Essay ゲーミフィケーションで問題解決

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栗原 一貴Profile

栗原先生の著書
 

『消極性デザイン宣言』
消極性デザイン研究会:栗原一貴・西田健志
ビー・エヌ・エヌ新社/本体2,000円+税
情報過多の現代において消極的であることは、もはやすべての現代人が考えなければいけない問題です。消極性をポジティブに活かしていく方法について、ゲーミフィケーションも含めて検討し実践するため本です。
 細かいことはさて置いてざっくりと言えば、日常生活での面白くないこと、辛いこと、継続が難しいことなどについて、ゲームの知見を用いて解決するのがゲーミフィケーションです。
 ゲームは我々を熱中させるためにこれまで様々な仕掛けを生み出し、我々を虜にしてきました。その仕掛けの中には、ゲーム以外にも活用可能なものはたくさんあります。たとえば、作業の継続とともに点数が加算され(ポイント)、それに応じて地位が上がり表彰され(バッジ)、これまでは挑戦できなかった課題に挑戦できるようになり(アンロック)、他の参加者と成績を競うことができる(ランキング)、などです。これらの仕組みの中には、「ほんとにそれはゲームから生まれたものなの?」と疑いたくなるようなものもあります。しかしそれほど厳密に考えようとしないでください。そもそも「ゲームとは何か」という基本的な問いに対してすら、専門家の間でもはっきりとした統一見解はありません。ゲーミフィケーションに用いられる「ゲームらしさ」も、もとは別のところから、ゲームを面白くするために導入されたものであることだってありえます。大切なのは、「これをゲームと考えたら、どうすれば面白く、人々を惹きつけ続けられるだろうか」という視点から、さまざまな「ゲームらしい」仕掛けを使いながら日常の課題解決方法をデザインすることだと私は思います。ゲーミフィケーションは個人・組織・社会の問題解決に応用されます。継続の難しい運動習慣や勉強習慣の獲得、あるいは企業の中で売上や業績を高めるため、また、ゴミのリサイクルや犯罪抑止といった、地域社会問題の解決のために施策として導入される場合もあります。皆さんも身近な問題に対して、ゲーミフィケーションを導入して楽しく解決することに挑戦してみてください。
 次にゲーミフィケーションと親戚関係にあるものをいくつか紹介します。1つ目はシリアスゲームです。ゲーミフィケーションはポイントやバッジなどの「ゲームらしさ」を部分的に何かに適用して面白くする試みですが、シリアスゲームは、それ自体が完成した一つのゲームです。ゲームを遊ぶことを通じて、ゲームの外の世界でのなんらかの役に立つ効果があります。たとえば企業経営が学べるゲーム、災害時の避難訓練を体験できるゲーム、タイピング能力を鍛えることができるゲームなどが挙げられます。それから、Game with a Purposeという言葉もあります。上記の定義に沿えばシリアスゲームの一種で、やはり一つの完成したゲームです。Google社が運用していたGoogle Image Labelerというものがその代表例です。コンピュータが何か画像を「問題」として提示し、その画像が何であるかを人間が競争しながら回答します。クイズゲームのような楽しさがありますが、その裏で実は、その画像がどういう内容かをコンピュータが機械学習するためのデータ準備である「ラベル付け」という作業を、知らず知らずのうちに、しかも喜んで人間にやらせています。このように、ゲームの外の世界で利益を享受する存在が、ゲームをプレイしている人間以外である場合もあるのです。
 最後に、私の研究室が研究しているToolification of Gamesをご紹介します。 Toolification of Gamesは、もともと存在しているゲームを拡張して、ゲームの外の世界で何らかの役に立たせるようにするものです。たとえばテトリスで遊んでいるだけで三次元プリンタ印刷用の形状のデザインができるTetris 3D Modeler、マリオブラザーズをプレイして集めたコインの数に応じた金額を募金できるCoinsForTwo、プレゼンテーション中にステージ上で動き回る動作をスペースインベーダーの操作に対応付けることで、スティーブ・ジョブズのような「動く」プレゼンテーションを練習できるSpacePresenなどが事例として挙げられます。Toolification of Gamesはもともと我々に親しみのあるゲームを再利用するので、人々が気軽に始めやすく、また一定の面白さが保証されている点が長所です。しかし一方で、そのようなゲームのプログラムを入手したり改変したりすることは、技術的にも権利的も難しいことが問題です。そこで私の研究室では、それを解決する道具作りを行っています。既存ゲームを改変せず、外側からゲームのBGMや効果音を分析することでゲームの内部状態を推定する仕組みであるPicognizerや、逆に実世界のいろいろな情報を既存ゲームのコントローラ入力へと変換する機器であるGameControllerizerの開発・販売などを行っています。
 
P r o f i l e

栗原 一貴(くりはら・かずたか)
1978年栃木県生まれ。津田塾大学学芸学部情報科学科 教授。
2007年東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻博士課程修了。PhD.日本学術振興会特別研究員(DC2)を経て同年、独立行政法人産業技術総合研究所研究員に就任、2013年より同、主任研究員。 2007年~ 2008年、東京大学大学総合教育研究センター助教および特任助教を兼任。2010年~ 2012年、総務省フューチャースクール推進事業における東日本地区全体委員会委員。2014年より津田塾大学学芸学部情報科学科准教授、2019年より現職。2019年米ワシントン大学客員研究員。2012年イグノーベル賞、 MashupAwards2016最優秀賞、2017年情報処理学会論文賞、2016年情報処理学会山下記念研究賞、第12回・第18回日本ソフトウェア科学会論文賞ほか受賞多数。宇都宮愉快市民。

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