
軒先に本が並んでいる。目が合う。本棚の上を見ると「1冊100円!」なんて書いてある。そうすると私はもう嬉しくなって、意気揚々と連れて帰る本を選び始める。街中で古本屋を見つけたときの私はたいていこんな感じ。こうして購入した1冊が、乙一さんの短編集『きみにしか聞こえない——CALLING YOU』(角川スニーカー文庫)だ。この一冊に3作品がおさめられている。
何を隠そう、私も絶賛(?!)就活生。今年はほぼほぼオンライン開催なので、方向音痴な私にとってはありがたい状況ではあるが、やはりままならないことも多い。絶望ってほどではなくてもたびたび気落ちする。そんな時は、生協書店で本に囲まれて気になる本を買うのが気分転換になる。
落ちた。1次面接に落ちてしまった。朝井リョウ『何者』(新潮文庫)を18歳の時に読んで「お祈りメール」が存在することは知っていたが、まさか自分が受け取る番になってしまったとは。この本は今も本棚に並んでいるが、怖くてパッタリと読む気が起きなくなってしまった。
漫画を読むようになった。出版系の企業研究のために漫画を何冊か買った。小学生の時はジャンプ漫画ばかり読んでいて親から漫画禁止令が出た。ところが、中学生の時に父の仕事の都合で台湾へ引っ越し、私のお小遣いで日本の本は気軽に買えなくなってしまった。これがきっかけで、文字が詰まってて、一冊で何時間も読書を楽しめる小説の「コスパの良さ」に心奪われ、私の漫画人生は一旦幕を閉じた。今回久々に手に取った漫画は「コスパが悪かった」。というのも、山口つばさ『ブルーピリオド』(講談社 アフタヌーンKC)は要領の良さが売りの優等生な主人公が泥臭く美大受験を目指していく姿が、とてつもなく心に刺さって、1巻から9巻を3日間で、号泣しながら一気読みしてしまった。帯の推薦文に「おすすめのスポ根マンガ!」とあって、「え、私スポ根だったの?!」と心底信じられなかったが、よく思い返せば、1週間に一言しか話さない超無口&無表情の父が唯一目頭を押さえていたのは、弟の誕生時ではなく、野球のスポ根漫画だったので、私にもスポ根素質のDNAがあるのかもしれない。
私には今月怖かったものがもう一つある。スギとヒノキの花粉である。血液検査をしたところ、アレルギー反応が判定値を超えていた。外出するだけで死を感じるが、花粉症が死因で通夜のお経を読まれるのだけは避けたい。あさのあつこ『金色の野辺に唄う』(小学館文庫)では大おばあちゃんがひ孫に看取られながら亡くなるところから始まる。残された人々の人間模様も面白いのだが、亡くなる時、「ひゅるひゅる、ひゅるひゅる」と言って魂が肉体を離れていく様子が一番印象に残っている。小説も漫画も、登場人物の目線から自分の知らない世界を眺めることができる。さらに数年後にまた読み返すと、もっと深い世界に浸ることができ、これはもうお値段以上と言っても過言ではない。さて、魂の分離はまだ想像できないが、走馬灯にどの光景が選ばれるのだろうか。そういえば来年の今頃は新社会人になっているのか。期待と不安をのせて春が過ぎ去って行った。
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