いずみスタッフの 読書日記 170号


レギュラー企画『読書のいずみ』読者スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • お茶の水女子大学大学院M2
    木村 真央
    M O R E
  • 京都大学大学院M2
    畠中 美雨
    M O R E
  • 京都大学4回生
    徳岡 柚月
    M O R E
  • 東京経済大学3年生
    内田 充俊
    M O R E

 

 

お茶の水女子大学大学院M2 木村 真央

12月末

 私の宿敵はしもやけである。冬の訪れとともに親指から小指まで風船みたいに真っ赤に膨れ上がってしまい、とうとう上履きに足を収めることすらできなくなるのだ。こんな重度のしもやけも、ダンスで末端冷え性が改善するに従って、冬でも普通に靴を履けるようになっていった。そんなわけで、しもやけの苦しみはすっかり頭から抜け落ちていた。ところが、今年のクリスマスは、修論を必死に書いている私の足元に「しもやけ」がプレゼントされた。2週間後の締め切りに追われる私には、ムズムズ、ジンジンとしたかゆみを懐かしむどころか、無情なサンタにクレームをいれる時間もない。大学のラウンジで人が見ていないのを確認してはよろよろと立ち上がって背筋を伸ばし、そのついでに股関節もぐるぐる回し、調子がいい時には、ぴょんぴょん飛び跳ねていた。同じラウンジにいた学生さんの視界の端っこで21時ぐらいになると暴れていた不審者は私である。暴れ方にも色々あって、私は『これで先生のアドバイスどおりに踊れる! バレエ整体ハンドブック』(島田智史/東洋出版)を教科書にしていた。レポート・就活の時期に肩こりで悩む大学生へおすすめの一冊である。 『バレエ整体ハンドブック』購入はこちら >
 

1月初旬

 4年ぶりの大雪だった翌日、修士論文を提出した。思い返せば、入試は大型台風直撃、入学式はコロナ禍のため1ヶ月遅れという波乱の大学院生活だった。何はともあれ、ひと段落したら読もうと思っていた本を図書館に借りにいった。何を隠そう、私は日本の小説の「○○賞」というものに疎いため、特に、芥川賞・直木賞の歴代受賞者をすらすら言える人を心から尊敬している。まずは、アルバイト先でよく売れている(気がする)第153回芥川賞受賞作家、羽田圭介さんの『スクラップ・アンド・ビルド』(文春文庫)を読むことにした。これは失業中のニートである健斗が祖父の「穏やかな死」への願いを叶えるべく過保護な介護をする話である。衰えゆく祖父の体を横目に軍隊並みの筋トレに没頭する健斗の思考回路には狂気を感じるが、「使わなければ衰える」と繰り返されるメッセージは、私に向けられたものなのではないかと、心がざわざわとしてしまう。本など座って読んでいる場合ではないと思い、とりあえず、あの時のように暴れてみる。体を動かすのはとても気持ちがいい。ふと、どうしてだろうと我に返る。この2年間、不測の事態に翻弄されてばかりで、自分の体ぐらいは自分でコントロールして安心したいと感じたからだろうか。もし「暴れている」私を見かけたらそっと見守ってほしい。 『スクラップ・アンド・ビルド』購入はこちら >
 
 
 

 

京都大学大学院M2 畠中 美雨

11月上旬 秋の名残もなくなる頃

 本を返却しに来たついでに、図書館内を散策する。そこでふと、『必要になったら電話をかけて』(レイモンド・カーヴァー〈村上春樹=訳〉/中央公論新社)と目があった。彼の作品はほぼ読んだと思っていたが、記憶にないタイトル。どうやら初見の一冊で、未発表の作品集だとか。
 突然の出会いと別れ、アルコール中毒、火事、とお馴染みのテーマに安心すら覚える。人間関係、あるいはその人自身の過渡を描くのが上手な作者だと再認識する。元に戻った人も、戻らない人もいた。
 どこか欠けた人たちを描いた、完成には欠けているとカーヴァーがみなした作品たち。だけども、不可思議な読後感とともに、読めてよかった、見つけてよかったと思った。 『必要になったら電話をかけて』購入はこちら >
 

11月中旬 寒さがこたえはじめる頃

 最近手が伸びがちなのが、短編小説とエッセイ。今回は『ロックで独立する方法』(忌野清志郎/新潮文庫)を手に取る。 
 何を隠そう、私はひとまわり前の世代のロックが大好きなのだ。特に清志郎は、ヴィジュアル系とも一味違う凝ったメイク、しゃがれ声、そしてそのステージ。映像の中でも、すべてに圧倒されてしまう。
 成功じゃなくて独立なのが清志郎らしい、と冒頭にあったがその通り。腹を括って生きていくのが清志郎だ!と納得する反面、才能を掘り出して、切望して、努力し続けた人なんだと思い直した。ここまで切実になりたい像を、私はいつか思い描けるのだろうかと不安になりつつ、本を閉じた。 『ロックで独立する方法』購入はこちら >
 

12月上旬 一年の終わりを感じながら

 気分転換したいが時間はない。細切れな読書ではなく没頭する読書がしたい。超話題作『三体』も、でーんと本棚で待ち構えている。再び開く日はいつになるやら……。
 やさぐれた心をなだめるべく開いたのは、『ラヴレターズ』(川上未映子ほか/文春文庫)。作家、俳優、映画監督等様々なジャンルの差出人が何かへ送るラヴレター。誰の手紙から読んでもどこで閉じてもよい。その気軽さとは裏腹に、ラヴレターは切実で、ともすれば遺言のようだと思う。感謝や愛、はたまた姿を変えてしまった怨念など、感情を伝えたくて言葉にする。溢れ出る思いが伝わるはずがないと思いながら、でも確実に伝わっているはずだとどこかで信じて。
 いくつかのラヴレターを読み、長編小説に嫉妬しないでいようと思った。手紙の文量に思いが比例しないように、最適な長さなんて時期や相手によって異なるのだから。 『ラヴレターズ』購入はこちら >
 
 

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