いずみ委員・スタッフの 読書日記 157号 P2


レギュラー企画『読書のいずみ』委員・スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 山形大学3年
    片山凜夏
    M O R E
  • 愛媛大学2回
    河本捷太
    M O R E
  • 東北学院大学4年
    母里真奈美
    M O R E
  • 広島大学M1
    杉田佳凜
    M O R E

 

 

東北学院大学4年 母里真奈美

おにぎり巡りの日

 今日は米の気持ち。
 どうしても米じゃないとダメな時がある。そんな時はパンでもうどんでもパスタでも満足できない。今日のお昼は絶対に米を食べないと。『家守綺譚』(梨木香歩/新潮文庫)を読んだことが影響しているのかもしれない。本書は「私」と人間ではないものとの遭遇を描く。例えば、庭のサルスベリに好意を寄せられたり、失踪した親友が家の掛け軸から現れたり。日常生活ではありえない。と、言ってしまえばこの作品の魅力は消え失せてしまう。人間ではないものがいたら面白い。という好奇心を大事にして読みたい本だ。流れる日本の四季とともに描かれるこの作品に、私の中の日本人の血が騒ぎだした可能性がある。とにかく今日はお昼に米を食べる。グルテンフリーを決意した私は、私の今の気分にぴったりのおにぎりを求めてコンビニを回った。3〜4軒のコンビニに行った気がする。ちなみに、気に入ったおにぎりがなくても、お菓子をひとつ買って店を後にしている。私は感じの悪い客ではないから、コンビニでバイトしている全国の方々、安心していただきたい。結局、運命のおにぎりは見つからなかったけれど、今日はコンビニ限定お菓子の種類に詳しくなった。傍から見たら、お菓子巡りの日。
 

新じゃがの来ない金曜日

 パン粉をまとったマッシュポテトをフライパンにのせる。火にかけてパン粉に焦げ目がつくまでの間、少し待つ。その隙に『猫の事務所』(宮沢賢治/偕成社)を台所で立ち読み。宮沢賢治が考えるでくの坊とはどんな人だろう。有名な詩のとおりに考えるのなら、ただの優しい人ではないようだ。周りに馬鹿にされ、褒められることもない。以前、宮沢賢治の作品を読んだ時は、正直者が馬鹿をみるとばかりに笑われている気分になった。ひたすら低く小さく謙虚に生きて何の得があるのか。前はそう考えていたが今は違う。宮沢賢治は、馬鹿なくらい正直に生きてほしいと願っていたのだろう。でくの坊になりたい人はきっとあまりいないと思うが、正直に生きたいと願う人はいるのではないだろうか。彼の話は馬鹿正直な人への優しさを集めた作品なのだ。フライパンがパチパチ音をたてたところで、揚げないコロッケが完成した。お湯をかけるだけでマッシュポテトができる、便利な食材をやっと、このコロッケで使い切った。これでまんまるの新じゃがをお迎えできると、私はウキウキしてコロッケを食べていた。
「これ美味しいからまた買っといたよ」
新たなマッシュポテトを取り出しながら母が言った。うちに普通の新じゃがはいつ来るのだろう。
 

 

広島大学M1 杉田佳凜

 

10月11日(木) カーテンの向こうに月

 最近本読んでないなぁと思いながら『かえるくん、東京を救う』(村上春樹=原作、Jc ドゥヴニ=翻案、PMGL=漫画/スイッチ・パブリッシング)をパラパラめくる。フルカラーの絵本みたいな漫画で、とても格好いい。
 かえるくんは暗喩でも幻想でもない実物の蛙で、ぱっとしないおじさんの片桐さんに、あるお願いをしにやってくる。それは、3日後に起きる未曽有の大地震を止めるため、一緒にみみずくんと戦ってほしいというもの。片桐さんは当然困惑するけれど、最終的にはかえるくんに協力することを決める。
 深読みもできるんだろうけど、単純にかえるくんが好きだ。コミカルで、真剣で、勇ましい。薄暗い展開のはずなのに、不思議と笑って元気になっている。まあ、明日も頑張ろうかな。他にも本読みたいな。そんな気分だ。
 

10月13日(土) 起きてすぐ青空

 SF強化週間の一環で『コロロギ岳から木星トロヤへ』(小川一水/ハヤカワ文庫JA)を手に取る。
 2014年のコロロギ岳観測所(日本)と、2231年の木星前方トロヤ群の小惑星アキレスにある宇宙戦艦・アキレス号。二つを繋いだのは、直線的な時間概念を持たないカイアクという「時の泉」の住人。カイアクは尾をアキレス号に引っ掛けてしまい、頭の位置に当たるコロロギ岳の観測所職員に助けを求める。アキレス号には少年が二人閉じ込められている。彼らを動かすことで尾を解放してくれないか—。
 コロロギ岳で行動を起こすのと同時に、217年を越えて、アキレス号の様子はすでに変わっている。いや、読者からはそう見えるだけで、217年変わり続けた結果が、その2231年なのだ。時間の流れが論理的かつドラマチックで、どんどんページをめくってしまう。そのぶん終わりが近づくのが寂しいなんて、読んでいるうちは気づかない。
 

10月15日(月) 研究室の窓にもう星空

うさと私』(高原英理/書肆侃侃房)を読む。読んでよかった。あとがきによると詩らしいけど、読み味はエッセイに近い気がする。うさと暮らす私の日記。
 うさと私の暮らしはたっぷりしている。きっと愛で。悲しいことがないわけじゃないけど、悲しいことまで含めて愛でいっぱいだ。小さくて大きい、最強の感情。
「うさ、寝顔がとってもきれい」
うさの答え「じゃ、うさ、一生の三分の二の間、きれいな顔してんだー」
 うさも私も、二人のことを教えてくれてありがとう。
 
 
   
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