【特集】学生の食生活を支えるための resilienceレジリエンス

コロナ禍の食生活を支える生協食堂

学生参加ですすめる立命館生協の新たな試み

立命館大学の衣笠キャンパスを中心に、今、新たなムーブメントが起こり始めています。それは学生たちと大学生協のマッチアップによる学生食堂の新たな試みです。コロナ禍がもたらした学生たちの食生活の困窮と、改めて芽生えた食への意識向上。大学だからこそ、きっと食から学ぶべきことは、もっとある。立命館大学の学生たちと大学生協が目指す新たな学生食堂の姿に迫ります。

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コロナ禍の苦境から生まれた学生食堂のresilienceな取り組み

2020年4月、例年であれば新たなスタートに心躍らせる新入生たちがそこかしこにあふれ、はじけるような笑顔で埋め尽くされる立命館大学の衣笠キャンパス。しかし、この年、新型コロナウイルスの感染拡大により予定されていた入学式は中止となり、春セメスターの大半の期間はオンライン授業を中心とした学生の登校がない、いつもとは異なる閑散とした風景が広がっていました。それでも秋セメスターからは、キャンパスのBCPレベルに応じて対面授業が徐々にはじまり、生協食堂でも学生の登校状況に応じた、100円朝食を含む、朝昼夕の三食対応を再開してきました。感染のさらなる拡大で再びオンライン授業が基本となった場合においても、営業店舗・営業時間を限定しながら食堂の営業の継続に取り組んできました。 現在、新型コロナウイルスはまだまだ予断を許さない状況ですが、こうした中で今注目されているワードが「resilience(回復力、復活力、立ち直る力)」です。言い換えれば、これは新型コロナウイルスの感染拡大という困難な状況を受け入れ、また乗り越え、新たな歩みを進めていこうとする意志。立命館大学の各キャンパスでは、長期化するコロナ禍のもとで学生参加の「resilience」な取り組みが始まっています。

学生たちの提案をきっかけに考えた学生食堂の新たな可能性と役割


帰省できない下宿生を対象にGW期間中も食堂を特別営業(2021年5月)(父母教育後援会の支援で、4割引の特別価格でメニュー提供)

大学生協の大きな使命の一つ、それは食堂の運営を通じて、「学生の食生活を支える」ことです。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、キャンパスへの入構が制限され、オンライン授業が中心の期間は、キャンパスへの登校頻度が大きく減少することとなりました。 2020年5月に実施した学生生活アンケート(回答数1546名)には、「アルバイトがなくなり経済的に厳しい。1日1食ですごしている」「学食が利用できないのできちんとした食事がとれていない」などの切実な声が数多く寄せられました。そして生協に寄せられた要望の大半を占めたのが「学生食堂の営業を再開してほしい」というもので、とりわけても下宿生の食生活において生協食堂の果たしている役割と期待の大きさを実感する結果となりました。

食を通じて増える学びの機会 これまでの学生食堂を超える学生食堂へ


100円朝食は、2020年秋セメスターから再開(オンライン授業が基本の期間は昼食営業に限定)

現在、立命館生協では、学生団体「AndField」による〈AndRice〉をはじめ、6名の学生による「ヴィーガンフェア」、立命館大学の課外プログラム「チャレンジ、ふくしま塾。」による「福島はらくっちフェア」といったさまざまな取り組みを行っています。特筆すべきは、そのすべてが学生発信による企画であるという点です。新型コロナウイルスの感染拡大は学生たちの心身の健康に大きな影響をもたらしましたが、一方で学生たちの食に対する高い意識を醸成したとも考えられます。とかく「食育」というと、幼い子どもを対象としたものと考えられがちです。しかし、今こそ大学にも食育が必要なのではないか、と思うのです。大学における学生食堂といえば、とにかく手頃な値段でおなかを満たす(もちろん栄養学的な配慮はされてきましたが)ことに主眼が置かれていたように思います。 心身の健康において食がどれほど大切か、その一食にどれほどの人がかかわっているのか、自身の食が地球環境にどのような影響を与えるのか、食を通じて学ぶべきことは少なくありません。これまでの学生食堂を超える学生食堂へ。学生の参加がresilienceを高めていくうえで大きな役割を果たしています。

食を通じて、学び、考えることを伝える価値あるチャレンジ

立命館大学の生協食堂では、これまでにさまざまなチャレンジが行われてきました。ここにご紹介させていだたく3つのチャレンジは、そのほんの一例。
チャレンジ①の「ヴィーガンフェア」では食がもたらす環境への影響を、チャレンジ②の「食材セット〈AndRice〉」では心身の健康とフードロスを、チャレンジ③の「福島はらくっちフェア」では福島の現状への理解と行動を、それぞれ食を通じて学び、考える機会を提供しています。

ヴィーガンフェア 学生6名による共同プロジェクト


学生自ら制作したポスターと学生団体 LiNK のメンバーたち・生協食堂店長と共に

大切なのはちょっとした意識の変化
グローバルな課題に食を通じて取り組む

ヴィーガニズムという考え方があります。これは、人間は可能な限り動物を搾取することなく生きるべきであるという主義のことです。世の中には、健康的な理由や宗教的な理由で、食に制限を課している人たちがいます。また、動物愛護や生命倫理の観点からプラントベースの食を志向する人たちもいます。さまざまなバックボーンを持つ人がいるように、今や食も多様化の時代です。ヴィーガンフェアはこうした食の多様化を考えるきっかけの一つとして、さらには環境問題や資源問題に食を通じてアプローチできることを知る機会を提供するために、有志の学生と学生団体LiNKによって共同で企画された食のイベントです。近年、2015年の国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)が注目され、世界中の国や企業がこぞってその達成のためのコミットメントを発表しています。しかし、それは何も国や企業だけの問題ではなく、私たち一人一人の問題でもあるのです。ヴィーガンフェアは、食の選択を少し変えるだけでSDGsに貢献できることを体験してもらう機会となっています。 メニューの開発には、立命館生協の調理担当者や管理栄養士も参加。グローバルな課題に食を通じて取り組む学生たちの活動を支援しています。

(左上)試作段階のソイミート唐揚げについて意見を交わす学生とスタッフ
(左下)ポスターやメニューに掲載する写真も自分たちで
(右上)プラントベースの食材でつくられたマフィンは、フェア2日目にして完売の人気ぶり

食材セット〈And Rice〉 学生団体And Field


メニューは、「ジャーマンポテト」「ほうれん草胡麻和え」「白菜入り肉団子」の3種類

自炊の負担軽減と栄養バランス
いずれは、フードロスの解消にも貢献

自炊に不慣れな学生でも簡単に調理できる食材がセットで売られていたら…。このプロジェクトの始まりは、コロナ禍で時間を持て余していた学生団体「AndField」の代表が大学の授業の基礎演習で考案したアイデアだったといいます。当初は担当教授のアドバイスのもと、代表が一人でプロジェクトを進めていたのだとか。食材の調達はどこからしたらいいか、売る場所はどこにすればいいか、販売のための許可はどうしたらいいかなど、クリアすべきハードルは決して低くはなかったといいます。その後、活動に賛同する仲間を得て、立命館生協に企画書を提出。 大学生協の調理担当者と管理栄養士の協力を仰ぎ、下宿生の自炊負担の軽減と栄養バランスの改善を目的とした食材セット〈AndRice〉が開発されました。AndRiceというネーミングには、「ご飯と一緒においしく食べてほしい」という意味があるのだとか。現在メニューは、「ジャーマンポテト」「ほうれん草胡麻和え」「白菜入り肉団子」の3種類で、2021年11月24~26日の初回販売は完売。学生たちの評判も上々で、さらなるメニューの拡大も予定されています。 今後は農家で発生する廃棄生産物の有効活用にも取り組み、フードロスの解消に貢献していきたいといいます。

食材セットの分かりやすい解説書レシピは、オンライン上で公開しています。

チャレンジ、ふくしま塾。
福島はらくっちフェア
 課外プログラム


福島の産業を支援する福島フェアのポスターには、地元のグルメが満載

福島のおいしいもので「はらくっち」
福島の今に思いを寄せる

東日本大震災から10年が経過した福島には、復旧・復興が進む一方で、いまだ残された課題や年月を経て新たに生まれた課題、またそれによって苦しむ人々の存在があります。「チャレンジ、ふくしま塾。」は立命館大学の学生たちと、福島や震災からの復興に関わる教員や専門家とともに学び、発信活動に取り組む課外プログラムとして福島県庁と立命館大学が連携してスタートさせました。 「福島はらくっちフェア」は立命館大学のより多くの学生たちに福島の現状について興味を持ってもらう発信・啓発活動の一環として、立命館生協との共催によって実現したイベントです。 「はらくっち」とは、福島の方言で「いっぱい食べたから、満腹になった」という意味。そんな福島のおいしいものがたくさん集められた食堂や売店は、開催期間中、多くの学生たちでにぎわったといいます。 有名な喜多方ラーメンをはじめ、福島ではこれが定番の福島ソースカツ丼、上品な味わいの福島の郷土料理こづゆなど、食堂には豊富な福島メニューをご用意。おいしさに舌鼓を打って「はらくっち」になるだけでなく、終わらない震災を抱える福島の今に思いを寄せることで、新たなアクションを起こすきっかけになることが期待されています。

福島のことをもっとよく知ってもらおうと、ふくしま検定という企画も実施