、すごく意義がある事業だし、人生においては回り道かもしれないけれども、いい回り道だと思います。
 

学生の皆さんへ

インタビュー

加藤
それでは最後になりますが、読者の大多数である大学生世代の方にメッセージをお願いします。
 

内山
キャッチコピーの「人生なんて きっかけひとつ。」にあるように、本当にきっかけ一つで人生は変わるし、きっかけは掴むものなので、目の前にあっても一歩踏み出さなかったらそのまま何も変わらない。だから目の前に何かチャンスや機会があれば、ぜひ掴んでほしい。掴んだ結果が思っていたのと違っても、そこは自分でトライしているので、後悔しないと思います。

特に若い人はいろいろな可能性があるから方向転換ができるし、体力もあるし、世界は広いんですよ。想像できない経験ができます。まだ見ぬものを見てほしいと思います。だからぜひ一歩踏み出して、世界を広げてみてください。
 

加藤
本日はお忙しいところお時間をいただき、ありがとうございました。
 

2024年9月12日JICA竹橋officeにて

 

JICA 独立行政法人 国際協力機構

JICAは、独立行政法人国際協力機構法に基づいて設置された、外務省が所轄する 独立行政法人で、 政府開発援助(ODA)の実施機関の一つであり、開発途上地域等の経済及び社会の発展に寄与し、国際協力の促進に資することを目的としている。

 

前身は1974年(昭和49年)8月に設立された特殊法人国際協力事業団であり、2003年(平成15年)10月1日に現名称へ変更された。

 

事業内容は多岐にわたっており、その基本は「人を通じた国際協力」である。JICAは日本国政府政府開発援助を執行する実施機関として、対象地域や対象国、開発援助の課題などについての調査や研究、JICAが行うODA事業の計画策定、国際協力の現場での活動を行う人材の確保や派遣、事業管理、事業評価などの役割を担っている。

 

JICAのミッション

JICAは、開発協力大綱の下、人間の安全保障と質の高い成長を実現します。

 

JICAのビジョン

信頼で世界をつなぐ
JICAは、人々が明るい未来を信じ多様な可能性を追求できる、自由で平和かつ豊かな世界を希求し、パートナーと手を携えて、信頼で世界をつなぎます。

 

JICAのアクション

  1. 使命感:誇りと情熱をもって、使命を達成します。
  2. 現場:現場に飛び込み、人びとと共に働きます。
  3. 大局観:幅広い長期的な視野から戦略的に構想し行動します。
  4. 共創:様々な知と資源を結集します。
  5. 革新:革新的に考え、前例のないインパクトをもたらします。

(2017年7月改訂)
(公式サイトより一部抜粋)

HP JICA海外協力隊