いずみスタッフの 読書日記 168号 P2


レギュラー企画『読書のいずみ』読者スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 奈良女子大学3回生
    高木 美沙
    M O R E
  • 東京経済大学3年生
    内田 充俊
    M O R E
  • 京都大学大学院M2
    畠中 美雨
    M O R E
  • 京都大学3回生
    三好 美咲
    M O R E

 

 

京都大学大学院M2 畠中 美雨

七月上旬 束の間の晴れ

 本が読みたい!と猛烈に思った七月の頭。研究での試料測定を待っている間に図書館へ。といっても理系図書館なので、専門書以外はほとんど古典作品。その中で手に取ったのは、シェイクスピアの『マクベス』(光文社古典新訳文庫)。言わずと知れた四大悲劇の一つ。魔女のお告げを聞いて仕えていた主君を殺し、血で血を洗いながら王となり、そして破滅へと堕ちていくマクベスの姿を描いた代表作。
 言葉ひとつひとつが豊かでリズムも良く、成程口にしてみたくなる。またこの版は説明が本文の近くにあり、いちいち巻末をめくらなくてよかったのも、細かいが読みやすいポイント。四大悲劇を読み直そうか。『マクベス』購入はこちら >
 

七月中旬 雨の降る晩に

 先日の『マクベス』を返却して借りたのは、サン=テグジュペリの『夜間飛行』(光文社古典新訳文庫)。主役は郵便飛行業という当時の新事業に挑む男たち。ある晩、激しい嵐に見舞われたパタゴニア便を主軸に物語は進んでいく。飛び続けるパイロット、地上で指示を送る社長、パイロットの妻。視点を変えながら、一夜の夜明けまでを描く。
 著者本人がパイロットだったこともあり、空中での風景描写や心情描写が巧みで臨場感に圧倒される。解説にあったように、まるでミステリーを読んでいるような緊迫感と展開。『星の王子さま』も名作だが、こちらも負けず劣らず名作。『夜間飛行』購入はこちら >
 

七月中旬 祇園祭の頃

 久々に丸善に行き購入したのは、フリオ・リャマサーレスの『黄色い雨』(河出文庫)。「空飛び猫たち」というポッドキャスト番組で紹介され気になっていた。
 舞台はスペイン山奥の廃村。村人や息子がつぎつぎと村を出ていく中、頑なに残り続ける男を中心に、村が朽ちていく様子が描かれている。まるで風景画を読んでいるようだった。霞んでいくポプラの葉よりずっと重くてどろりとした黄、それと腐敗した甘ったるい匂いが作中にずっと漂っている。
 展開も登場人物も少なく、時間の経過すら曖昧で、まさに『夜間飛行』の対極にあるような作品だった。好みはわかれるかもしれないが、文章を読ませる技術と描写に私は脱帽した。こんな本がある、と誰かに話したくなる一冊。

 今年も夏らしいことはせず夏を終えそうだ。思えば学生最後の夏。何もなかったことですら思い出になるだろうか。『黄色い雨』購入はこちら >
 

 

京都大学3回生 三好 美咲

6月

 月末に担当教官と面談がある。私の所属する哲学専修は、放任主義でお馴染み。その分、卒論テーマなど自力で決めて話さなくてはならない。行き詰まってなんとなく『はじめての構造主義』(橋爪大三郎/講談社現代新書)を再読した。レヴィ=ストロースやフーコー、アルチュセール、ラカンといったフランス現代思想の巨匠たちを軽快に案内してくれる。図書館で借りる際、棚のカドに小指をぶつけて悶絶した。運悪くサンダルを履いていた。
 今の自分が、これまでに体験した様々な要素の結晶として存在している、という実感がある。育った環境や友人関係、触れてきた小説。逆に、自身も誰かに影響する何かでありたいと漠然と思う。ずっと、そういう相互関係のようなものに興味を惹かれていた。他者との関係性や社会との接点も視野に入れた卒論テーマにしたい。方向性は固まってきた。『はじめての構造主義』購入はこちら >
 

7月

 テストが近づくと、無性に映画が観たくなる。とりわけジブリ。現実逃避とは言うなかれ。今日は、映画のモチーフにもなっていた『風立ちぬ・美しい村』(堀辰雄/新潮文庫)を手に取った。「風立ちぬ」は、サナトリウムで静かに過ごす夫婦2人の、切なくて美しい話。
 誰しもいつか死ぬ。それは分かりきっていることなのに、どうして私たちは競争したり喧嘩したりするんだろう。傍にいてくれる人を愛しながら、寄り添いあって穏やかに過ごしたい。本を閉じて5分くらい、本気でそう思っていた。しかしSNSのいいね欄は気になるし、自動ドアに右肩をぶつけたらムカつくし、電車で靴を踏まれたら眉間に皺を寄せてしまう。何とも浅ましい。どうやら、死や幸福や愛を意識しながら日常を過ごすのは難しいみたい。
 いつぞやの生協の売り上げランキングで目にしていた『日常的実践のポイエティーク』(ミシェル・ド・セルトー/ちくま学芸文庫)を買った。題名に惚れた。言い回しや歩行といったささやかな日常的文化が、押し付けられた秩序の中で〈なんとかやっていく〉技法として検討されている。無名の生活者たちの戦術に迫ろうとする一冊。読後、なぜかは分からないけれど、フーコーがいいなと思うようになった。卒論にはフーコーがいい。彼のアイデアで、自分と世界との折り合いを捉え直せるような気がした。見切り発車ではあるけれど、主著から地道に読み進めてみようと思う。
 
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