いずみスタッフの 読書日記 171号 P2


レギュラー企画『読書のいずみ』読者スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • お茶の水女子大学4年生
    川柳 琴美
    M O R E
  • 京都大学大学院
    徳岡 柚月
    M O R E
  • 信州大学3年生
    小古井 遥香
    M O R E
  • 大阪公立大学大学院
    福田 望琴
    M O R E

 

 

信州大学3年生 小古井 遥香

4月上旬

 大学生活の、残り半分(推定)が始まった。ここで、高校時代に読んでいた『砂漠』(伊坂幸太郎/実業之日本社文庫)をもう一度読んでみる。
 高校の時は、飲み会で演説をしたり聞いたり、仲間と麻雀をしたりボーリングをしたり合コンをしたり、ホストとのやっかいごとに巻き込まれたりなんて、この物語に描かれる大学生活に憧れていた。そうならなかったのはコロナがあったから、とは言わない。飲み会や合コンは、どちらにしろ、雰囲気が得意ではないし、ホストにからまれるほど刺激的な人間関係は持っていない。
 それでも、大学で出会った友達には、『砂漠』の大学生に似たかけがえのなさがある。そんな気恥ずかしいような誇りを、小説の一節一節ごと噛みしめる。 『砂漠』購入はこちら >
 

4月中旬

 黄色い。甘い。長い。……黄色い。
 『バナナの魅力を100文字で伝えてください』(柿内尚文/かんき出版)を手にとったのは、愛すべきバナナ(嫌いな方には申し訳ない)に対してそんな説明しか思い浮かばなかった自分が、悔しかったからだ。
 正直に話すこと。一番初めに書いてあったTipsは、ダメなところも正直に伝えていいところを際立たせること、だった。バナナのダメなところ?
 悲しいかな、愛しすぎて欠点が見えなくなっている。誰か教えて欲しい。人と好き嫌いが分かれると、伝える時に役立つらしい。 『バナナの魅力を100文字で伝えてください』購入はこちら >
 

4月下旬

 「目に見えぬものたち」。帯に書かれたそのことばに惹かれて、『天使日記』(寺尾紗穂/スタンド・ブックス)を買う。友達に紹介してもらった、アパートの近くの小さな本屋さんでのこと。
 著者である寺尾さんは、文筆家であり、音楽家でもある。音楽活動や日常の中での、人々や「見えぬものたち」との出会いが綴られていく。
 例えば、歌に集まる人の魂。娘さんが見た「天使」。文化。偏見。友情。「好き」の気持ち。日常にある「目に見えぬもの」の息吹を、確かに感じ、愛しむ。
 一度読んだら、真っ白で無垢なこの本を、抱きしめずにはいられなかった。この本を手にとったのも、「縁」という見えぬものによるのだと気がついたから。 『天使日記』購入はこちら >
 
 

 

大阪公立大学大学院 福田 望琴

『読書のいずみ』新学期号のインタビュー記事「座・対談@オンライン」にあった一文が頭から離れず、無性に読みたくてたまらなくなり、馴染みの本屋に駆け込む。お目当てのそれはすぐに見つかった。『カラフル』(森絵都/文春文庫)。子供のころ、初めてこの本を手に取ったときは、「カラフル」という題名なのに、なぜ表紙がほぼ単色なのか不思議だった。懐かしい黄色の友を携え、浴室に向かう。いつからか風呂場で本を読む時間が増えたのは、活字が自分の心に溶けていく感覚と、お湯が自分の身体を温めていく感覚が似ているからかもしれない、とうっとり考えるが、即座にもう一人の私からツッコミが飛んでくる。「部屋が汚くて落ち着かないから逃げ込んでるだけだろう?」はい、おっしゃる通りで御座います。10年以上ぶりにページを開くと、おぼろげに記憶していた筋書きとは全く違う世界が広がっていた。子供のころはおそらくそこまで気に留めなかったであろう一行を何度も読み返してはボロボロ泣いた。
そして、この本を求めたきっかけ—前述の記事の『カラフル』の紹介文でインタビュアーの瀬野さんが書かれていた「人との関係に悩んでしまうときに読みたい一冊」という言葉—をしみじみと噛み締めうなずいた。100分ほどで一気読み。今なら、なぜこの作品の表紙が黄色なのか、少しだけ分かるような気がする。茹で蛸のように真っ赤な顔で、ごくごくと音を立ててコップの牛乳を飲みほした。生きていこうと思った。
 カラフルを読み終えてすぐ、本棚に手を伸ばした。ターコイズブルーの鮮やかな表紙に所々ついた消えないシミが、私を見つめていた。子供のころ親に買ってもらって以来、節目節目で読み返す友。久しぶり、『ラン』(森絵都/理論社)。お正月の箱根駅伝のテレビ中継を観た後、この本や『風が強く吹いている』(三浦しをん/新潮文庫)、『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子/講談社文庫)を読みふける人とは、きっと仲良くなれる気がするけれど、実生活の中であまり出会ったことがないので淋しい。(もしもこの日記を読んでいる人の中に同志がいらっしゃったらこっそり教えて下さい。)この作品には、たまらなく心が締め付けられる苦しいシーンがあり、個人的には読むのに少し覚悟がいる。けれど読み進めた先に待っているラストシーンを目指し、今回も完走(読了)した。何十回も読んでいるけれど、涙なしで読み終えたことは一度もない。嗚咽しながら、まだ叶えていない夢のことを考えた。私もいつか主人公のように……!
旧友たちとの再会はいつも胸を熱くさせる。 『ラン』購入はこちら >
 
 
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