
少しずつ蒸し暑くなってきた。しかし、大学の図書館はまだ冷房がついていない。そんな時、地下にある書庫は天国である。半ば駆け足で階段を下りていくと、体を包む空気が少しずつ冷えていった。ちょっと薄暗くて、シーンと静まり返っていて、そこはまるで別世界のよう。ボタンを押すと、ウィーンという機械音とともに通路が開かれた。大学の図書館は学術系の本はたくさんあるものの、私が普段読むフィクションの本は非常に少ない。しかし、文芸誌を開けばそこには無数の物語の世界が広がっている。
夏は食欲が失せるというが、私の場合は逆である。暑いときこそたくさん食べないとやっていられない。最近よく食べるのが麻婆豆腐。スーパーに売っている麻婆豆腐の素を使えば、パパっと作れて常に美味しくできちゃうのだから最高だ。食べ過ぎて胃が大きくなったのか、3人前をペロリと平らげるようになってしまった自分が怖 い……。
「天才になれなかったすべての人へ」
都心で電車に乗る。17色が円形にぐるりと配置されたバッチを胸につけたサラリーマンと目にする。SDGsのバッチだ。「誰一人取り残さない」そんなスローガンを掲げるが、具体的に何をすればいいのか判然としない思いに囚われる。どうやら資本主義的な世界とは異なるシステムが重要らしいということしかわからない。『世界は贈与でできている』(近内悠太/NewsPicks)は資本主義的なシステムとは別の、「贈与」というシステムの重要性を紐解いた一冊だ。
書店を散策していて、「町田そのこさん推薦」という一文を目にして立ち止まった。夏号の『izumi』で、町田そのこさんに『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社)についてお話を伺う機会に恵まれた。丁寧だが躰の中に手を突っ込んだかのような、えぐり出すような心情描写が卓越した文章を書く方だった。その町田さんが推薦する本、ということで思わずレジに持って行ったのが『夜行秘密』(カツセマサヒコ/双葉社)だ。実はこの小説は、indigo la Endの曲にインスパイアされて書かれたものだ。クリエイターの主人公の心情描写が丁寧で、最後まで一息に読み通した。読み終わった後は、まるでプールで息を止めて泳ぎ切った後のような清涼感と倦怠感に包まれた。「これは出会いを運命にしたくて、でも後悔にしかできなかった人たちの物語だ。読み終わったいまでも、彼らのいた分岐点で立ち尽くしている私がいる」とは本の帯に踊る町田さんの書評だが、読了後に読み返してみて言い得て妙だと感動した。*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。