7月に入り試験も目前の日曜日。梅雨明けを待ち望みながら、鬱々とした気分を晴らしてくれる1冊に出会った。『村上海賊の娘』(和田竜/新潮文庫)である。戦国時代、織田信長によって危機に瀕した大阪本願寺を救うべく、天下一とうたわれた村上海賊の長武吉の娘景が大暴れする歴史長編だ。戦場となった船上で、泉州の海賊長と大立ち回りする終盤は息つく暇もなく一気に読み切った。海賊らしい剛勇と荒々しさをもって己の信念のままに戦う景に感嘆した。彼女に力をもらい、テストなんぞどうにでもなれ!という誤った方向に思わず舵をきってしまった。もう心は夏休みである。
試験期間に突入し、ようやく山場を越えた水曜日。帰宅後、なにもしたくないなあ……という気持ちで読み始めたのが『和菓子のアン』(坂木司/光文社文庫)である。デパ地下の和菓子店「みつ屋」で働くアンちゃんの、仕事場でのあれこれを描くミステリーだ。博打大好き店長の椿さんをはじめ、乙女系男子立花さんや元ヤンの女子大生桜井さんといった濃いメンツに囲まれて働くアンちゃん。途中からは恋の予感も気になりはじめ、疲れた心がウキウキ弾み出した。繊細で美しい和菓子の描写と所々に挟まれるトリビアを読んでいると、どうしても和菓子が食べたくなる。まだ明日の試験までには時間があるから、と言い聞かせて近くのスーパーまで自転車で走ったのだった。
ようやく存分に夜更かしができると腕まくりをしていたある晩、リビングの本棚で『ステップファザー・ステップ』(宮部みゆき/講談社文庫)を見つけた。最近父がツタヤで百円の本を買ってきて読むのにハマっているのでその中の一冊だろう。ひょんなことから双子の中学生の面倒を見ることになったプロの泥棒が、巻き込まれた様々な事件を語る形式で話が進む。ステップファザーとは「継父」のこと。本当の親子ではないこの泥棒と双子との軽妙なやり取りに笑い、垣間見える互いへの信頼に涙する。ああこの本を読み終えるまでは寝られない、と不健康に拍車をかける夏の夜だった。
7月7日、学生の(もしかしたら人生最大の)モラトリアム期に突入。
その後は妹とともに韓国へ。*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。