四角大輔さんインタビュー「人が生み出みだすべき力を持続可能性へ変える」

元ソニーミュージックの音楽プロデューサーで、現在はニュージーランドに移住し、執筆家としての活動や企業・団体のアドバイザーとして活動している四角大輔さんにインタビューしてきました。ニュージーランドで見つけた持続可能性と、日本が今取り組むべきこと、若者が持っている力などについて、その想いを聞いてきました。

インタビュイー

四角 大輔さん
(執筆家)プロフィール

インタビュー

  • 小島 望
    (全国大学生協連 学生委員長)

持続不可能への気づき

「持続可能な社会を目指すために若者ができること」としてお話をしていきたい。最初に四角さん自身について、お仕事やその経緯も含めて聞きたいと思います。

学生時代は映像ジャーナリストになりたくて勉強していた僕は、紆余曲折あって、新卒からレコード会社で15年働き、後半の10年間は、音楽アーティストのプロデューサーをしていました。

プロデューサーというのは、音楽アーティストのクリエイティブ、ブランディングとマーケティングの責任者のこと。

まずレコーディングして音を創り、それをCDジャケットやミュージックビデオといったビジュアルにする。その次に、それらをどうメディアで展開していくか戦略を練ります。ウェブやテレビ、ラジオや雑誌、またはコンビニや交通広告などでどう宣伝していくかを考えるのです。

スタジオで生み出されたばかり音楽は、ものすごい熱量を放っていて、まさに彼らの魂のかけらと言ってもいいでしょう。でも、音楽も アーティストの熱も目に見えないので、目で見られるようビジュアライズする必要があるということです。次に、それを世の中に届けるべくメディア戦略を徹底的に練ります。

メディアで宣伝してて終わりではなく、最後にお店でどう売るかもプラニングしないといけません。例えば、タワーレコード渋谷店の一階のどのスペースを取るべきか、そこでどういう風に見せるのか、などですね。

こうやって、「0から1」を生み出すクリエイティブと「1を100」にするブランディングとマーケティングの両方の責任を担うことで、ユーザーに音楽に触れてもらうだけでなく、最後に購入してもらうまでの全行程に関わっていました。

僕は、この「トータルプロデュース方式」に強いこだわりを持っていたのですが、その理由は、全てを一人で統括することで、担当する音楽アーティストのブランドに一貫性が生まれるところにありました。

でも今から20年近い前の当時、このやり方は欧米では一般的でしたが、日本ではまだマイノリティだったことを思い出します。

2009年、レコード会社をやめる直前、ぼくの本を出したいとオファーをくれた出版社から「プロデューサーとしての実績をわかりやすく数字に表してほしい」と言われて計算したら、ぼくが手がけたCDの売り上げが2000万枚を超えていたことを知りました。

これはビジネスの世界では賞賛されてしまうけど、2000万枚のCDとはプラスチック製品です。CDは土には還らない上に、複雑な化学物質が混ざっているためリサイクルもできません。そんなものを日本中にバラまいたことに、複雑な感情を抱いていました。

プラスチックのことは今まさに重大問題と言われていますが、誰もが昔からわかっていたこと。ぼくを含む大人たちが、それを見て見ぬふりをしてきてしまった。これに限らず、先送りにしてきた問題が他にも山ほどありますよね。

ぼくの作品単位での最高記録は、CHEMISTRYのアルバムで320万枚というメガヒット。でも、あまりにもすごい数字なので怖くなった。買ってくれた320万人という人が、購入後にどういう行動をとっているか知りたいと、ある分析機関にお願いしたのですが。分析結果を見てショックだったのは、封も開けていない人が何人かいたということ。

みなさんは、買ったけど封も開けずに家に置いているものってありますか?

DVDは、見るのに時間がかかるので、すぐには開けないことが多いかもしれない

アルバムCDってちゃんと聞こうと思ったら1時間くらいかかる。その時ふと思ったのは、その人たちが、なんで買ったんだろうってこと。

当時のCHEMISTRYは、デビューからシングルの全てが大ヒットしていたし、テレビでは高視聴率を取っていたから、アルバムは絶対売れると確信していたので、日本中をジャックすべく、億単位の宣伝予算を確保したんです。

CHEMISTRYの曲が、日本中のラジオ、有線、コンビニで流れている。テレビをつければ必ず出てくるし、あらゆる新聞や雑誌にも載っていて、道路わきにも電車内にも広告がある。ふらっとCD店に入ったら彼らのアルバムが山積みになってる。

そうやって、職場でも学校でも「遂にCHEMISTRY のファーストアルバムが出たね」という話題がのぼるべく、超大規模なマーケティングを仕掛けました。そうすると、「そんなに欲しくないかもしれないけど、みんな持っているから買おうかな…」って思っちゃうんですよね。

でも、僕こそがその仕掛人だった。
僕はただ「自分が心から惚れ込んだアーティストの想い、作品をできる限り多くの人に届けたい」、そして「それをやるにはどうしたらいいのか」を必死になって考え抜いて行動しただけ。

たとえ、そういう気持ちがベースだったとしても、買ったのに封も開けられないなんて、買った人も、アーティストも、僕自身も不幸だなと思ったんです。そして資源の無駄だし、地球環境にとっては特に不幸なことだなって。

CDって、プラスチックのラミネート包装がされ、沢山の貴重な紙を使ったブックレットも入っている。実は東京では、CDの盤自体を「燃えるゴミ」に分類することになってます。たぶん他の大都市も同じ。悲しいことに、リサイクルできないから燃やすしかないんですね。

CHEMISTRYはその後、3つのミリオンヒットを記録し、その後も自分が手がける絢香やSuperflyなどがブレイクするたび、嬉しい反面、いつもチクチクする想いに駆られていました。