いずみスタッフの 読書日記 166号 P2


レギュラー企画『読書のいずみ』読者スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 東京経済大学2年
    内田 充俊
    M O R E
  • 京都大学大学院M1
    畠中 美雨
    M O R E
  • 京都大学3回生
    徳岡 柚月
    M O R E
  • お茶の水女子大学2年
    川柳 琴美
    M O R E

 

 

京都大学3回生 徳岡 柚月

1月下旬

  ディズニー作品のヴィランズたちに焦点をあてたゲームがブームになっている。「ライオン・キング」のスカーやハイエナ、「アラジン」のジャファーなど、こどもの頃は、主人公たちをひどい目に遭わせるこわい人(動物)たちというイメージしかなく、主人公たちが彼らをやっつけ、ハッピーエンドを迎えたときには、混じりけのない感動で胸がいっぱいになったものだ。だが、視点を変え、悪役たちに寄り添ってみると、彼らに共感するところもあり、もちろん他者を傷つけたことへの罰や反省は必要だけれど、最後には、彼らと主人公たちが腹を割って話し合い、お互いを思いやり、彼らの幸せも含めた「本当のハッピーエンド」をいっしょに模索する未来があるといいな、という気持ちが芽生えるのだ。
 さて、ゲームの中で、こどもの頃に親しんだ作品たちに久しぶりに再会し、懐かしさを覚えつつもその世界の見え方の違いに驚き、うれしくなったわたしは、長らくご無沙汰だった「児童文学」の中にどっぷり浸かり、思うまま旅したいという気持ちに駆られました。以下、その旅の記録を綴ります。
 

2月3日(晴)

 『ハリー・ポッターと賢者の石』(J・K・ローリング〈松岡佑子=訳〉/静山社)。ここは魔法が存在する、わくわくが詰まった世界。呪文はラテン語に由来したものが多く、言語の知識があれば新たな魔法を生み出すことができるらしい。わたしたちの世界でも生物の名前はラテン語でつけられているけれど、もしかしたらその中にも魔法の呪文がまぎれこんでいるかも、なんて想像すると楽しくなってくる。ところで、この世界には魔法を使えない人もいて、中には魔法使いを毛嫌いし、いじめたりするひともいる。たしかに魔法が使えない人からしたら魔法使いは強大な力を持った存在で、憧れだけでなく恐怖の対象としてしまうことを責めることは、残念だができないだろう。でも、その恐怖心をそのまま相手に向けることには、わたしは賛成したくない。理想論かもしれないが、それぞれが他者の立場や気持ちを思いやって生きている世界は、きっともっと呼吸が楽なのだろう。自分だってまだまだできていないけれど、『赤毛のアン』(モンゴメリ〈村岡花子=訳〉/新潮文庫)をはじめとした、外の世界への空想力や想像力に溢れた「児童文学」の力を借りながら、少しずつでも理想へ進んで行きたいと思っている。
 
 

 

お茶の水女子大学2年 川柳 琴美

11月 和菓子の神様、舞い降りる

 これまでも、和菓子とはそれなりのお付き合いをしてきた。ゆるゆるではあったが中高と茶道部で、わらび餅やみたらし団子が大好き。でも、洋菓子を食べる機会の方が断然多くて、和菓子の知識は微々たるものだった。そう、「求肥」を「きゅうひ」と読んでしまうくらい……。そんな私を見かねたのか、この1年ほど、和菓子の神様がチラチラと姿を見せるようになった。和菓子が登場する作品に出会う機会が増えたのである。そして、とうとう神様は、『和菓子のアン』(坂木司/光文社文庫)を連れて舞い降りてきた。
 高校卒業後、デパ地下の和菓子店で働き始めたアンちゃんが、初めての連続にアタフタしながらも、一生懸命、それでいて楽しく成長する姿を描いたシリーズ第一作。各話でアンちゃんに降りかかるミステリーは、ホームズのような名探偵が立ち向かう謎に比べたら、ほんの些細な出来事かもしれない。でも、私たちの毎日を難しくしているのは、アンちゃんに巻き起こるような極めて日常的な問題なのである。だから、たくさんアンちゃんに共感できるし、励まされ、学ぶことも多い。巣ごもりオンラインの日々に枯渇していた私の心は、アンちゃんたちによって潤されていった。おまけに、太っ腹な神様が、私のお腹とスマホの写真フォルダまで、和菓子で満たしてくれたのは、また別のお話。 『和菓子のアン』購入はこちら >
 

12月 久しぶりに本屋さんへ

 図書券をもらった。ルンルンで本屋さんへ。図書券というのは不思議なもので、同じ500円であっても、500円玉1枚とは比べものにならないワクワク感をくれる。魔法でもかかっているのかしらん。
 まず手に取ったのは、大好きな荻原規子さんのエッセイ集『もうひとつの空の飛び方』(角川文庫)。和のイメージが強かったので、海外作品がたくさん出てきたのは意外だった。荻原さんについてはもちろん、ファンタジーに関する発見もあった一冊。
 続いて、『izumi』の座談会を読んでから気になっていた、森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)。おお、これが森見ワールドか! 独特の文体が、慣れるとなんとも心地よい。講談師に読んでもらったら面白そう、などと想像する。京都を愛し、芸舞妓さんに多大な憧れを抱いている私にとっては、先斗町が舞台になっているのも最高だった。早く、むんと胸を張って夜の先斗町界隈を歩き、「偽電気ブラン」を探したいものである。
 
 
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