特集 奨学金問題を考える

学生の実態と不安

奨学金を借りている学生の実態を知るべく、入学前の家族との約束、日常的な学生生活、そして将来について(不安など)を、私立と国立、独自の給付奨学金、日本学生支援機構、独自の無利子奨学金を受給している2人の学生に、編集部からお話を伺いました。

金田一輝さん

金田一輝(かねだかずき)さん
慶應義塾大学理工学部4年生

入学前

金田さんは、給付型の地元の尼崎市神崎製紙育英奨学金を受給し、日本学生支援機構の奨学金も借りています。親御さんからは住宅費相当分のみの仕送りで、学費はすべて日本学生支援機構の奨学金、生活費は尼崎市神崎製紙育英奨学金とアルバイトで賄う約束です。

学生生活

奨学金がなくなると、金田さんは学費が払えなくなり、大学に通えなくなります。留年は絶対できないので、学業にも力を入れています。生活費はアルバイトで賄わないといけないので、授業のない日の前日に長時間バイトを入れて、何とか学業やサークルとの両立をしてきました。

4年生で理系研究室に所属しています。神崎製紙育英奨学金は返済不要なので、日常の生活費相当として大変助かっています。現状の暮らし向きは過不足なく、楽でもなく苦しくもなく普通と感じていますが、今後卒業研究で研究室が忙しくなると、アルバイト時間が確保できず、収入が減少する見通しで、工夫が必要です。

大学院入学

来年大学院入学予定。神崎製紙育英奨学金は学部4年間だけなので、家計収入がアルバイトのみとなりますが、研究室メインでアルバイト時間も確保できず、大幅減収への対応が必要です。但し大学院の学費は学部よりも年間50万円程安くなるので、親御さんとは家計収入にできないか話をしているところです。

将来

「就職への不安はあまりないが、660万円もの返済額を見るととても多いという感じがします。親が車1台買うのにもあんなに悩んでいるので。今は借金返済がなく収支トントンの生活をしていますが、卒業するとプラス・アルファの返済があることは不安です。

また20年という長期にわたり3万円前後の返済ですが、結婚して相手も奨学金を借りていたらダブルで返さないといけないし、自分だけが借りていて夫婦で返済だと、それで揉めないかという家族の問題としても不安です。

日本学生支援機構も無利子、有利子だけでなく給付型があるととても安心できます」

金田一輝さん ▼クリックで拡大

金田一輝さんの奨学金

金田一輝さんの返還金額
*月賦返還額はおおよその目安の金額。実際とは異なる場合があります。

金田一輝さんの現在の家計
*奨学金の金額は、日本学生支援機構の機関保証料7,434円を引いた数値。
*貯金繰越は、全額学費に充当。
(現実的には15万円収支構造の家計)

伊藤樹央さん

全国大学生協連全国学生事務局
伊藤樹央(いとうきお)さん
弘前大学人文学部2016年卒業

入学前

母子家庭の伊藤さんは、地元の無利子奨学金を借りられたので、日本学生支援機構の奨学金は借りませんでした。学費は半額減免制度の適用を受けて、残りの半額を母親が負担。仕送りはなく、奨学金とアルバイトで生活費を賄う約束です。

学生生活

1、2年の時は、学生委員会活動で忙しく、アルバイトをしないで、奨学金の範囲で生活。その時の支出は、貯金繰越無し、教養娯楽費・書籍費・勉学費・日常費・その他で表よりもマイナス1万円でした。3年になり、就活も考えてアルバイトを開始しましたが、制約もあって時間はあまりかけられませんでした。

生活実感としては、苦しく感じていて、無駄なお金を使わず、貯金は自然と貯まった金額で、何か必要なお金がある時にその貯金を取り崩していました。

将来

来年には東北地区の大学生協での就職が決まっています。将来の不安を尋ねたところ、「まず社会人のスタートから400万円弱の借金を返済することそのものに不安があります」「月々2万2千円は返せない金額ではないでしょうが、社会人になると学生時代と違うお金の使い方があるでしょうし、毎日の暮らしに余裕はないと思います。貯金もできないのではないか、という不安もあります」「車が必要な地方勤務になったり、また将来結婚や子育てでさらにお金が必要になるときに、この余裕のなさで対応できるのかどうか、とても不安です」と答えてくれました。

お二人のお話から

金田さんのように学費を奨学金で賄う学生は、返済金額も多額です。また二人とも生活費の為にアルバイトをして何とか暮らしています。

卒業後数百万円もの借金を抱えること、学生時代と違って返済しないといけないお金があること、そのものにお二人とも不安を感じています。さらに月々の返済ができたとしても、結婚や子育てなど家族を持つことでの新たな出費への備えができるのかどうか、の不安も強く感じています。

お二人とも奨学金があったから大学に通うことができていますが、ギリギリの生活では、本人や親御さんに何かあった場合に、学業継続ができなくなることも想定されます。

将来を担う大学生が、安心して大学生活を送っていけるように、金田さんも述べていますが、給付型など奨学金制度のさらなる充実は、日本社会の喫緊の課題です。

伊藤樹央さん ▼クリックで拡大

伊藤樹央さんの奨学金
但し支給は3カ月分=1回24万7800円を3カ月毎に振込

伊藤樹央さんの返還金額

伊藤樹央さんの家計