座・対談 @ オンライン
夢をかなえるヒント
今村 翔吾さん(歴史小説・時代小説家)P2



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3. 夢の実現は「思い」と「分析力」

小古井
 そういうレベルの高さを感じていらっしゃった中で、でもやっぱり挑戦しようと思ったきっかけ、心構えみたいなもの、あるいは挑戦するまでの葛藤みたいなものはありましたか。
 

今村
 他のインタビューでも答えていますけど、教え子に夢を語ったときに、「先生も夢を諦めてるやん」って言われたのが、作家に挑戦しようと思った一番のきっかけなんですね。もっと詳しく言うと、僕らが子どもの頃って、やっぱり60歳定年、60歳からお爺ちゃん、みたいなイメージが強くあったんですよ。その60歳の半分に差し掛かったときに、「もう半分来てしまった」っていうことと「俺はまだ何もしてない」という焦燥感は強かったかな。だから、自分が何をやりたいのか、何ができるのか、これからの人生をどうしたいのかということを本気で見つめ直した1年間で、その時期にそういうアンテナを張っていたから、その子の言葉を僕はキャッチできたのかなと思うんですよ。もし腐っていただけだったら、その言葉も「何を言ってんねん」でスルーしていたような気もします。みなさんにもそういう転機なんてこれから何度もあると思うけど、逃さないようなアンテナの張り方がすごく必要だと思いますね。
 小説を書き始めてからは、「いける」って思いましたよ。本屋さんに平積みされている本を見て、こんなことを言ったらすごく偉そうだけど「俺いけるな」「今の主力がこの辺やったら自分はこの中の隙間に入っていけるな」っていう自信はありました。

齊藤
 作家になると決意されてから、たくさんの新人賞等に応募されたそうですね。

今村
 したした。

齊藤
 どのぐらいのペースで書かれていたんですか。

今村
 その当時は、年間で500枚の長編を3本、プラス短編を4本ぐらい書いて、片端から新人賞に出していました。でも1年ぐらい経つと、どの賞が自分に「合う」「合わない」ということがなんとなく分かってくるんですね。だから僕は、集英社の「小説すばる新人賞」とかは向かんなってすぐ分かったんですけど、北方謙三先生が選考委員をされていて「ここには行きたい」っていう思いがあったので、唯一2回応募しました。結局3次選考止まりだったけど。
 だからそういう分析力も必要かもしれませんね。文学賞、小説の世界でもそうだから、多分ほかの分野でも。いくら自分がやりたいと思っても、夢を追うにあたっては、思いだけじゃなくて冷静な目を持つことも必要かなと思います。

 

徳岡
 その時期は1日のほとんどの時間を執筆に充てられていたそうですが、私だったら頭の中が混乱しそうだなと思ったんですけど、今村さんの精神状態はどんな感じでしたか。
 


今村
 まあ精神的にはおかしな状態で書いていたんじゃないかな。あの頃はちょっと目つきが……目が吊り上っていたと思いますよ。今も変わらないけど、あの頃ほどの鬼気迫るものではないかも。
 デビューをするまでは、多分プライドとか、日本人特有の恥の概念みたいな。子ども達にあれだけ大きいことを言って何もできなかったら恥ずかしいという気持ちがあったし、自分に対するそういう思いがほとばしって、もう行動に出ていた感じですね。
 デビューしてからもそうかもしれない。「SNSとかで『いいね』が増えたら嬉しいな」という、あれの究極版を小説でやっているような気もします。手間はかかるけどね、めちゃくちゃ。承認欲求と言えば承認欲求かなとも思うし。
 恥の概念って、日本人特有と言われるけど、その概念を理解できる民族であるならば、悪い方じゃなくてプラスの方に転化できるようにするといいのかなと思いますね。

徳岡
 プレッシャーとか恥の概念をプラスに転化するっていうのはすごくカッコいいですね。

今村
 自分はもとがネガティブなんだと思いますよ。だから「時間を無駄にせんまま最短ルートでできることはなんやろ」って常に考えていたし、行動と思考プラス創作を並列でやっていましたね。30歳になってようやく無駄にする時間は無いって気づいたかな。

齊藤
 小説にものすごく情熱を傾けていたデビュー前があり、そしてたくさん本を出せるようになった現在はいろんなことに挑戦されていますよね。本屋さんの経営もそうですし、47都道府県を巡るとか(*2)。その原動力はどこから来るのでしょうか。

今村
 大前提として、突き詰めていくと「やりたい」だと思う。「やりたい」という感情に素直に従うというのは一つ大前提としてあると思うし、打算と言えば打算もあると思う。というのは、自分がこうやってアクティブに活動することが一つの僕の「売り」になっているから、それをもっと知ってもらいたいみたいな思いもあるかもしれないし、あと、47都道府県巡るって、こんなことをした作家はいないから(笑)。この前ね、この旅の行程が出てきたんだけど、118泊119日だったよ。

一同
 (爆笑)

今村
 おかしいやろ?(笑) 自分でもびっくりしましたよ。宮崎から石垣島へ行って、石垣島から東京で「Nスタ」(*3)に出演して、また宮崎に戻ってとかね。残念ながらお断りしたところもあるんだけど、昨日も宮崎県の椎葉村という三大秘境と呼ばれているところへ行くか否かで悩んだけど、やっぱり行ってあげたい。「喜んでもらいたい」というサービス精神が原動力かな。
 あとは作家としてだけの今村翔吾で終わりたくないという、突き上げる思いみたいなものも常にあります。『幸村を討て』の中にも書いたけど、究極の寂しがり屋みたいな話がありましたよね、「人はなぜ名を残そうとするのか」という場面で。人間には死んだ後も誰かに覚えていてほしいという欲求があるんだろうなと。僕は、それが人よりちょっと強いかもしれない。どう?みなさんにはそういう感覚ってある?

小古井
 確かにあるなぁっていうのは感じますね。


*2:直木賞受賞会見の際に宣言していた企画「今村翔吾のまつり旅~47都道府県まわりきるまで帰りません~」。47都道府県の書店、学校、社会福祉施設などを5月末より巡回中。

*3:TBSなどJNN系列各局で放送されている報道・情報番組。


 

4. 人生プランの考え方

今村
 チープな言い方だけど、例えば有名になりたい、何かを成し遂げたいとか、そういうのもある?

一同
 (全員頷く)

齊藤
 私は最近、進路を考えなきゃいけない時期にいるので、自分がいったい何を突き詰めて何を為していくのかということは結構考えたりします。

今村
 今まで一生懸命勉強してきたから、選択肢は普通の人より多分多いはずですよね、絶対。そこは武器にしたらいいと思う。もちろん「新卒」のカードという最大の武器はあるかもしれないけど、逆にそれにとらわれないで、途中で転職するのもありだと思うし。時間軸を、自分が何歳ぐらいまで生きるかということをイメージしながらやると、気が楽になるような気がしますよ。
 僕は、死ぬ年齢を45歳と(一応)想定して生きています。45歳で死んでも後悔が無いようなプランを逆算して考えているかな。常に10年計画ぐらいでイメージしておくと、適度に焦って行動もできるし、適度にゆとりもあるし、計画性も出る。
 何があるかわからんやん? コロナもそうだけど、人生にはいろんなことがあるので、そうやって考えて生きてますね。

 

齊藤
 その考え方はめちゃくちゃいいなって思います。よく「人生100年」とか言われちゃうと、「いや長すぎて考えられないし、本当にそんなに生きられるのか」って疑問ばかりが膨らんでくるので。

今村
 もっと言えば、人生を5年毎ぐらいのスパンに切っていくとしますよね。それを全部並べた時に、例えば、ここの5年にはこういう問題が出てくるなとか、長期のスパンの中で問題も見えてくると思うんですね。ここで5年、5年、あ、じゃあこのとき自分は国が言っている2000万円問題を達成できてないじゃん、まずい、じゃあ逆算で、ここはこういう5年にしようとか。長くぼんやりと考えるより、細かく切った中から浮き上がるものを人生の主題で見つけていくというのは、良いやり方だと僕は思います。


徳岡
 やりたいこととか挑戦したいことはいろいろあるけどどれも漠然としていて「これだ」っていうものがなかなか見つからない時、今村さんはどのようにされていますか。

今村
 どうやろうな。これ難しいなあ。人それぞれなところもあると思うけど、時間的に余裕があるならとりあえず全部やってみたら? やってみるとある程度、向かないなというものがわかるんじゃないかな。とりあえずやりたいことを順番にやってみて、「あ、これいいな」って思ったところでストップして、それに打ち込んでみるっていうのは一つのやり方かな。あとはさっきも言ったように、僕は結構時間というものをすごく考えるから、やっぱり悩んでる時間がもったいない。それだったら試してみることにその時間を割いた方がいいような気がします。悩んでても、そこでずっと立ち止まっている感じがするんですよね。特に僕みたいなタイプは行動しながら思考するから、時間の節約にはなるし逆にそれ以外の考え方は苦手かもしれない。

 

 

5. 次のステップへ

小古井
 今村さんは、いま新たに挑戦したいことはありますか。

今村
 いま47都道府県企画を並行しつつ、一方で計画していることとして、若者に本とか言葉の可能性を広げていくみたいなことを、言葉に携わる人たちとスタートさせたいなって思っています。具体的なことはこれからですが、「きのしたブックセンター」もそうだったように、「復活」というのが僕のテーマになってきていて、時代が求めているとも思うんですよね。
 一時期、平成の大合併の時に補助金が付いて地方で文学賞が乱立したんですが、その中で潰れていった文学賞もあるんです。それを復活させて継続していける仕組みみたいなものを考えたり、文学とか本とか言葉とかが活発になるような活動をしたりしたいと考えています。
 これを今のところは自分が中心でやろうと思っていますけど、10年したらそこから身を引こうということも考えています。ひとりの人間がやり続けると成長を止めるような気がするし、誰かに引き継いだほうがいいと思うんです。だから僕は10年の間に一番しんどいところを切り拓いたら、次の世代の作家とか誰かに譲って、その組織からは離れようと思っています。

徳岡
 最後の質問です。大学生のうちに今村さんがやっといてよかったなと思うこととか、逆にやっておけばよかったなと思うことはありますか。

今村
 僕は家業的な問題でサークルとかも一切できなかったから、それはやっておけばよかったなあというか、羨ましいなって単純に思います。あと、勉強ももっとしておけば良かったなって思いますね。1年生の頃の一般教育科目も、今受けたら面白いだろうなって思います。普段聞けないような話もいっぱい聞けただろうし。
 やって良かったことは、さっきも言ったけど、多くの人と会うこと。これに関しては結構貪欲だったかな。これを言うと「人脈作り」みたいにとらえられがちだけど、数をこなせばいいわけではないし、そもそも僕は「人脈」という言葉があまり好きじゃなくて……。人脈という言葉を使わなくても人は本当に助けてくれるから、それは付きあい方次第だと思いますよ。お金のコネクションとかいろんなコネクションがあるけど、人と人とのコネクションというのが一番強いということは間違いないです。月並みな言葉だけど、どれだけ誠実に付き合うかということが、今に活きています。
 一昨日に開かれたサイン会や今回の47都道府県企画でも、長年の付き合いがある人や教え子がたくさん来てくれたり応援してくれたりしているので、そういう意味では、自分の生き方は間違っていなかったかなと思いますね。だから、みなさんも、いろいろ経験しておいたらいいのではないでしょうか。
 
(収録日:2022年4月30日)
 

サイン本プレゼント!

中央公論新社/定価2,200円(税込)

今村翔吾さんの著書『幸村を討て』(中央公論新社)のサイン本を、5名の方にプレゼントします。
『読書のいずみ』Webサイトにてご応募ください。
応募締め切りは8月10日。当選の発表は商品の発送をもってかえさせていただきます。
 
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対談を終えて

小古井 遥香(こごい・はるか)
 歴史上の人物も、今までに出会った人との縁も大切にする今村さんのお人柄に憧れを抱きました。人とのつながりという点で特に、インタビューの内容に答えていただいただけでなく、私たちインタビュアーの将来の夢にもアドバイスをくださったことが印象に残っています。人を笑顔の内に巻き込むお人柄が格好良く、もっとお話ししてみたいと強く思いました。この度は貴重な機会をありがとうございました。


齊藤 ゆずか(さいとう・ゆずか)
 今村さんの「まずはやってみる、そして冷静に分析する」という考え方は、どこか今村さんの物語に出てくる武将たちのようでもありました。歴史上の人物の生き方を描く中でご自身が、自分にとって豊かな生き方や今の時代というものを真剣に考えていることが印象的でした。いつの間にか、「私も夢をかなえたい」と前向きになり、そしてあらゆるものに誠実でありたいと改めて感じた素敵な時間でした。ありがとうございました。


徳岡 柚月(とくおか・ゆずき)
 本当に楽しく、ありがたいお時間をいただき、ありがとうございました!『幸村を討て』が私にとっては初めてしっかり読んだ時代小説で、「時代小説ってこんなにおもしろいんだ!」とすごく感動したので、今回お話を伺えてとても嬉しかったです。また、今村さんご自身の夢へ突き進まれる熱量と夢を実現するための分析力がすばらしく、自分もこうなりたいと感じました。お話しいただいたことを糧に、自分の夢に向かって頑張ります!


 
P r o f i l e

撮影:中央公論新社

今村 翔吾(いまむら・しょうご)
1984年京都府生まれ。2017年刊行のデビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で、18年、第7回歴史時代作家クラブ賞・文庫書き下ろし新人賞を受賞。同年、「童神」で第10回角川春樹小説賞を受賞。『童の神』と改題された同作は第160回直木賞候補にもなった。20年『八本目の槍』で第41回吉川英治文学新人賞と第8回野村胡堂文学賞を受賞。同年、『じんかん』が第163回直木賞候補になるとともに、第11回山田風太郎賞を受賞。21年「羽州ぼろ鳶組」シリーズで第6回吉川英治文庫賞を受賞。22年『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞。他の文庫シリーズに「くらまし屋稼業」「イクサガミ」がある。
 

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