四角大輔さんインタビュー

ニュージーランドでの気づきと社会を動かす力

ニュージーランドでの気づきがたくさんあると思う。日本では気づけないこと、刺激されたことはあるか

僕が暮らすニュージーランドはサスティナビリティ先進国です。

電力は、再生可能エネルギーが80%を占め、原発ゼロで放射能の研究も禁止されているので、完全放射能フリー。火力発電所が事実上認められないため、新しい発電所を造るならグリーンエネルギーしかないんです。ここ最近では地熱発電所がどんどんできている。

エネルギーもほぼ自前で、食料自給率は400%で水も豊富に湧いています。そういう意味で、ニュージーランドは他国に頼らず、インディペンデントになれる。だから、大国に振り回されたり、依存しなくて済むので、自分たちの好きなように国や社会を運営できるんです。

残念ながら日本は、食もエネルギーも自給率が低いため、他国に頼らないといけない。だから政府も経済界も外圧に弱く、いつも大国やグローバル巨大企業の勝手な都合に振り回されてしまいます。

ニュージーランドの社会は、マイノリティに対してとても寛容です。
手話と先住民マオリ語が公用語になっていたり、同性婚も法的に認めています。特に、女性の社会進出がすごい進んでいて、政治家に多いことはもちろん、社会的地位の高い職や、企業の重要な役職で多数の女性が活躍しています。

女性の参政権を認めたのが何と今から120年も前で、ニュージーランドが世界初でした。歴史上3人目の女性首相のアーダーンさんは、37歳の若さで当選した直後、妊娠を発表して産休を取ったんですが、その直後の世論調査で支持率が4%上昇(笑)。そういう社会なんです。

この国では、女性がめちゃ強いと言われているけど、僕に言わせるとこれくらいでやっと男女平等に近づいた感じ。そもそも地球上にはずっと、男女が同じ数いるのにずっと女性がマイノリティ扱いされて、差別されていることがおかしなわけで。

ニュージーランドの一番の特徴は、女性的な発想やアイデア、理念や哲学が国や社会運営に活かされている点です。世界史を見ても、戦争、略奪、虐殺、搾取、自然破壊を起こしてきたのは、全て「男性脳」です。

「女性脳」以外だと、地理的な理由も今のニュージーランドを創ってきたと言っていいでしょう。この島国はどこからも遠いため、昔は輸送にとんでもない時間と莫大なお金がかかりました。だから、貿易やトレードで解決しようとするのではなく、この地にすでにあるものをどう循環させて生かせるかを考えてきました。

リサイクルやアップサイクルは昔からあたり前で、市民の習慣になっています。そういった新規ビジネスが多くあり、廃材などを使って作品を創るアーティストや建築家が多数いるのが特徴です。

プラスチック問題解決にも積極的で、早くから「プラスチック禁止」を宣言する市町村が存在し、今やレジ袋は全国チェーンスーパーで禁止され、カフェでプラスチックストローがどんどん消えて、紙か鉄のストローになっています。そもそも法制化される前から、多くの人がエコバックを持って買い物をしていたし、ストロー禁止運動も市民発でした。

そういったニュージーランドのことを詳しく紹介した僕の本『LOVELY GREEN NEW ZEALAND 未来の国を旅するガイドブック』が昨年発売になったばかりなので、よかったら手に取ってみて下さい。

もちろん、ニュージーランドもまだまだ未熟な国でダメなところだらけ。たくさんの社会課題を抱えています。過去も今も、それらとどう向き合うか、どう解決するかに苦しみ、努力してきました。でも、社会と国を動かしてきたのはいつも市民でした。

そして、上で話したように、世界では市民こそが大企業を動かしつつあります。しかも次世代の人たちが今まで以上に大きな行動を起こしています。いつの時代も、どこでも世論こそが本当はもっとも強いんだということを僕は言いたいのです。

現代人の暮らしの中心にある経済と社会の全てが、地球環境に依存しています。
でも、これまでは、市民と社会が変わりつつあっても、経済界はまったく本気でアクションを起こそうとしませんでした。

しかし、国連が定めた「SDGs(持続可能な開発目標)」を各国の政府が目指すようになり、アクセンチュアという世界最大の経営コンサル会社が「サーキュラーエコノミー」という循環型経済を提唱したことから、いよいよ経済界も変わろうとしています。

これまでは企業は、リサイクルを推進したり、環境問題へのアクションは、CSRとして企業のPR的な考え方で行なってきました。ですが、いよいよ資源が枯渇してきたことから、あらゆる原材料が高価になり、これまで廃棄していた素材を再利用したほうが企業にとっても効率的であるというビジネス理論が「サーキュラーエコノミー」なんです。

まさに、企業としても持続可能な経済活動と成長が可能ということになります。これによって、利益追求しか頭になかった経済人たちが動き始めてる。儲からないと意識を変えられない人たちですから、これまでどんな理念や想いを伝えても反応しませんでした。だから、これはとてもいい動きだと僕は思っています。

さらに、環境への意識が高く、市場を大きく動かしている感度が高くセンスのいい次世代は、本気で環境問題に取り組むメーカーやブランドを高く評価します。その「世論」に気付いた企業は、よりそっちに舵を取ろうとします。

若者へのメッセージ

最後に、若者に向けたメッセージをお願いします。

さて、僕は今年49歳になりました。
そんな僕が、ニュージーランドで10年暮らし、世界60ヶ国を旅してよくわかったのは、日本はとても恵まれているということ。

途上国に行けば、明日どう生きるかで頭がいっぱいで「社会課題を解決しないと」なんて余裕はありません。ましてや、僕らからそんなこと言えるはずもない。他の先進国と比べても、日本はトップクラスに豊かです。だから僕らには、環境のことや世界のことを考える余裕があるはずだし、考えないといけないと思うようになりました。

行った先では必ず、サステナブルな取り組みに挑戦している生産者さんや活動家、お店や団体、企業や街を視察したり取材してきました。そんな最先端の場所で必ず出会うのは、若い人たちです。

そうやって彼らとコミュニケーションをとってきたけど、僕に言わせると、実は日本の若者の感性こそが一番イケてるんです。一番まっすぐでクリエイティブなんです。

もっというと「考えないといけない」じゃなくて、「そう考えることがあたり前」だととらえているから頼もしい。だから、僕がわざわざ言わなくても大丈夫だと思いますが、世界的に見てとても幸運な自分たちだからこそ、社会的な活動をする責務があると思ってもらいたいなと願っています。

繰り返しになりますが、そういった意味で10代20代のみなさんに、ぼくは強い希望を持っているのです。

でも、それと同時に、僕らいい大人も頑張らないといけない。
これまでのことを償うだけでなく、プラスに持っていくべく大きな努力をしないといけないと思っています。だから、僕も頑張ります。だから、大人たちのことも見捨てずにいてほしいですね。

このインタビューを読んでくれたあなたが、もしそういう環境のためのアクションを起こすなら、ぜひ協力したいのでいつでも連絡を下さい。

今日は長い時間ありがとうございました。

PROFILE

四角大輔(Daisuke YOSUMI)

ニュージーランド在住の執筆家/原生林に囲まれた湖の畔でのサステナブルな自給自足の暮らし/オシロ(株)共同代表/the Organic 副代表/国際環境NGO〈Greenpeace〉オーシャンアンバサダー/PEACE DAY財団理事/環境省 森里川海 アンバサダー及び、SDGs〈ウィルプレナー〉メンター/著書に『人生やらなくていいリスト』『モバイルボヘミアン旅するように働き、生きるには』『LOVELY GREEN NEW ZEALAND 未来の国を旅するガイドブック』『バックパッキング登山入門』『自由であり続けるために20代で捨てるべき50のこと』など/レコード会社プロデューサー時代、10度のミリオンヒットを創出/オンラインサロン〈LifestyleDesign.Camp〉主宰/公式メディア〈4dsk.co〉Instagram:4dsk.co