
今年は帰省せずに年を越した。新年一冊目に読んだのは伊藤計劃さんの『虐殺器官』(ハヤカワ文庫JA)。シェパード大尉を主人公に据えた近未来のSF小説。スリル満点の書き出しから章の終わりで一息つき、すぐに次へ次へと読み進む。国家間や個人の思惑の駆け引きなどスリリングな展開を軸に、章を追うごとに規模が大きくなり新たな思惑が浮き彫りになる展開に手がとまらない。そのスケールとは逆に、自我の境界線や罪の意識など非常に繊細なテーマも軸のひとつ。巻末での円城さんとの対談も読み応えがあり大満足。戦争をビジネスと捉える世界線と、何かとニーズや課題をほじくり返しては解決策を提供していく現代を重ねて、どうかこれがいつまでも「SF世界」の物語であるようにと思う。
運転免許を更新する際の待ち時間に、昨年末から読んでいたフランクリンの『フランクリン自伝』(中公クラシックス)を読み終わる。「自伝」とあるように著者自身が書いた一冊。一介の印刷工(しかもその仕事ですら彼本人が望んだ仕事ではない!)から、初代郵政長官になり、独立宣言を草案するその人生はまさに劇的。その他にも新聞発行、図書館設立、稲妻の発見など至る分野で功績を残しているのに本人の語り口調はいたって淡々。相当に頭が切れ、弁がたつひとだったのだなというのが文章からよくわかるが、それもこの本に書いていたように、日々の目標を定め毎日チェックするといった地道な努力によるところがあるのだろう。よし私も! と意気込むも、無事免許を更新できほっとしたまま1日が終わる。
大晦日特番「村上春樹ラヂオ」を聞いたあと、私最新刊読んでない! と気づいて早数週間。やっと村上春樹さんの『一人称単数』(文藝春秋)を手に取る。一作目の「石のまくらに」が一番のお気に入り。*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。