いずみスタッフの 読書日記 174号 P2

特集「本とともにキャンパスライフを」記事一覧


レギュラー企画『読書のいずみ』読者スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 京都大学大学院
    徳岡 柚月
    M O R E
     
  • お茶の水女子大学4年生
    川柳 琴美
    M O R E
     
  • 東京経済大学4年生
    内田 充俊
    M O R E
     
  • 千葉大学2年生
      高津 咲希
    M O R E
     

 

 

東京経済大学4年生 内田 充俊

1月

 よしもとばなな『小さな幸せ46こ』(中公文庫)は、なんだか心が疲れた夜に読みたくなるエピソード集だ。

「本を読め」と大人たちが口を揃えて言っていた小学生時代。「本なんて読まなくていい」と真顔で言い捨てた国語の先生が今でも忘れられない。彼は、その後、少し補足した。

 好き勝手に思いっきり生きろ。どこかで疲れて人と話したく無くなる。その時に、本を読め。「これは自分のために書かれたんだ」と思える本に出会えるまで読め。

 思いっきり恋愛すると、ラブソングの歌詞をまるで自分ごとのように理解できる夜があるかもしれない。

 それと同様に。泣き喚いて、「一生恋愛なんてしない」と心に誓うような失恋をしたり、アルバイト先で大失敗をして、自分は世界一の無能だと思ったり。そんな、死にたくなったときに部屋の隅で、体育座りをしてひたすら本を読んだらいい。

 恋愛をしたことがないのに、『ボヴァリー夫人』や『O嬢の物語』など、フランスの不倫小説を読んでも、引き込まれない。

 仕事で失敗もしたことが無いのに、ビジネス書や『7つの習慣』を熟読しても何も響かない。

 本は、本だけで完結しているのでは無い。
濃密な人生を生きて、ふと、疲れた時に、手に取るものだ。読んでいるうちに、必死にページを繰る一冊に、偶然出会うものだ。

 そんな一冊に出会ったときの、読み方や背景知識をつけるためにほんの少しだけ授業をしよう。

 その後に始まった授業は何一つ思い出せないけれど、その先生のセリフと、窓の外の夏前の真っ青な空は、今でも覚えている。素敵な本に出会うたびに、ふと思い出す。あの先生も、何かのきっかけで、そんな本に出会ったから、国語教師になったのだろうか、と。

 前置きが長くなったけれど、『小さな幸せ46こ』はなんだか心が疲れた夜に、それでも目を閉じても眠れない夜に読みたくなるエピソード集だ。そんな夜が来ないことが一番だけれど、そんな夜が来た時のために、自宅にお守りがわりにいかがですか。『小さな幸せ46こ』購入はこちら >
 
 

 

千葉大学2年生 高津 咲希

1月初旬

 元日の夕方、近くの海岸を散策した。耳が千切れそうな寒さだったが、水平線を彩る澄んだ赤橙色のグラデーションは何だか幻想的で、見ていると吸い込まれそうだった。2023年はどんな年になるだろう。心なしか、背筋が伸びた。
 以前から気になっていた『砂の女』(安部公房/新潮文庫)を読んだ。
 主人公の教師、仁木順平は休暇を取って昆虫採集に出かけていたが、蟻地獄のような家々で構成された奇妙な集落に迷い込んだ挙句、一人の女が住む砂穴の家に不本意にも閉じ込められてしまう。この集落は今まで仁木が当たり前だと信じていた価値観や彼の教師という肩書などは通用しない全くの異世界だった。砂穴からの脱出を何度も試みるもことごとく失敗する主人公。しかし、ある日思いがけず脱出の機会を得た彼が下した意外な決断とは……。
 もがけばもがくほど崩れ落ちる砂の壁が象徴するものとは何なのか……ざわざわとした心持で読み進めた。 『砂の女』購入はこちら >
 

1月中旬

「リーダーズフェスタ2023似鳥鶏さんトークセッション」に参加した。
 あっという間の2時間だった。似鳥さんがユーモアを交えながら語って下さった執筆・編集秘話はどれも私にとって新鮮だった。また、「他の人にない着眼点を持つ人が、文章が上手い人だ」と仰っていたことが特に印象に残っている。
 トークセッションの余韻に浸りながら、『育休刑事』(似鳥鶏/角川文庫)をもう一度読み直した。「パパ刑事と赤ちゃんが難事件を解決する」というあらすじに興味を持ったのが、本書との出会いだ。
 事件の展開にハラハラドキドキすると同時に、事件に巻き込まれても超マイペースな赤ちゃんの行動に癒された。
 所々に登場する注釈では、笑いのツボにハマった。本書は似鳥さんの育児経験が大いに反映されているそうで、作品から日本のリアルな子育て&育休事情が垣間見える。
 次はトークセッションの中で紹介されていた『小説の小説』を読んでみたい。似鳥さんの遊び心が詰まった自由な作品とのこと。本のカバーにも仕掛けがあるそうで楽しみだ。 『育休刑事』購入はこちら >
 
 
 
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