いずみスタッフの 読書日記 171号


レギュラー企画『読書のいずみ』読者スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • お茶の水女子大学4年生
    川柳 琴美
    M O R E
  • 京都大学大学院
    徳岡 柚月
    M O R E
  • 信州大学3年生
    小古井 遥香
    M O R E
  • 大阪公立大学大学院
    福田 望琴
    M O R E

 

 

お茶の水女子大学4年生 川柳琴美

2月 チョコレートの季節

 まだまだ大学生でいたい……!
 就活をしていると、こんなことばかり考えてしまう。いつもなら自分と似た状況にある主人公の本を読んでモチベーションを上げるのだが、今回は迷った。就活小説の金字塔『何者』(朝井リョウ/新潮文庫)。今こそ読むべきと思う一方で、今はダメだ、読んだら余計に落ち込むと警告する自分もいる。結局は、好奇心が勝った。
 結論からいうと、読んでよかった。就活に翻弄される登場人物に共感したり、刺さる言葉があったり、就活中ならではの味わい方ができたように思う。しかし、それ以上に就活スタイルの変化が分かるのが面白かった。焦りや葛藤など、根本的な部分は変わらない一方で、就活スケジュールやSNSの使い方など、10年も経たないうちにかなりの変化があったことが分かる。特に、オンラインが当たり前になった現代の就活生にとって、スーツを着て電車に乗り、会社をはしごする描写は新鮮だ。オンラインで楽になったと思う一方で、友達とワイワイ就活対策している彼らが羨ましい。『何者』購入はこちら >
 

3月 ももの季節

 私の地元には、日本一有名な小学生がいる。皆さんご存じ『ちびまる子ちゃん』だ。その作者で、まるちゃん自身でもあるさくらももこ先生のエッセイを初めて手に取った。選んだのは『もものかんづめ』(集英社文庫)。短大時代や漫画家となったさくら先生の日常が、ユーモアたっぷりに描かれている。文章なのに漫画のようなテンポと軽さで、あっという間に読了。地元が舞台なので、慣れ親しんだ場所が出てくるのも楽しかった。
 また、巻末には、当時お茶大で教授をしていらした哲学者の土屋賢二先生(現名誉教授)との対談が! こんなに面白い先生がお茶大にいたなんてと、授業を受けられないことを残念に思いながら、先生の著書『あたらしい哲学入門 なぜ人間は八本足か?』(文春文庫)を図書館で借りる。「決める」と「知る」は両立しないなど、なるほどなぁと勉強になることが詰まっているのに、著者紹介に至るまで、隅から隅までユーモアが行き渡っているのだからすごい。
 すっかり先生のファンになり、続いて『幸・不幸の分かれ道 考え違いとユーモア』(東京書籍)を借りてきた。これまた、なんと面白くてためになることか!
 就活に苦戦する日々だが「大抵のことは大したことない、ユーモアを忘れるな」と、さくら先生、土屋先生が励ましてくれた。
 
 
 

 

京都大学大学院 徳岡柚月

3月30日(水)往路にて

 京都より、新幹線で博多へ向かっている。
博多で在来線に乗り換え、肥前鹿島駅にて下車。バスで祐徳稲荷神社へ。参詣後、在来線で佐世保へ。本日の予定を確認したら、旅行誌の見直し。はじめての一人旅。いくら準備しても不安と緊張が拭えない。されどやはりワクワクのほうが勝る。ある程度雑誌の復習を終えたら、車窓を彩る風景を眺めつつ、お供の小説を取り出した。かの名は『SOSの猿』(伊坂幸太郎/中公文庫)。このたびはどうぞよろしく。 『SOSの猿』購入はこちら >
 

3月31日(木)長崎にて

 佐世保から9時発の高速バスに乗って長崎へ。旅行中は自然と早起きになる。多分ワクワクのおかげ。健康的な生活を送っている満足感に包まれながら、『SOSの猿』を読み進める。エクソシストやら西遊記やら、単独でも濃い要素たちが奇想天外に絡み合うストーリーに、つい車窓を眺めることも忘れてページをめくる。まったく、目が2つしかないのがうらめしい。
 もうすぐ目的地へ到着するらしい。長崎では街歩きと大好きなバンドのライブを楽しむ予定だ。「また夜ホテルで会おう」。しばしの別れを告げ、本を鞄にしまう。
 

4月1日(金)有田にて

 15時ごろ長崎を出発し、在来線で有田へ。着いたのは17時ごろ。はじめて来たのにどこか懐かしい。かつて祖父と『夕焼け小焼け』を唄いながら歩いた帰り道を思い出しながら、民宿までの道をたどる。
 猫と本。この民宿を選んだ大きな理由。つまり、オーナー猫がいて、蔵書を自由に読んでいいとのこと。あまりに至福。『SOSの猿』に「浮気してごめん」とこっそり謝り、早速本を探索。選んだのは『さよならソルシエ』(穂積/小学館 フラワーコミックスαフラワーズ)と『青の花 器の森』(小玉ユキ/小学館 フラワーコミックスαフラワーズ)。前者はゴッホの弟、天才画商テオドルスが主人公。「ゴッホ」という存在について、驚くべき新解釈がなされている。そしてとにかくテオドルスがかっこいい!
後者は、「波佐見」(有田の隣町で「波佐見焼」が有名。かわいい!)が舞台。作陶家と絵付け師のキュートかつ波瀾万丈なラブストーリーだ。明日訪れる町が描かれていることに興奮、さらに恋模様に胸キュンと、心拍数高めで貪り読んだ。  
 

4月2日帰路にて

 波佐見からバス、新幹線で京都へ。旅も終わりが近づき、さみしい。同時に『SOSの猿』もいよいよ佳境。主人公は、孫悟空はSOSに応えられるのか? 旅が終わる頃にはその答えも分かっているのだろう。
「旅をさらに楽しませてくれた君は、『お供』じゃなくて『相棒』だ」
 ところで、この「相棒」には、対をなす存在(『SARU』(五十嵐大介/小学館 IKKI COMIX)がいるらしい。おうちについてからも、「相棒」との本の旅は続きそうだ。『SARU』購入はこちら >
 
 

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