第18回全国読書マラソン・コメント大賞
優秀コメント発表!! P2

特集「大学生協の読書マラソン」記事一覧

【主催】全国大学生活協同組合連合会 

 

ナイスランナー賞は180点が選ばれました。
今回はその中から12点をご紹介します。


  • 『同志少女よ、敵を撃て』
    逢坂冬馬/早川書房購入はこちら > 平和な、普通の村に住む少女セラフィマが戦地で狙撃手として戦い変わっていく。彼女自身迷いながら、しかし確実に冷酷な戦士になる。その中で戦争とは、当たり前が当たり前でなくなることだと思い知らされました。死が遠く離れたものであった私に、そう感じてしまう生活の奇跡を教えてくれた本です。百戦錬磨の狙撃手の、綺麗事だけでは決してない険しい道のりと戦争の残酷さ、命の脆さを描いた作品です。女性視点から見る戦争という意味でも深く考えさせられます。

    むすびさん(関西学院大学)


  • 『サラダ記念日』
    俵万智/河出文庫購入はこちら > 「思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ」
     中学校の教科書に載っている歌だった。当時は過ぎゆく夏の淋しさと形すらも取っておきたいと願う気持ちが込められた歌だという解釈を習い、その通りだと思った。でも、実際は違う。1つの章をまとめて読めば、本当は強烈な失恋と未練の歌だということが分かる。去って行くのは夏だけではなかったのだ。同じ歌でも並べ方やまとめ方一つでこんなに違った姿を現す。等身大の女の子が、最短の言葉でその時の空気を掴んできたままのものが記してあるのだ。もっと早く読めばよかった。歌を詠むってこういうことなのか、と私の心は鷲掴みにされた。

    弓川亜月さん(京都大学)


  • 『モモ』
    エンデ/岩波少年文庫 購入はこちら > 近年、「時間を効率的に使うこと」、いわゆる「タイパ」を重視する人は多い。確かに限られた人生の時間はよく考えて過ごすべきだ。しかし、「時間のムダ」とは一体何か。他愛もないおしゃべりをするのは、窓辺で物思いに耽るのは、道端に咲いた花にふと足を止めるのは、「時間のムダ」だろうか? 『モモ』には時間をムダにすることを許せないという「時間貯蓄銀行」の人々が登場するが、彼らの精神はまさに、忙しく時間に追われる現代人に通ずる。そんな彼らに対抗し静かに奮闘する少女モモの姿は、私たちに立ち止まって考える時間をくれる。

    マユさん(慶應義塾大学)


  • 『あと少し、もう少し』
    瀬尾まいこ/新潮文庫購入はこちら > いつからか、新たに何かを始めることに臆病になっている自分に気がついた。挑戦の先で待つ挫折や失敗を勝手に見越して逃げているのかもしれない。
     駅伝メンバーは寄せ集めの6人だった。そんな寄せ集めメンバーに、私は勇気をもらった。ただ勝負に勝ちたいという思いもある。けれどそれ以上の、あともう少しだけ、みんなと走りたいという願いがとても美しかった。
    「中学校っていくら失敗してもいい場所なんだって」という言葉があった。私は都合良く言い換えることにした。「人生っていくら失敗してもいい場所なんだって」

    もくもくさん(弘前大学)


  • 『臨床の砦』
    夏川草介/小学館文庫購入はこちら > 今から約3年前、コロナにより世界は一変した。外出自粛、時短営業、オンライン授業などが当たり前の世の中になった。私も、大学生活の約半分をオンライン授業で過ごした。しかし、私は「見えない脅威」に対してどこか他人事のように思っていたのかもしれない。この本を読んで、コロナ禍での医療現場の実態、そして医療従事者たちの苦悩と尽力を初めて知った。今、コロナという「見えない脅威」の治療に関わる全ての医療従事者の「見えない尽力」に深く感謝を捧げたい。

    トロイの木馬さん(大阪大学)


  • 『六人の嘘つきな大学生』
    浅倉秋成/KADOKAWA購入はこちら > 超人気IT企業の最終選考はグループディスカッション。選考された6人の大学生とそれぞれの罪が告発された封筒がきっかけで始まる心理戦。夢中になって2日で読み終えてしまった。人は誰しも良い面と悪い面を持ち合わせている。ある立場から見ると救いようのない悪魔のような人でも、別の立場から見ると絶対的ヒーローかもしれない。逆も然り。人の本質なんて誰にも分からないけれど、自分の目に映った相手の側面を信じ、信じられ、裏切り、裏切られ生きていく。信じられず絶望するか、見える部分を信じ抜くか、私はどちらの人間だろう。
     

    くらたさん(東北学院大学)


  • 『これからの男の子たちへ 
    ―― 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』

    太田啓子/大月書店購入はこちら > 最初にこの本のタイトルを見たとき、自分は痛いところを突かれたような気がした。思い返すと女性を蔑視し、モノのように扱う発言をした経験が自分にある。異性を愛する男性というだけで、様々な特権があるという指摘があった。自分はこの特権に無自覚だと思った。無自覚でいられたことが、特権を表しているようだった。でも、特権を自覚し、それを社会の問題を解決するために使うこともできる。自分の特権に気が付けたことは、特権を用いて社会の問題を解決するスタートラインに立っていることと同義だと思う。

    T.Oさん(広島修道大学)


  • 『最後の秘境 東京藝大
    ―― 天才たちのカオスな日常』

    二宮敦人/新潮文庫購入はこちら > 私はこの本と出会うまでずっと創作活動をするのが怖かった。創作活動をすると、おのずと自分の才能の限界や真の実力と向き合う必要があるからである。本作を読んで創作活動に対する心のしこりが解消された。飲み物を飲んでおしっこを生み出すように、食べ物を食べてうんちを生み出すように創作活動は目、耳、鼻、口、触覚、そして心の六感で感じたものを自分の中で何か形作って生み出すだけなんだと思った。ただ出すだけ。つまり創作は自分の中で完結するものであって、自分と向き合うもの。他人と比較はいらない。私もいろいろ生み出せる人間になりたい。

    ねぼすけさん(徳島大学大学院)


  • 『数学10大論争』
    ハル・ヘルマン/紀伊國屋書店購入はこちら > 数学の理路整然とした理論や概念を見ると、まるで初めからその状態であったかのように思うかもしれない。しかしそれらは人間が試行錯誤しながら見つけてきたのだ。この本は数学が発達する過程を人間の対立を通して書く。数学者はあるときは解の公式を勝手に世に出したと争い、あるときは集合論などの新しい概念をめぐって争った。この本では、対立した人物の経歴を細かくたどりながらなぜそう考えたのかを見ていく。よって数学の難しい内容は出てこず、専門外の人でも引き込まれるだろう。この本を読んで数学の泥臭さを感じ取ってほしい。

    Kryptonさん(東京工業大学)


  • 『急に具合が悪くなる』
    宮野真生子、磯野真穂/晶文社購入はこちら > 「わからないことに怒り、それを問う力を、自分の人生を取り返す強さを、哲学は私に与えてくれたのです」
    がんと闘いながら生きた哲学者の宮野真生子先生が、文化人類学者の磯野真穂先生との往復書簡の中で述べられた言葉です。私は大学に入学してから、それまでになかった違和感に長く苦しめられ、心身ともに限界近くまで消耗しました。その後回復しつつもなかなか思うように動いてくれない頭と体、あちこちに苦しみが転がった社会にうんざりし、哲学に関心を持ち始めた頃にこの言葉との出会いがありました。わからないこと、受け入れ難いことを前にした時、自分の問いを立て、自分の人生を生きるのだと、強く背中を押してくれる言葉でした。

    たんぽぽさん(東京大学)


  • 『不味い! 』
    小泉武夫/新潮文庫購入はこちら > 美味しいものを紹介する本は沢山ありますが、あえて不味いものを紹介する本はなかなかありません。いざ読んでみても食べたいなぁ、とはならないのが本書の面白いところ。自分が食べてみたいとは思いませんが、著者の小泉武夫さんが食べて苦しんでいるところは見てみたいと思えるのは、きっと文中の著者の軽快でキレのある批判とツッコミのおかげです。因みに私は大阪在住なのですが、「大阪のホテルの水」も取り上げられているんですよね……。私が普段飲んでいる水、もしかしてめちゃくちゃ不味いのでしょうか。

    おかゆさん(立命館大学)


  • 『FACT FULNESS』
    ハンス・ロスリング/日経BP社購入はこちら > サーカスの剣飲み芸を見て驚かない人はいないでしょう。眼の前のことを信じられないほどの驚き。この本では、著者が国際機関が発表している一般的なデータを用いて、私達に剣飲み芸を披露してくれます。
     私達がどれほど眼の前のことを知らないか。なぜ知らないのか。それらの根本的な理由を、具体的な経験と揺るぎないデータを駆使して鮮やかに説明してくれます。
     読んだ後、私たちは気づくでしょう。
     こんなにも世界は進歩しているのだと。
     こんなにも私達の未来には希望があるのだと。
     こんなにも私たちは幸せであると。
     幸せになる一冊です。

    Big Happinessさん(関西学院大学)

 
 

選考を終えて

永江 朗(フリーライター)

 これまで以上に難しい選考でした。事務局から第1次選考を通過した作品が届くと、例年通り私はひとつひとつ読みながら粗選りしていったのですが、なんと1回目の粗選りでは半数以上が残りました。そこで更に2回目、3回目と絞って、ようやく選考委員会に臨みました。選考委員会では最終的に金銀銅の各賞を選出したわけですが、各賞受賞作のあいだに大きな実力差はありません。違うメンバーが選考していれば、結果も違っていたでしょう。
 応募数も昨年に比べると倍増しました。まだコロナ禍前の状態には戻っていませんが、パンデミックのなかでも書物に向き合おうとしている学生が多いことが分かります。食品や光熱費、生活必需品も含めて日常のさまざまなものが値上がりする中、図書費用を捻出するのは大変なことですが、学生の皆さんはよく読んでいます。「読書離れが深刻だ」「最近の若者は本を読まない」などと言う大人もいますが、それは必ずしも実態に即していないと感じます。
 取り上げられた本はまさに多種多様。朝井リョウをはじめ現代の若手作家の作品もよく読まれていますが、何十年も読み継がれている古典名作も少なくありません。
 みなさん書店(生協の書籍売場)におけるコメントカードの特性をよく理解して参加しています。第三者に読まれることを前提として書いていて、こう感じた、こう思ったという感想だけ記したものではないし、あらすじや梗概をまとめただけでもない。感動を表現すると同時に、「ぜひこの本を読んでほしい」という、経験と感動の共有を呼びかけています。本を読むという行為は個人的なものですが、その喜びを分かち合おうという気持ちが1枚1枚のコメントカードから伝わってきます。
 書く技術も年々向上しています。早い時期からSNSで発信する習慣が身についているからでしょうか。構成や語彙の選択もうまく、限られた文字数で効果的に伝えています。読書を通じた知の公共圏が生まれているのを感じます。
P r o f i l e
永江 朗(ながえ・あきら)
1958年、北海道生まれ。法政大学文学部卒。書籍輸入販売会社を経てフリーランスの編集者兼ライターに。2008年〜13年、早稲田大学文学学術院教授(任期付)。2007年〜23年、出版文化振興財団読書アドバイザー養成講座専任講師。著書に『インタビュー術!』(講談社現代新書)、『本を読むということ』(河出文庫)、『私は本屋が好きでした。』(太郎次郎社エディタス)、『小さな出版社のつづけ方』(猿江商會)など。
 
 

第18回全国読書マラソン・コメント大賞 各賞授賞者輩出校(73校、五十音順)

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