喜多さん:
受験の時から「将来こうなりたい」「こういう職業に就きたい」と具体的に将来の目標を決めて大学を受ける生徒さんが多いのでしょうか。
出光 直樹 学務准教授
出光さん:
今は「なりたい職業を考えてから大学を選びましょう」という進路指導が強く打ち出されているので、その様な枠組みで大学や学部を選ぶ生徒さんも多いですね。ただ、私はそれに対して少し懐疑的なところがありますね。なぜかというと、世の中には本当にいろいろな職業があって、医師とか看護師など資格がある職業はわかりやすいですが、たとえば、会社勤めのサラリーマンであっても社会にとって大切な仕事をしている訳で、でもそれは若い年齢で理解できるような仕事ではなかったりしますよね。まだ視野が限られた高校生のうちから無理矢理になりたい職業を決めるのではなく、「歴史が好きだから歴史を究めよう」とか「町歩きが好きだから地理学がおもしろそうだな」とか、自分自身の「好き」から考えるレベルで良いと思うんですよ。大学に入ってから、柔軟なカリキュラムを受ける中でいろいろと発見があったり、自分の柱となる価値観みたいなものが出来上がっていったりすると思うので、そういう経験の中から職業を決めていくほうがよっぽど意義があると、大学の現場の人間としては思いますね。
喜多さん:
少し安心しました。仕事って世の中にいっぱいあって、学部は関係なく就ける職業だってあるのに、なんで高校生の時点で職業まで決めて、進路を選ばなきゃいけないんだろう、なんで先に出口を決めてから大学を探さなければいけないのかと、疑問に思っていたんです。サラリーマンと一口にいってもいろいろな仕事がある、とか、名前も知らないような会社でも世の中に貢献できる面白い仕事がある、とか、もっといろいろな見聞を深めてから決めて欲しいと思っていたので、出光先生のお話を聞いてちょっとホッとしました。ありがとうございます。
出光さん:
たとえば、お父さん、お母さんって「身近な社会」の一つですよね。高校で生徒同士が、お互いのお父さん、お母さんがどんな仕事をしていて、社会にどのように貢献しているか、というのを紹介し合うだけでもいい体験になりますね。パイロットとか、消防士さん、警察官、医者や看護師さんを学校に呼んで話を聞くのも良いと思います。「社会の仕組み」や「働くリアリティ」を学ぶ機会って実は意外と身近にあるんですよね。こういう取り組みをしている高校も実際にあるんですけれど、まだほんの一部で、ほとんどの高校では「なりたい職業を考えてから大学を選びましょう」という課題しか与えられない。それなりに情報収集はできるでしょうけれど、子どもたちにとって仕事のイメージって具体的には湧きづらいですよね。
神津さん:
やりたいことや行きたい学部とかが全然決まっていない場合は、どういう風にして見つけていけば良いでしょうか。
出光さん:
何を学んだら良いか悩んでいる子って、学部の概要の説明を聞いてもピンとこないんですよ。だから私がおすすめするのは、模擬授業などで実際の学びの中身を体験してみること。模擬授業は、行きたい大学のものである必要はなくて、たとえば、たまたまどこかでやっている、行かないであろう大学の模擬授業でも良いわけです。今はオンラインでの配信もあるので、遠く離れた大学でも参加できますよね。たまたま心理学のオンライン授業をやっているから見てみようと、気軽にのぞいてみて、「ああ、心理学って面白いんだな」と思ったら、めっけものでしょう。また、オープンキャンパスなどに足を運ぶのも良いですね。実際に大学を見たり学校の空気感を感じたりして、なんか良いなとその気になれば、それで良いと思います。「まずなりたい仕事を考えましょう」で、良い大学が見つけられるケースもあるけれど、絶対にそれでは見つからないこともあるので。あまり一面的な進路指導に惑わされなくていいと、私は思いますね。本人が好きなこと、感じることを優先してあげてください。
鹿毛さん:
たしかに、体験することはとても大事ですよね。オンライン授業に出たとて、じゃあこれで一体何になれるのか、どんな授業でどんな知識を得て、どんな未来が広がっているのかと、その場で見出すのは難しいでしょうけれど、「この授業おもしろいな」「こんな世界もあるんだな」というのを肌で感じるだけでも良いんですよね。
出光さん:
そうですね。大学側ももっとオープンにできるような工夫をしていく必要があるとも思っています。先日、本学では卒業生を呼んで卒業後の仕事の話を語ってもらうオンラインでのライブ配信イベントを行いました。一応、受験生向けの企画として開催したのですけれど、卒業後のことって在学生や保護者にとっても関心のある事であり、もっと学内外の様々な関係者にお知らせできれば良かったなと思います。こうしたオンラインコンテンツは、YouTubeに上げるので、後で閲覧することもできるんですけど、ライブ配信でコメントや質問を受け付けながら双方向的にやるのが面白いのです。大学側としてはいろいろと興味深いコンテンツは用意しているのですが、まだまだ発信はまだ弱かったりするので、高校生や親御さんに有意義に利用してもらえるように大学側での努力も必要かと思っています。
鹿毛さん:
そうですね。もちろんやりたいことがあったり、興味があって自ら情報を拾おうとする子はいると思いますが、それは一握りで、その他大勢は何となく学校の先生の言うことを受け取るだけだったりするので。子ども側だけのせいにできないという部分もあって、やっぱり、大学もそうですけれど、親や周りの大人がどういう風に興味を持たせてわくわくさせるかという部分は大切になってくるなと感じました。
鹿毛さん:
大学に入って「ここじゃなかった」と、退学してしまう学生さんはどれくらいいますか。
出光さん:
横浜市立大学は、他大学に比べて退学する学生は少ないほうだと思います。ただし、好き好んで休学する学生は多いですね。
自主的に休学して1年間、公式の留学とは違う形で海外で学んだり、国内外でインターンシップなどに専念したりする学生が結構います。国公立大学は、おそらくどの大学も休学にお金がかからないので、それはすごく良い仕組みだと思いますね。卒業が1年延びたからといって、就活で何か不利になるわけでもないし。そういった体験ができることも踏まえて、大学選びは重要かと思いますね。
喜多さん:
休学という選択肢によって、より有意義な学生生活になることもあるんですね。そういう話を子どもたちや親が聞ける機会があればいいのにと思います。進路指導の保護者説明会だと「ここを受けるならこれくらいの点数が必要」とか「ここだったらこのレベルだ」みたいな話しか聞けないんですよね。子どもたちはもしかしたら、卒業生の話とかを聞いているのかもしれないですけれど、その情報は子どもから下りてこないので親は大学の概要的な情報しかわからないんですよね。保護者側も、もっと卒業生の話や具体的な情報を得られる仕組みがあると探し方の幅が広がるし、子どもへのコミュニケーションの仕方も変わってくるかなと思いますね。
出光さん:
横浜市立大学では何年も前から保護者会というのをやっています。コロナの影響でいったんオンラインに切り替えましたけれど、年に1回、保護者の方に来ていただいて、学部長の説明や在学生がキャンパスツアーをしたりする企画を行っています。地方の方も多いので、自分の子どもが行く学校はどうなんだろうと、結構みなさん、興味津々で来てくれますね。
なお、受験生向けの大規模なオープンキャンパスについては、今年も引き続きオンライン開催にしていますが、そのメリットを積極的活用しています。オンラインといっても、ただ説明や授業内容を聞かせるだけじゃなくて、文字入力のかたちで質問をその場で出してもらって、それに答えるっていう、ライブ番組っぽくやっているんですよ。100人、200人と聞いている中で、質問がぼんぼん来て、全部答えきれないくらい来るんですけど、双方向でかなり盛り上がりますね。これは対面開催のオープンキャンパスでは、なかなか出来なかった事です。
喜多さん:
楽しそうな雰囲気が伝わってきます。子どもたちにもそういう楽しい雰囲気を味わってもらって前向きな気持ちで大学を選んでもらいたいなと思いますね。逆に大学は、広く柔軟に子どもたちを受け入れてくださるんだなということがわかりました。
鹿毛さん:
今日はいろんなお話が聞けて良かったです。高校からの指導があって、がちがちに考えすぎてしまっているところもあると思うので、もう少し柔軟に考えていきたいと思いました。
神津さん:
そうですね。柔軟に考えれば良いんだなということと、大学入学後も自由な選択肢があることも本日の発見でした。理系か文系か取りあえず選んで、とか、なりたい職業から大学を決めなければいけないというようなことを植えつけられている感じがあったので、もっと広い視野で見ていくようにしたいと思いました。ありがとうございました。
2022年8月7日TKPガーデンシテイ横浜カンファレンスルームにて開催
竹之内専務理事
横浜市立大学生協は、横浜市立大学の教職員・学生の勉学に必要な福利厚生を担っている組織です。大学に寄り添い、学生の声を聞きながら、運営をしています。新入生に対しては、商品面そして生活面でのサポートをしています。特に横浜市立大学は、オンライン授業もあり、パソコンが必携化されましたので、授業にどれくらいのスペックが必要か、オンライン授業への不安など、学生の声を聞きながら、商品の充実化を図っています。詳しくは下記横浜市立大学生協の「受験生・新入生応援サイト」をご覧くださいますようお願い致します。