Report カードゲームで遊ぶ 語って楽しいうたいちもんめ

特集「ゲーム」記事一覧

なべとびすこさんのエッセイに続き、
「短歌カードゲーム ミソヒトサジ定食」で遊んでみました。


 4月某日。五つの人影がテーブルを囲んでいた。短歌カードゲーム「ミソヒトサジ定食」を使って「うたいちもんめ」をプレイするためである。
晋作「短歌は作ったことないですね」
とむ「僕もです」
山田「小学校の授業で作らされました」
高杉「授業でも作ったし今も作ります」
杉田「新聞投稿は10年くらいかな」
 そんな5人による3試合のうち、ここでは最終戦の様子をダイジェストでお届けする。予想以上の盛り上がりと字数の関係で、すべての試合を紹介できないのである。
 
   
【1回戦でできた短歌】
※さじマーク数+投票数=得点

頂上へ快進撃だ着こなしは任務完了よく見たらハゲ

杉田(11+2=13)

手にしたい雲に舌打ち魔法ですまるで恋するワンマンライブ

高杉(8+0=8)

あの日から3組の子がトップ10てんかの有名なリンボーダンス

山田(9+2=11)

二次元の大人の遊び未来ではアーティスティック山盛りポテト

晋作(9+0=9)

汽車が来て天下分け目の闇に立つ羽毛布団はいかがでしょうか

とむ(9+1=10)

【2回戦でできた短歌】

傷口に潜水、深く二年前嫌いじゃないぜ前に言ってよ

高杉(11+0=11)

パイセンのホワイトボード秒速で歌にしたからおしゃれじゃないが

山田(10+0=10)

間違った人が居たって道連れにあの手この手で世界を変える

晋作(7+3=10)

向日葵のあの丘にいる消防車広い心でスーパーライト

とむ(8+2=10)

ばあちゃんが冬を待ってた級王者命を鳴らしころがっている

杉田(8+0=8)

 手札と薬味チップを配り、場の札を整えてゲームスタート。まずは短歌を作る交換フェーズから。公式ルールでは交換は1人2回だが、その方がいい歌ができる、と3回戦では3回に増やした。人の手番では雑談しつつ場札が増えることを祈るのだが、なぜかこの日はナナコカードばかりが捨てられ、ゴローカードが一向に増えない。
高杉「名詞が増えてほしいなぁ」
とむ「取りたいカードがない……」
 交換フェーズを終えると発表フェーズに。カードを表にするごとに「おお~」「えー?」と声が上がるのが面白い。
 
  • 最初の手札。 手札は常に短歌一首分
  • 初期の場の札
  • 取る札は中央の山札か周りの場札から選び、捨てられた手札は場札になる。
【3回戦でできた短歌】

激怒した。人が居たって蹴り飛ばす嫌いじゃないぜアクション映画

晋作

図書館でスーパーライト級王者かの有名なよく見たらハゲ

とむ

イエーーイ!! お逃げなさいよ二年前椅子取りゲームに海老の秘密を

杉田

暴かれた山盛りポテトの味がする命を鳴らし注文しろや

高杉

知らんけど、機嫌を取ってホームランを終えた後はワンマンライブ

山田


高杉「これは投票迷うなあ」
とむ「いい歌多いですね」
 二人が言う通り票は見事に割れた。得点は晋作が8+1=9点、とむが11+1=12点、杉田が13+0=13点、高杉が9+2=11点、山田が10+1=11点。
高杉「嬉しい。初めて票入った~」
晋作「初代ミソヒトサジ王者は杉田さん!」
杉田「でも投票0で王者はむなしいなあ」
 などと言いながらコメントフェーズへ。それぞれどう解釈して票を入れたのか、入れなかったのか、投票に影響しないよう禁止していた作者コメントも解禁する。
杉田「〈暴かれた〉に入れたんだけど、これはミステリー短歌で、〈山盛りポテト〉が謎解きの鍵になるってことかなって。かつ事件の後味のしょっぱさでもある」
晋作「僕は〈山盛りポテト〉は何かの比喩、たとえば麻薬かなって思いました」
高杉「大麻をチョコって言うみたいな。だから〈命を鳴らし〉なんだ。作った本人よりいい解釈してる」
杉田「作者はどういう解釈だったの?」
  • 2回戦 発表フェーズ
  • 発表フェーズで
    歌が並ぶと壮観。

高杉「注文ボタンが命の象徴で、だから〈命を鳴らし〉なのかなって。〈山盛りポテト〉って見た目は豪華だしみんな好きなメニューだけど、実は安物の冷凍食品っていうところが〈暴かれた〉〈味がする〉」
杉田「でも〈命を鳴らし〉て注文するんだ」
高杉「うーん……あっ、カロリーが高すぎることが〈暴かれた〉とか」
杉田「体に悪くても食べたいと」
とむ「僕は〈激怒した。〉です。〈イエーーイ!!〉とかは意味が深すぎて読み取れない。これくらいが分かりやすいんですよ」
高杉「王道が一番ってところはありますよね。2回戦もでしたけど、晋作の歌はジャンプの主人公っぽい。でも〈。〉があると意味が切れちゃうのが気になります」
晋作「〈。〉があるから〈激怒した〉のが主人公になるんですよ。〈激怒した〉から主人公は〈人が居たって〉〈蹴り飛ばす〉」
高杉「ああ~、これ投票前に聞きたかった。そしたらこの歌に投票してました」
杉田「〈激怒した〉のが誰かは迷うね」
高杉「で、私が投票したのは〈知らんけど〉の歌です。〈知らんけど〉って適当に言葉を挟みつつ上司の〈機嫌を取って〉、〈ホームラン〉のようにいい感じに仕事を終わらせ、その後は趣味の〈ワンマンライブ〉に行く」
晋作「俺はプロ野球選手が試合後に〈ワンマンライブ〉に行くのかと」
山田「私はバンドマンが草野球をやって〈ワンマンライブ〉開いてっていう。ライブ前なのに野球すんのかってメンバーに言われるから〈機嫌を取って〉になる」
杉田「どれが本業かで印象変わるなぁ」
山田「〈図書館に〉は、図書館にチャンピオンがいるのがじわじわ来て、そのチャンピオンが〈よく見たらハゲ〉っていうのも面白いなって。しかも〈スーパーライト〉と〈ハゲ〉がかかってて」
杉田「しかもこれ、ここまでの流れを完全に汲んでるんだよね。2回戦で自分が持てあました〈級王者〉を、同じ2回戦でとむが持ってて「これとじゃん!」ってなった
〈スーパーライト〉と組み合わせて……」
高杉「〈かの有名な〉と〈よく見たらハゲ〉も1回戦で出てきたカードですよね」
晋作「〈海老の秘密〉めちゃめちゃ気になるんですけど。考えますよね」
高杉「結句だからこそ『〈海老の秘密を〉なんだろう?』って思わせますよね。どういう解釈なんですか?」
杉田「〈椅子取りゲーム〉って鬼ごっことかと違って逃げられないのに〈お逃げなさいよ〉っていうのが面白いかなって」
とむ「あえて反対のことを置く、と」
杉田「そう。〈海老の秘密〉がお気に入りだからそこ中心にさじマークが多いカードでまとめていったんだけど、意味をきちっとつなげるんだったら〈イエーーイ!!〉と〈椅子取りゲーム〉は捨てたかな」
高杉「勝ち方がいろいろありますね。全体の意味を取るか、さじマークを取るか」
杉田「さじマークに頼ると面白くないからって、投票点2倍で遊んだことあるよ」
とむ「その方がいいかも」
 一通り今回の短歌について話し合ったところで、ゲーム全体の感想を聞いてみた。
杉田「晋作たちは短歌作るの初めてって言ってたけど、どうだった?」
晋作「作るほうもですけど、一つの歌でいろんな解釈があるのが面白いですね」
とむ「ですね。人によって解釈が変わって」

 二人の感想を聞いたら、なんだかぼうっとしてしまった。その面白さを自分は、短歌仲間ができて歌会ができるようになるまで分からなかったのに。お互いの短歌が分かるとか、分からないとか、分かってもらえないとか、でも面白い解釈をしてもらえたとか。作った人どうしで話すからこその面白さを、「うたいちもんめ」を通せばこんな風に共有できるのか。
 最後に。付き合ってくれたみんな、本当にありがとう。また一緒に遊んでくれたら嬉しいです。そしていつかそれが歌会になったら面白いなあと、そんな野望ができたことをお伝えします。まずは投票点2倍で次回大会を開きましょう。

(体験・文=杉田佳凜)
 
P r o f i l e

杉田 佳凜(すぎた・かりん)

正確な短歌歴が思い出せない大学院2年生。
ミソヒトサジ定食でお気に入りのカードは「海老の秘密を」。海老の鮮やかな桃色と、井辻朱美さんの短歌〈連綿と海老の種族を生みだしてわが惑星プラネットのくすくす笑ひ〉を思い浮かべます。この歌も登場する小林恭二『短歌パラダイス』(岩波新書)をあらゆる人に読んでほしい。

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