東京外国語大学3年 三宅梨紗子
移動中のお供はやっぱり

7月7日、学生の(もしかしたら人生最大の)モラトリアム期に突入。
部活動に所属している私は、約3ヶ月ある夏休みの中でも、始まりの1週間のみがオフ期間だ。この1週間を利用して旅行をした。
始まりは大阪。新幹線の中ではゼミの学習のため、
『爪と目』(藤野可織/新潮文庫)を読み返す。初めて読んだときは、語りの難しさと味わったことのない後味に、頭の中は「???」その後何度か読み返し、細部の工夫に気がついたときは、この作品が芥川賞を受賞した所以が分かったような気がした。
2日間の大阪旅行を終え、9日からは実家のある岐阜県へ。
帰省をすると必ず、父は集めている東野圭吾一覧を紹介してくれる。
「また増えたやろ、みてみー」
そんな父の影響もあり、東野圭吾さんの作品はよく読む。本について父と話しているときには、少しばかり大人になった気分だ。
今回は
『白銀ジャック』(東野圭吾/実業之日本社文庫)を読むことにした。以前読んだ『疾風ロンド』(東野圭吾)がその続編と言われている。真夏にスキー場が舞台の本に浸り、妄想避暑をしようとする魂胆だ。

その後は妹とともに韓国へ。
妹にとっては初めての海外旅行。航空券、ホテルの予約から現地での道案内は姉の役割。中部セントレア空港から直行便で約2時間。新幹線で行く東京〜名古屋間とほぼ同じ。近い!
手持ち鞄に本を忍ばせることを忘れた私は、空港の本屋で一冊買うことにした。かねてから気になっていた
『舞台』(西加奈子/講談社文庫)。主人公は単身、ニューヨークに行くが、初日にカバンを盗まれる(ドイツで財布を盗まれた記憶が蘇る……)。海外旅行のワクワク感と、孤独感、その中で感じる小さな喜び。他人の目が気になって仕方がない主人公に「分かるわ〜」と何度も言ってあげたくなる。
1週間の旅行を終え、一旦東京に戻る。
27日からは、ゼミ合宿のため秋田へ。東海道新幹線は何度も乗っているが、東北新幹線は初めて。「こまち、かっこいい!」
『星やどりの声』(朝井リョウ/角川文庫)を片手に、揺られること約3時間。田沢湖駅へ到着。宿泊したペンションでは、ほろほろのお肉が入ったビーフシチューをいただいた。喫茶店を営む早坂家の物語である『星やどりの声』には、看板メニューのビーフシチューがしばしば登場する。普段の生活で経験することが、「あぁ、あの本にも出てきたなあ。」なんて本の中の世界とつながることは楽しい。
そんなこんなで7月は移動時間も長く、本とゆっくり向き合うことができた。移動中も旅行の思い出の一つ。旅が始まる前の期待感と、旅を終えた充足感を本と共有してみてもいいかもしれない。