わが大学の先生と語る「安達先生の推薦図書」


『一千一秒物語』
稲垣足穂
新潮文庫/本体670円+税

無限に広がる宇宙のカラクリの中で、人間の「自由意志」は時の刻みの誤差にも満たない。この目に捉える、この手で掴む、といったことの不確かさには太刀打ちできないが、自然や宇宙と戯れることはエキサイティング。


『もし、赤ちゃんが日記を書いたら』
D.N. スターン<亀井よし子=訳>
草思社/本体1,600円+税

世界との初めての出会い、原初的な感覚と知覚。その体験世界は、私たちの言葉や想像を超えて豊かで律動に満ちている。律動の調和は喜び、崩れは消沈となり、まるでダンスのよう。かつての私たちと出会う新鮮な驚きと郷愁。


『メメント・モリ』
藤原新也
朝日新聞出版/本体1,500円+税
私たちの言語は、私たちの感覚や知覚に及ばない。言語は私たちが切り取る世界に限定をかけてくるが、私たちの本質は、自然と同様、自由である。言語の檻を言語で脱けようとするニンゲンは犬に食われるほど自由だ。
 

『マルドロールの歌』
ロートレアモン<栗田勇=訳>
角川文庫/本体580円+税
言語は意味だけで成り立ってはいない。言語には言葉の肌触りと言葉がぶつかり合う衝撃と言葉が連なり流れるスピード感がある。言葉は聴くことをその本来とし、音楽に似る。
咆吼を奏でる言葉の海に巻き込まれる感覚。
 

『地獄の季節』
アルチュール・ランボー<粟津則雄=訳>
集英社文庫/本体429円+税

ごろごろと転げ回るほどの苦しみの中で動けないときにこそ、聴きたい言葉や音楽がある。放浪に破れ、放浪に駆られて進むべき途を見失い、八方塞がりで転げ回る。そんな石には苔はつかない。若き日の救済は劇薬に似る。


『生物から見た世界』
ユクスキュル、クリサート<日高敏隆・羽田節子=訳>
岩波文庫/本体720円+税

私たちの目に映る世界だけが「世界」ではない。さまざまな生命体が存在し、その環境との知覚-行為循環が、世界をさまざまに現す。その意味で、私とあなたは異種として存在し、コミュニケーションする動物となった。


『メンタライジングの理論と臨床』
J.G. アレン、他=編著<狩野力八郎=監修・上地雄一郎、他=訳>
北大路書房/本体5,000円+税

世界の切り取り方が柔軟さを失い、問うことに囚われて、問うことを繰り返し、問いは解かれぬままで、心はひどく消耗する。互いの心を心で俯瞰する対話は、問うことに一時停止ボタンを押し、柔らかな視点を回復する。


『自閉症の謎を解き明かす』
ウタ・フリス<富田真紀、清水康夫、鈴木玲子=訳>
東京書籍/本体2,500円+税

世界は変化する。だから感覚の混乱と知覚・認知の断片化は、世界の切り取りに同じ結果を与えない。世界の不安定さは、変化なき世界を求め、私たちは隔てられる。だが、互いの目に映る世界の異なりを知れば、互いの世界を繋ぐ形が見えてくる。

P r o f i l e

安達 潤 (あだち・じゅん)
1960年生まれ、兵庫県出身。
北海道大学大学院教育学研究院 特殊教育・臨床心理学教室 教授。
1992年北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程 単位取得退学。
1992 年より社会福祉法人旭川荘旭川療育センター児童院 療育主任、2002年より北海道教育大学旭川校臨床発達専攻 特別支援教育分野 准教授、2009年より同大学同専攻同分野 教授を経て、2015年より現職。専門は認知心理学・臨床心理学・特別支援教育。

■著書・論文
主な著書に『発達障害の臨床的理解と支援 第3巻 学齢期の理解と支援』(編著 金子書房)、『発達障害の臨床心理学』(共著 東京大学出版会)、『発達障害支援の現状と未来図』(共著 中央法規出版)、『発達科学ハンドブック 7 災害・危機と人間』(共著 新曜社)、論文に「アイトラッカーを用いた高機能広汎性発達障害者における会話の同調傾向の知覚に関する実験的検討」『児童青年精神医学とその近接領域』53(5),561-576,2012 など。

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