広島大学4年 杉田佳凜
10月16日(月) 夜空に蜂蜜色の満月

いずみの原稿を出して一息つく間もなく
『新アラビア夜話』(スティーヴンスン〈南條竹則・坂本あおい=訳〉/光文社古典新訳文庫)を手に取る。
ボヘミアの王子フロリゼルを教王ハルーン・アル・ラシッド(千夜一夜物語に登場する、夜歩き好きの王様)に見立て、バグダッドならぬロンドン&パリを舞台にした連作集。本家が荒唐無稽・百花繚乱のパレードだとすれば、こちらは技巧的かつ軽妙なマジックのよう。複数の視点から語られる複雑怪奇な事件が、フロリゼルを軸に回収されて……「自殺クラブ——クリームタルトを持った若者の話」なんて章題からして面白くないはずがなかった! 秋の夜長をいいことに、今日も今日とて夜更かしが確定しそうである。
11月1日(水) どこからかカレーの匂い

あれこれやることが重なって、気がつけばここ何日か本を読んでいない気が……あれ? 悲しくなりながら書籍コーナーを彷徨えば、最果タヒさんの新刊が二冊も!! さっそく買って、
『もぐ∞』(最果タヒ/産業編集センター)を少しずつ読んでいく。
小籠包、パフェ、ちくわ天……食べ物にまつわる愛と懐疑に満ち満ちた思索が最果さんらしい感覚と文体で綴られていて、まさしく「もぐもぐ」咀嚼されて書かれたんだなぁという印象。知っているものが知っている配分で組み合わされているはずなのに、どうしてこのサンドイッチはこんなにも未知の美味しさなの?
メニューは全25品。一品ずつは小さいから手軽につまめるけれど、一つ食べ終えるごとに心地よい満腹感が体を満たしてくれた。
11月12日(日) 青空にナニかが流れる

「読んだ方がいい」
母との電話中に出てきたタイトルは
『むかしのはなし』(三浦しをん/幻冬舎文庫)だった。漫画版を買おうかどうか迷っているとのことなので、原作も読むよう強く勧める。
『むかしのはなし』はタイトルの通り、日本昔話に着想を得て書かれた短編集だ。けれど下敷きにされている昔話はもちろん他にも仕掛けが用意されていて、読み進めるごとにこの物語の世界に引きこまれていく。
「しをんさんは『舟を編む』や『まほろ』の印象が強いけど、これとか『天国旅行』の雰囲気はまた独特でクセになって……」
語りながら思い出すのは物語の一節。
聞こえるかい。聞いてほしい。
“今ここ"と無数の“いつか"を物語が繋いでいく。人に聞いてほしいと思える物語に今ここで出会えた奇跡に、ふと肌がざわめくのを感じた。