座・対談
「『人生は一度きり』にしないために小説がある」道尾 秀介さん(小説家) P2


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4.音楽と小説と

田中
 道尾さんは音楽活動もされていますよね。音楽活動を始めたきっかけは何でしたか。

道尾
 10代からずっとメタルバンドを組んで、ライブをやっていました。それがいつのまにか仕事になった感じですね。中学生のときにエレキギターを買って練習していて、ある程度できるようになると人に見せたくなって、バンドを組んだのが始まりです。

田中
 エレキギターを始めてからずっと続けてこられて、途中でやめようと思ったり、小説に専念しようと思ったりしたことはなかったのでしょうか。

道尾
 音楽はそもそも趣味でやっていたので、難しいことは考えたことがないです。楽しいからやっているという感じで。ただ、今音楽を仕事としてできているのは、ずっと好きでい続けてきたお陰かなと思っています。

田中
 音楽活動が小説に影響していたりはしますか。

道尾
 僕は音楽も小説も、サビがあるものが好きなんです。中でも、サビで終わったと思ったら転調してくるみたいなものが好き。長編小説を書くときには、それを意識しています。仕掛けが明らかになるところがサビで、そこから転調して大サビが来る。好きな曲と好きな小説は似ていますね。何を作っても、好きなものというのは変わらないのかも。

田中
 道尾さんは「名前」という映画の原案を書かれるなど、映像作品にも関わっていらっしゃいますが、音楽・映像・小説と携わられている道尾さんの立場から見て、小説独自の良さというものは何だと思いますか。

道尾
 僕は映画も好きなんですが、映画は「見るもの」だと思っています。一方で、読書は「体験するもの」というイメージがあります。人生は一度きり、なんてよく言いますが、それをそうじゃなくするために小説があるのかもしれないと、いつも小説を書きながら考えています。主人公を自分と全く違う人にすると、思いもよらない比喩が出てきたりして、2回も3回も生きているような気分になります。それをうまく伝えることができれば、読者も同じ体験をしてくれるはず。それが小説独自のすばらしさだと思います。

田中
 自分がその世界に入り込むことができるというのは、私もすごくそう思います。あとは個人的にですが、小説は前に戻って読み返すことがしやすいのも良いと思っています。

道尾
 ただ他のメディアと比べると、読んだり読み返したりするときの時間と労力がかかるのも小説ですよね。デメリットではないけれど、それをいかに感じさせないようにするかが、大事なところであり難しいところであると思っています。

 

 

5.これからも


田中
 年末に新しい連載が始まるとのことですが、どのような小説になりそうですか。

道尾
 年末に始まる連載は『カラスの親指』(講談社文庫)の続編です。10年ぶりくらいに主人公たちに会って、やっと再会できたなという感じ。書いていて本当に楽しい。でも続編というのは、前作よりつまらないということが絶対に許されないので、かなり気合を入れています。

田中
 続編を書こうと思ったきっかけは?

道尾
 僕自身もう一度『カラスの親指』の主人公たちに会いたいと思ったし、会いたいと言ってくれる方もたくさんいたからです。それと、玄侑宗久さんがこの前『竹林精舎』(朝日新聞出版)という小説を上梓されたんですが、これが僕の『ソロモンの犬』(文春文庫)の続編なんですね。自分の物語の続編というものを、そのとき生まれて初めて読んで、もう一回会えるっていいものだなと思いました。それも影響していますね。ちなみにタイトルは「カエルの小指」です。良いものができつつあるので、期待してください。

田中
 楽しみです! 続編以外で、今後チャレンジしたい作品やテーマはありますか。

道尾
 今後も変わらずです。「こんな本があったらいいな」を書くという自給自足的なところをベースに、『カラスの親指』の続編もそうですが、多少のショーマンシップを発揮して「僕のどんな小説を読みたいのか」を書くときに感じるようにして、それを取り入れるようにもしていこうと思っています。

田中
 個人的に『ノエル』(新潮文庫)に登場する童話がとても好きなのですが、『緑色のうさぎの話』(朝日出版社)のような絵本や児童書などを書かれる予定はありますか。

道尾
 ああいった世界が好きなので、必要に応じて書きたいなとは思いますね。でも『ノエル』を出版してしまっているので、作中作で童話を出すというのは、しばらくは書かないかなとも思います。やったことがないことをやりたいので。でも、いつか子ども向けの本を書いてみたいなとは思っています。話があればやるかもしれないですね。

田中
 最後に、ご自身が大学生のときに何かこうしておけばよかったということなどがあったら教えてください。

道尾
 今すごく納得のいく仕事ができているから、自分が大学生だったときのことを振り返っても、こうしておけばよかったというのは何もないんです。全部役に立っていると思っています。でも当時は「昨日あんなことしなければよかった」「おとといあんなことを言わなければよかった」ということばかり考えていました。それが後悔のままだったら荷物が増えていってしまうけど、後悔ではなくすることができたので、小説を頑張ってきて良かったと思っています。

田中
 今日はありがとうございました。

 
(収録日:2018 年11月8日)
 

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道尾秀介さんのお話はいかがでしたか?
道尾さんの著書『スケルトン・キー』(角川書店)サイン本を5名の方にプレゼントします。
下記のアンケートフォームから感想と必要事項をご記入の上、ご応募ください。
プレゼントは2019年1月31日までに応募していただいた方が応募対象者となります。
当選の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

 

対談を終えて

高校生の頃から読み始めて、ずっと疑問に感じていたことや感想をご本人の前で伝えられることはすごく贅沢な時間だなと思いました。道尾さんの小説には伏線や描写が本当に細部まで作りこまれていて、驚嘆してしまいました。特に臨場感と違和感のバランスを取るのが難しかったというお話は印象的でした。年末から始まる連載が楽しみです! 最後になりますが、高校生の私に道尾秀介さんの作品を勧めてくれた母と、このような機会をいただいた『izumi』と道尾さんに、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

田中 美里
 

P r o f i l e

道尾 秀介(みちお・しゅうすけ)
1975年生まれ。2004年『背の眼』(幻冬舎)で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。05年に上梓された『向日葵の咲かない夏』(新潮社)が08年に文庫化され100万部を超えるベストセラーに。07年『シャドウ』(東京創元社)で第7回本格ミステリ大賞、09年『カラスの親指』(講談社)で第62回日本推理作家協会賞、10年『龍神の雨』(新潮社)で第12回大藪春彦賞、『光媒の花』(集英社)で第23回山本周五郎賞を受賞。11年、史上初となる5回連続候補を経て『月と蟹』(文藝春秋)で第144回直木賞を受賞。他に『鬼の跫音』『球体の蛇』『透明カメレオン』(以上、角川文庫)、『スタフ』(文藝春秋)、『サーモン・キャッチャー the Novel』(光文社)、『満月の泥枕』(毎日新聞出版)、『風神の手』(朝日新聞出版)など著作多数。最新刊は『スケルトン・キー』(角川書店)。

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