いずみスタッフの 読書日記 170号 P2

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レギュラー企画『読書のいずみ』読者スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • お茶の水女子大学大学院M2
    木村 真央
    M O R E
  • 京都大学大学院M2
    畠中 美雨
    M O R E
  • 京都大学4回生
    徳岡 柚月
    M O R E
  • 東京経済大学3年生
    内田 充俊
    M O R E

 

 

京都大学4回生 徳岡 柚月

石の日

 漆黒と、燃えているかのような東京タワー。斜め下から仰ぐように撮られた東京タワーは今まさに倒れていく最中のようにも見える。そして東京タワーの鉄骨の横、漆黒の中央に浮かぶ謎の赤い点。
真夜中乙女戦争』(F/角川文庫)の表紙は、そのタイトルとも相まって、とても印象的で、一度見ただけでも記憶に焼き付いていた。
 読み始め、第三章ぐらいまでは、正直、最後まで読み通せるか心配だった。この世の全てを憎み、傷つけようとするような「私」の言動が心に痛かった。それでも四月に物語を期待してしまう「私」の姿がリアルで、余計に痛々しいと感じてしまった。でもそんな「私」のことを理解できてしまう自分も確かにいて、読み進めるのが辛かった。
 けれど、「先輩」に出会ってからは少し調子が変わった。彼女のことを想い、会話を交わす「私」はかわいくて、はじめて彼を愛しく感じた。胸を刺してくるものはまだあるけれど、先が柔らかくなって、そこからはページをめくるのが楽しくなった。P.250、251の「私」から「先輩」へのLINEの羅列。これを見たとき、涙が溢れそうになった。このやりとりができる人と出会えれば、それだけで人生幸せだったと言えると思う。
 読了後、あらためて表紙を見つめた。中央の謎の赤い点。燃える東京タワーから降る火の粉のような、あるいは燃え尽きる前に一際光を放つ人の命のような、闇に滲む赤が、目に痛く、しかし切なく美しかった。 『真夜中乙女戦争』購入はこちら >
 

ヒーローの日

 昨年の夏、映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』を見た。ポップでかわいい絵柄や雰囲気、大好きなスタッフさんやキャストさん、どこか懐かしく、心地よい音楽。観る前から、大好きになる作品だと確信するほど公開を楽しみにしていたので、観ることができ、とても幸せだった。
 ところで、この作品は爽やかな青春映画なのだけれど、少し特別なエッセンスが効いている。それは、「俳句」。この映画にはポップで瑞々しい、魅力的な俳句がたくさん登場する。映画のタイトルも、その一首。17文字でこんなに伝えられるんだ。
 この映画にガツンとやられて以降、趣味に俳句が加わった。最近読んだのは、『花と緑の歳時記365日』(俳句αあるふぁ編集部/毎日新聞出版)。365日分の俳句が、美しい植物の写真とともに掲載されている。毎日を丁寧に生きる。俳句をよむとそんな人に近づける気がする。 『花と緑の歳時記365日』購入はこちら >
 
 

 

東京経済大学3年生 内田 充俊


1月21日『真夜中乙女戦争』映画化

 思い出に残る本との出会いは、偶然だ。
 毎日1冊、私は本を読む。読書日記を書くとき、直近3ヶ月間に読んだ90冊の中から5冊を選んで紹介している。しかし今回、1冊だけの紹介に全てのスペースを使いたい。
 紹介する本は2022年1月21日に映画も公開された、F『真夜中乙女戦争』(角川文庫)だ。
 高校生の時は文芸部に所属していた。放課後に辻村深月や湊かなえや、綾辻行人を語り合える雰囲気が好きだった。「獣も人も求愛する時の瞳は特別な光を放っているんじゃないか」。そんな書き出しから始める穂村弘さんの詩集があるが、先輩たちが目をキラキラと輝かせて好きな本について語る姿勢を見て、人は本にも恋することができるのだと知った。
 文芸部とは小説を書くところだと知ったのは、入部した後だった。卒業する頃には文学フリマにも足を運ぶようになっていた。それまで読むだけだった僕が、書くことを楽しいと思うようになったきっかけだった。
 大学に入学した時も自然と、文芸サークルを探した。自分の大学に文芸サークルが無いと知って愕然とした。代わりにコミケに漫画や文章を出展するサークルがあったので、所属して純文学を書き綴るようになった。
「あなたの文章を読んで、この本好きそうだなって思ったんです」コミケで頒布した小説の感想を、名前も知らないコスプレイヤーがSNSで教えてくれた。Fさんの『真夜中乙女戦争』という本だった。「とりあえず1行だけ読んでみよう」と書店に行ったつもりが、1時間立ち読みしていた。購入し、帰るまでの時間も惜しくて書店の隣のヴェローチェで最後まで読み切った。書店に戻って、「この作者の既刊が他にもあれば下さい」と、すべて買って帰った。それほどまでにハマってしまったのだ。大学一年生の冬だった。
 それから2年経ち、その本が映画化されることになった。私は、『izumi』の読者スタッフになっていた。「Fさんの『真夜中乙女戦争』の映画化に伴って、ダヴィンチ・ニュースに〈『真夜中乙女戦争』を語る座談会〉という企画があります」その知らせを受けた時に私は真っ先に手を挙げた。2022年1月。大学3年生の冬、大好きだった本の企画に関われた。とてもとても嬉しかった。
 そんな思い出の本である。1年に365冊読む私が、2年間、片想いするほどには好きな本なので、本に没頭したい方はぜひ1行だけでも立ち読みしてみてほしい。2年前にふいの一言から本書と出会った私のように、拙文が本書と出会う偶然のきっかけになれば望外の喜びである。 『真夜中乙女戦争』購入はこちら >
 
 
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