森谷 円 Profile
数多くある本のうちの一冊を手に取り、読み進め、読み終え、その本のことを考えた時、どんなことが頭をめぐるでしょうか。
あの場面が好きだった、あの一文が素敵だった、あの登場人物が忘れられない。あの論の展開には驚いた、あの一言が価値観を変えてくれた、あの資料が気になる。このように、その一冊の根幹をなすものから些細なことまで、人それぞれ、何かしらその一冊に対して抱くものはあるのではないでしょうか。
コメントカードには、そのように、その一冊を振り返った時に思い浮かんだことを、自由に表現すれば良いと思います。これは誰もが言う当たり前のことのようですが、コメントカードを書く度に、私はそれを再確認します(勿論、自由にといっても、誰かを意図的に傷つけることは含みません)。そうしてペンを執り、コメントカードの限られた余白に、自分が得た印象を可視化します。その過程を一切の迷いなくできる時もあれば、あれこれと悩む時もありますが、表現できることも必要な時間も人それぞれですので、私は、誰かと比較せずに楽しむことを心掛けています。
それでは、手に取ったその一冊から得られた印象を表現するには、どのような方法があるのかと考えてみると、実に多種多様です。コメントカードにおける表現で欠かせない「言葉」ですが、感想を言葉にするといっても、何に言及するかで方向性が異なっていきます。例えば、作品の展開について、読後感について、疑問点についてなど、どの視点から感想を述べるかは個性が表れる部分です。私はいつも、抽象的に感想を述べてしまいます。「悲しかった」「わくわくした」「この作品は○○のようだった」というように、その一冊によって生じた感情を率直に述べたり、何かに例えたりします。共感されにくい的外れなことを書いている場合もあるかもしれません。しかし、それでも良いと思います。先述したように、コメントカードは自身がその一冊から得られたものを自由に表現して良いものであると思っているからです。また、場合によってはイラストを描くことができるコメントカードもあるのではないでしょうか。そのような場合、感想をイラストにすることも、表現に広がりを与えると思います。私はコメントカードにイラストを加えることがしばしばありますが、そうすると、コメントカードごとに雰囲気ががらりと変わり、表現が広がるように感じます。
また、あらすじを凝縮して添えてみることもおもしろいと思います。本に既に書かれているあらすじを正確にまとめるということではなく、「○○の物語(作品)」というように自分なりにその本の内容をまとめてみるということです。難しいと思うことが多いですが、やってみると、自分がその一冊をどのように捉えていたのかが理解され、感想を整理できます。自身が抱いた感想を見つめ直すという点では、その一冊のセリフや一文をそれとわかるように紹介するのも良いと思います。コメントカードは、本と誰かを結びつける可能性を持っていることをふまえると、自分の心を掴んだその言葉は、コメントカードを通して誰かの心も同様に掴むかもしれません。
以上に述べて来たように、コメントカードは、その一冊から得られたものを、人それぞれの方法で自由に表現することが可能なものです。大きなことでも、些細なことでも、自身が抱くものを、言葉などにして表現できることはとても楽しいことだと思います。他人の評価を気にしてしまう人も、そうでない人も、のびのびと表現できれば、それはきっと、その人らしい素晴らしいコメントカードになると思います。
以上、コメントカードについて思うことを様々述べてしまいましたが、少しでも誰かにとってヒントになれれば嬉しく思います。