「大学生協2030Goals」は、大学生協が存続し大学コミュニティに貢献し続けるため、2030年までに成し遂げるべき具体的な目標(Goals)を設定し、目標達成のための行動指針を明らかにしています。コロナ禍で大学生協は経営的にも(組織的にも)極めて甚大な影響を受け、学生の生活も大きく変化しました。今回の座談会では、今一度2030Goalsを指針として大学生協の価値を確認し、組合員の暮らしの向上の実現を図り、生協再生計画につながる一助となるよう、二つの生協より実践事例をご報告いただきました。理想とする大学を思い描く視点を大切に、独自のGoals設定に至った経緯などもお話しいただきました。
本日司会を務めさせていただきます、全国大学生協連 全国学生委員会 副学生委員長で、福山市立大学出身の林 優樹と申します。
東京大学生協 専務理事の中島です。昨年全国大学生協連で2030Goals策定に参画しました。2030Goalsでは、コロナ禍からの復興をどう進めていくかという目の前の問題ももちろんですが、コロナ禍があろうとなかろうと、大きく変化する社会・大学において大学生協が価値ある存在としてあり続けるにはどうしたらいいか、という中長期的な課題が提起されています。目の前の課題と中長期の課題、この二つを結んで具体化されている生協はまだ事例としては少ないと思います。東大生協でも、大学生協連から提起されている「大学生協再生計画」をどう具体化するかまさに今考えているところです。今日は2030Goalsを我がこととして受け止め「大学生協再生計画」をまとめられている、あるいは具体的なアクションに入ろうとされている生協のお話を聞かせていただいて、大いに学びたいと思います。
茨城大学を卒業して、現在全国学生委員長として活動しています角田咲桜と申します。2030Goalsに関しては、私も昨年、学生事務局で活動している頃から、策定までの経緯や、また策定する内容について議論に加わらせていただきました。今夏行われる学生委員長セミナーでは2030Goalsを連携させながら、学生が2030Goalsを学ぶような内容を検討しております。学生がしっかりと内容を理解して、未来に向けてどんな大学生協をつくっていきたいのかを考えるのは、すごく大切なことだと思っております。本日は私も積極的に皆様に質問させていただきながら、2030Goalsを深めていきたいと思います。
立命館生協 専務理事の風折と申します。Goalsはまだまだ作成途中で悩みどころも多々ありますので、今日の座談会でいろいろなヒントを頂いて、次の総代会に向けて頑張っていこうと思っています。うちは4キャンパスにそれぞれ学生委員長がいますが、今日は大阪いばらきキャンパス(OIC)の委員長が参加してくれています。
立命館大学2回生の鈴木
山口大学生協 専務理事の中井です。中期計画は一応先日の総代会で決議していただいたのですが、いろいろな議論を重ねて作ったというよりは、まさに議論はこれからという提案書みたいなものです。昨日の全国専務理事会議でも報告させていただいたのですが、この間に起こった様々なことをお話しできばと思います。今日は私と一緒に国際総合科学部でPBL※の活動をしているリーダーが参加しております。
※山口大学国際総合学部では3年次の後半から4年次にかけて、従来の卒業研究に代わる「プロジェクト型課題解決研究(PBL(Project Based Learning))」を履修します。この科目は,3年次までに修得した課題解決能力をより実践的なものにするため、連携する自治体や企業等から提案された様々な課題にグループで取り組み、解決方法を探求・提案します。
山口大学国際総合科学部4年生の寺内
まず中島専務より2030Goalsの概要を説明いただきます。
2030Goalsの策定は2020年からスタートしました。コロナ禍で策定委員会のメンバー全員が集まれない状況の中、未曾有のパンデミックに直面して、このあと世の中はどうなっていくのだろう、そもそも大学生協は生き残っていけるのだろうか、と先が見えない不安の中で2030Goals策定プロジェクトは動き出しました。全国の専務理事や学生委員、教職員の皆さんを中心に、研究会も含めると延べ800人ほどの方に参加していただき、2030年にどのような大学生協でありたいかをまとめあげました。この2030Goalsは、一度も全員がリアルで対面することなく、オンラインで意見を出し合ってまとめたという点で、ある意味今までになかった策定プロセスを踏んだ取り組みだと思います。
2030Goalsを作る過程で随分議論をしたのは、どのように社会や大学は変わろうとも「守りたい大学生協の価値がある」ということでした。どのような状況変化があったにしても、大学生協として守りたい価値、大切にしたい価値、変わらない価値というのはきっとあるはずで、それをきちんと守っていこうということです。それと同時に「創造したい価値」も存在するということを話し合いからまとめてきました。変化する社会や大学の中で新たな価値を作っていくということです。あまりにもショックの大きいコロナ禍に直面し、ややもすると今までの大学生協を全部否定せざるを得ないのではないかという不安や危機意識もありましたが、歴史の積み重ねを全部白紙にするのではなく、「守る価値と創造する価値」の二つを大事にしていこうということを柱に据えました。
次にビジョンを整理して、20の多様なGoalsを設定しました。あるべき大学生協を語るには、一つの切り口では十分に語り得ないので、多彩なアクションプランにつながる様々なGoalsを考えました。それぞれの大学生協の歴史や到達点によってGoalsの設定は多様になって当然です。守る価値や創造する価値を具体化する切り口としてまとめたというのが特徴になっています。
それでは、二つの大学生協から、それぞれのGoalsの概要をご説明ください。
立命館生協としては、2022年1、2月ぐらいから議論を始めました。立命館には組合員が5万人います。総代会の前後から組合員の声を集めはじめ、5万人全員の声が聞けないまでも1年かけてより多くの声を集めようと、23年度総代会での決定に向けて進めています。総代会前後のタイミングで総代さんに資料を配り、キャンパスによっては事前・事後の総代会議ができているので、そういう場で議論を進めていきました。並行して組合員の声を集めるフォームを立ち上げ、同時に多くの国際生のために英語版も立ち上げたという状況です。
アンケートだけではなく、店内で職員にも直接ヒアリングを行いました。学生自身も環境やビーガンに関するアンケートをとったり、様々な形で声を聞いたりして、それらを集めて延べ5万人を目指しています。
最近では総代会明けの6、7月の理事会でも時間をとって、キャンパス討議としてキャンパスごとに理事の先生や学生が今現在の自分の考えや今後の展望に関する議論ができており、そこで先生も学生も生き生きと語り合っています。秋に向けてはそれを数値化していったり、アクションプランに落とし込んでいったりすることを目指していきたいと思っています。
先述の通り、議論を重ねてそれを組み合わせるというような理想のかたちで中期計画を作ったというよりは、“どういう生協をつくりたいか”ということをまとめたに過ぎないので、本格的な議論はこれからだと思ってはいます。ただ、作成途中の骨子の段階で各方面よりご意見は頂いていました。
なぜ急いで作ったかといいますと、分岐点となったのがやはりコロナでした。特にコロナ禍直前に山大生協は約6億円の大規模投資をしており、その直後にコロナの感染拡大が起きたのです。冷静に分析してみると、経営的には20年3月~21年4月までの経営状況がこのままずっと続くようであれば、多少の積み立てがあってもそれも食いつぶしてしまうと予測されました。そういう状況も踏まえ、落ち込むことも見据えた経営体質をつくるか、あるいは本来目標としていた経営体質を目指し上半身を伸ばしてその体制に堪え得るものにするかを考え、ここは分岐点だと思って決断に至ったという経緯がありました。
山大生協の事情だけに限れば大規模投資を行った背景もあるので、計画通り上半身を伸ばして耐え得るものを作ろうと決め、どういうものを作れるのか考えたのは、コロナで経営的には厳しくなったけれども、いろいろなことを振り返る機会になったと思っています。そのときに問われていたのは経営だけでなく、大学生協の存在価値も同様でした。「別に生協でなくてもよくない?」と思われるのは一番避けたいことで、このまま生協離れが進むことを防がなくてはならないと思いました。
改めてコロナ禍前のキャンパスを振り返ると、食堂は食事をする場所であるだけでなく、そこで談笑したり交流したりする場でもあり、学生のキャンパスライフに彩りを添えていたということに気付きました。それはこの先、形を変えながらも生協の存在を感じる大切な柱として考えたいことでした。あまり意識していませんでしたが、彩りをキャンパスに与えるということでは、生協は食堂メニューや弁当、教科書や講座やパソコンなどいろいろなものを提供していますが、それは学生の未来につながるキャンパスライフを提供しているということなのです。
その「未来につながるキャンパスライフ」には、キャンパスで過ごす生活は外せない要素です。であれば、コロナ前の活気あるキャンパスを、違うかたちも含めて描いてみよう、描きながら経営の部分も伝えられないだろうかということで掲げたのか「キャンパス街化計画」です。言い換えれば“行かなければならないキャンパス”から“行きたくなるキャンパス”へ。この計画の位置付けとしては、大学構内はもちろん、大学の周辺の生協が管理している物件に住んでいる人たちなど全てを含めてキャンパスとして捉え、様々な事業サービスを行う。そういうふうにキャンパスを活性化させていく際に一番大事にしたのが、誰もがキャンパスの中に学生生活の充実感を感じられるような「居場所」をつくることでした。「誰もが」というのは非常に難しいところで、このことについて議論を重ねているときに、結構生協のサービスというのは、知らないうちに利用できる人とできない人をつくっているのではないかということに話が及び、これは重要なキーワードだと思いました。
まだまだ街の開発には必要な部分もあるので、それはこのあと共済連解散によって分配される剰余金なども活用して開発していく計画です。キーワードでいうと具体的には六つあります。
これらをいろいろなところに持ち寄っていくと、大学の部署には福利厚生の開発を進めていただいたり、PBLの国際総合科学部ではそれを基に新しい活動を作っていただいたりということで、活動の幅と仲間が広がっていきました。
とてもワクワクするお話ですね。今のお話を、これから2030Goalsを具体化し自分の生協でどういうふうに進めていこうか、と考えておられる全国各地の専務理事の立場で聞き、質問させていただきます。お二人の話を聞いて、自分がどうしたいか(生協をどのように変えたいのか、どのような貢献をしたいのか、自分たちはどうありたいのか)という主張を、まず表明しているということが二つの生協の共通点だと思ったのですが、両生協で提案されているありたい姿というのは、専務がお一人で考えられたのですか。それとも誰かと相談して作っていかれたのでしょうか。
コロナを受けて何とかしなければという思いは私もありましたし、それは全国の専務にもあったでしょう。立命館の場合は、専務理事・常務理事という体制があったのと、役員会で理事長・副理事長と相談する場もあったので、そこでGoalsも提案されていました。立命館生協としては2020ビジョンというのも作っていましたが、コロナを受けてその総括が十分にし切れていなかったので、「いい機会なのでやりましょう」と話をしました。
最初はやはり再建をしなければという思いがあったのですが、「再建」とか「立て直し」とかいう言葉だけだとブルーになりがちなので、前を向こうよということで、再建という言葉は私たちの組合討議資料にはなるべく表現しないように、「30年にはこんな形になったらいいよね」と前向きに進めてきました。
討論のポイントは立命館では五つで、
この五つを大きな柱として提案することで議論しやすくしたいなと思いながら、資料を作りました。
スタンスは今、風折専務がおっしゃったことと似ているのですが、きっかけは20年のコロナが始まってすぐの6月ですね。一つは、大学生協連でとったアンケートでした。これを大学の方に持ち寄ると、大学ももちろんコロナの感染を押さえつつ、一方でずっと自宅にこもっている学生の対応を考えているということもあり、「両方の柱で一緒に考えていこう」と言っていただけました。
それとこのアンケートを取った後に、生協の事情をお伝えしないといけないと思って、オンラインで保護者向けの説明会をしました。そこで保護者の方からの意見を伺い、生協の果たすべき役割を再確認したのが二つ目。
もう一つは、4~5月はお店ではテイクアウト中心にしたのですね。で、そろそろカフェを開けることを考えていた時に、理事会で理事の先生がおっしゃった「キャンパスにお店があるというのを強みにしてはどうか」という言葉が印象的でした。キャンパスだからこそ安全・安心を心掛けられる、学生はそのキャンパスで過ごすのだということに考えが至りました。
これら三つのことがきっかけとなり、当時の職員全体会議でキャンパスを活性化する、街にするということを考えてみようという流れになり、「街化計画」という言葉になりました。これが最初のきっかけだったと思います。
2030Goalsを作成する中で私をはじめ職員の中で一番気を付けたのが、生協の都合で作らないというマインドです。経営が急に厳しくなったので経営を立て直すのは必須なのですが、そこだけ見てしまうと、どうしても生協の事情になります。特にコロナ禍では生協の困っていることばかり相談しようとするのですね。でも、生協も困っているけれど学生も大学も困っている。困っているのはお互い様なので、自分たちの都合を優先せず、風折専務もおっしゃったように前を向いて作る、人のために仕事をする。そこを念頭にするということだけは気を配りました。
とても参考になるお話でした。しっかり作り込もうとすると、まずは体制を整えてとか、十分なデータを集めてとか、学生組織も巻き込んでとか、どうしても組み立てを先に考えてしまい、初動が鈍くなることがあると思います。お二人の話を伺うと、まずは身近な生協の役員会、理事長先生と常勤の役員、あるいはアンケートを見て職員全体研修会でキャンパスをどうしたいのかというところから話を始めておられるのですね。最初からお膳立てをしっかり組み立てるのではなく、できるところから動き出しておられるというのがすごく印象的で、勉強になりました。
寺内さんと鈴木さんにお伺いします。今私は中井専務と風折専務のお話を聞いてとてもワクワクしたのですが、お二人が最初にGoalsのことを見て聞いた時には、どんなことを思われたのでしょうか。難しそうだと感じたのか、初めから未来の大学生協の姿を描いてワクワクしたのか、お伺いしたいと思います。
記憶にある限りだと、総代会のときに配布いただいた資料の中にその2030Goals関連の資料があって、それを見たときに最初私は「ふわっとしているな」と思ったのですね。ただ、そのあと自分が議論に加わって、意見を聞いてもらえるような機会を設けていただく中で、最初に「ふわっとしている」と思ったからこそ、一緒に作り上げていくんだという実感がどんどんわいていったという感じがありました。普通に学校生活を送っているとなかなか話す機会がない教職員の方々と理事会などでお話しできたり、そのような方々の意見を聞けたり、自分の意見を直接拾ってもらえたりするということを、この2030Goalsを通してすごく実感しました。今は皆さんと一緒に作っていこうという気持ちで、学生の意見もたくさん聞けるように、企画や運営を通して頑張っていきたいと考えています。
携わる中でイメージがどんどん変わっていって、まさに自分が主体的に作っていくのだという思いが芽生えてきたのですね。
自分がこの2030Goalsについて聞いたタイミングは、大きく分けると2回ありました。最初はPBLとして山口大学生協にご挨拶に行き、専務とお話をさせていただいたときです。その時は2030Goalsという言葉は恐らく使われていなかったのですが、専務から「山口大生協は『キャンパス街化計画』を目指して動いています」という説明を受けました。私はコロナ禍に入る前に渡航する機会が何回かあり、ある年に親戚を訪ねてアメリカのボストンに行ったのです。ボストンは言わずと知れたハーバード大学がある都市で、キャンパスに足を踏み入れると、本当にその場所は絵に描いたような学園都市という感じがしました。だから、最初に中井専務に「キャンパス街化計画」のお話を伺ったときに、もしかして生協はああいう感じの学園都市を山口大学のキャンパスの周りに作りたいのかなという印象を受けました。
その後、総代会に出席させていただいて、そこで初めて2030Goalsと「キャンパス街化計画」の六つの主張をお聞きして、具体性をもって中井専務ひいては山口大学生協が目指すところをしっかりと感じることができました。ですので、自分は初めて聞いた時の印象も、総代会で改めて具体的なお話を伺った時も、やはり自分も少なからず生協と関わってきてお世話になっているので、一学生として卒業研究PBLを通してお力添えしたいなと強く感じました。
自分の経験と結び付いてGoalsの話に共感しながら今に至るという感じなのですね。ありがとうございます。
それぞれの生協のGoalsを深めることが、大学生協の2030Goalsについて深めることにもつながるかと思います。各生協の2030Goalsについて、これから進めていきたい特徴的な取り組みや、学生をどのように巻き込んでいくかなどをお話しください。
私は理事会で2030Goalsについて「理事の先生方と一緒に作りたいんです」「学生のみんなと作りたいんです」と何度も言いました。最初は先生方も学生たちもポカンとしていたかと思いますが、理事会の中で議論ができてきて、先生と学生が生き生きと討議しているのが、私にとってはすごく楽しいのですね。そして今、各キャンパスで教職員の方との座談会やインタビュー活動をしようということも計画しています。そうするとキャンパスごとにやはり色があって、先生方から「五つのテーマがあるけれど、平和についてもちゃんと考えたほうがいいんじゃない?」と指摘をいただたり、学生からも「平和とか考えたいのですけれども、どこをどうしたらいいのか分からないですね」と相談されたり。そんな話が理事会でできるというのが、すごく面白いです。夏休み明けぐらいからインタビュー活動をして、教職員の皆さんが思っている2030の生協の役割を聞けたら、立命館の機関誌『RUC』に掲載したりホームページで広報したりして共感を広げていきたいと思っています。
2030Goalsをどのように進めていきたいかについて、OICの中では「学生としての声を大事にしていきたいよね」という話になりました。今は学生の立場で意見を言わせていただいていますが、2030年には私たちは卒業していて社会人になっていると思います。それで「母校としてこうあってほしい」とか「立命館がこういう大学だったら嬉しいよね」という意見が出て、「自分たちが立命館の卒業生なんだと自信を持って言える、誇りを持てるような大学になってほしい」という意見が出てきました。その一部として、大学生協の役割もすごく大きいのではないかということで、その具体案についてこれからどんどん深めていきたいと思っています。
特徴的な所で一つ加えさせてほしいのは、職員にとってもこのGoalsが大事なものになってほしいということで、専務や理事会が勝手に作ったのではなく、職員の皆さんとも作りたいのだと強調しています。
立命館生協では、Goals以前から学調の分析会を前年の11月ぐらいに職員みんなでやり、それこそ学生がコロナで大変だというのをアンケートで確認して、何とかしてあげないといけないという思いが職員間でわき上がっていました。そんな中でGoalsの学習会をしたり、Goalsのために私たちは何ができるかと考えたりして、報告会をこまめにやっています。7月も先日やりました。まだ途中経過の職員もいますが、そういう機会を与えて発表する場を設けると、「組合員の声を聞いてみて、こんなことを感じました」という新しい発見があり、「次もっと頑張りますと」いう動きにつながったりしているので、これは職員みんなで定期的に報告し合いながら進めていこうかなと思っています。
作る過程で「立命館に貢献」というところが一つの肝であり、学生と教職員の皆さんとで作りだしていく感じが素敵だなあと思いました。このキーワードに対してなにか質問などありましたらお願いいたします。
平和を切り口に理事会で議論が盛り上がるとか、いいお話ですよね。しんどい時や苦しいときは、目の前のこと、自分の事情ばかりを持ち出しがちで、周りの人にどう貢献をしたらいいのか、組合員や大学に求められていることは何なのか、というところにはなかなか目がいかないですよね。
山口大生協にも、ほかになにか特徴的なことや今後の展望などを教えていただきたいと思います。
実は総代会が終わった直後に総代会終了報告も兼ねて副学長との懇談会があり、生協の活動に大変共感をいただきました。そこでもう一つ話題に上がったのは懇親会のことです。まだ実施するに至っていないのですが、もう少し落ち着いたらということで、コロナ禍終息後を見据えて準備をしています。今年の秋入学で留学生が大勢来ます。以前は留学生交流会を開催しており、大学でもそのあたりから少しずつ再開しようと考えておられるので、こんな懇親会だったらできるんじゃないかという提案書を考えて持っていこうとしています。
また特に具体的には決まっていませんが、生協独自のOB・OG同窓会を作るということも提案しました。そこもまた大学の方で関心を持たれていて、そういう卒業生とどうつながっていくかということも一緒に考えていかれないかと言っていただけました。
もう一つ。去年から実施しているのが、引き続き生活困窮者向けのミールカードです。どうしても授業料を延納せざるを得ない学生に食事の機会を提供しようと、生協が卒業生の出資金返還時に寄付として集めさせていただいているお金も使い、大学と連携してミールカードをお渡ししています。そんなことも引き続きやりましょうと、先週お話を頂きました。
また、吉田キャンパスから1時間ぐらい行くと宇部キャンパスがあり、そこに工学部キャンパスがあるのですが、キャンパス全体をフードコート化しようという計画があります。吉田キャンパスではFAVO※や第二学生食堂ができてだんだん食事を選べるようになってきましたが、この宇部地区ではまだ選べるような状態ではなく、アンケートには「1年生の時は良かったのに、2年生になったら……」という意見もたくさん頂きます。そこを少し開拓したいということも含めて街化計画を担当の先生にお持ちしたら、先生も大変共感されて「じゃあ、工学部キャンパスも街化しよう」と言っていただいて、早速図面とイメージ案を描いてくださいました。こんな感じで仲間を作っていきながら、これを実現に向けるような道を作っていければと思います。その仲間の一人が、ここにいるPBLの寺内さんです。
※FAVO 山口大学の福利厚生施設。 1階はカフェレストラン(150席)、売店、多目的ルーム(交流スペースや催し)、2階にはブックストア、各種サポートカウンターを設置しています。
今、二つの事例を伺って、生協の都合とか生協の理屈ではなく、大学がどうなったらいいかとか、学生の皆さんがどういうことに困っているか、生協はどう期待されているかというところに焦点を当てているのが印象的でした。その視点の切り替えというのはどこで起こるのでしょう。“貢献”に焦点を合わせるということは非常に大事なのですが、どうすれば“貢献”に視点を切り替えることができるのでしょうか。
さっきもちょっと言ったのですが、私も最初は「再建しなければ。ああ、どうしよう」という思いがすごくありました。でも、理事長・副理事長や学生と話す中で「前向きたいな」と思ったのと、もう一つは大学のビジョンですね。R2030というのが公表されていますが、大学がどういう方向に向かっているのだろうと見ると、やはりもっと国際学生を受け入れたいのだということが分かってきました。その視点に立った時に、生協としてはもっと国際学生が食べられる食事を準備してあげたいし、職員や食堂のレジさんも「ハロー、ハロー」と言ってくれたらいいと思う。なかなか難しいとは思いますが、そうやって変えていったら、みんなが笑顔(ニコニコ)でキャンパスに来て、笑顔(ニコニコ)で食堂を利用してくれるんじゃないかな。そんなことを考えていると、なんか数字が付いてきそうに思えてくるんですね。笑
ただ前を向いて楽しいことを考えるということをしたくって、そんなことを理事会でも話したい、学生たちとも話したいという気分に変わってきたというところですね。そこがポイントかなと思いますが、いかがでしょうか。
なるほど、そういう発想の転換。確かにみんなニコニコと来てもらえれば、「じゃ食堂に行こうか」というアクションにつながると思いました。中井専務はいかがでしょうか。
これはおそらく、生協内部に向けていた視点を外部に向けることじゃないかと思いますね。私も、保護者や大学の声からいろいろなことに気付かされることは多いですし、外部から期待されていることに対しても意識して目を向けないとなかなか気付かない。生協職員だけで経営の数値を見て話をしても、ちょっとそんな発想になりにくいですよね。気を付けないといけないと思います。
外側の目できちんと生協を見るということはとても大切だと思います。「生協になんてそもそもそんなに期待していないよ」と思っている組合員に「生協はどうなったらいいのか」と聞いたとしても、「え、平和?」「え、キャンパスが街に?」と驚かれるのではないでしょうか。ビジョンを作るとか、Goalsを作るというのは、今ないものに対して期待を述べるという行為が含まれていると思うのですね。
鈴木さんや寺内さんはどういうスタンスで、今の生協にないサービスとか、生協が実現できていないことに対して議論をしているのでしょうか。どういうふうに参加しているのかということも教えてください。
自分の卒業研究の内容とも少し関わってくるのですが、最初にどういった方針で動いていこうかと考えたときに、常々思っていることがありました。当時PBLのメンバーの中では自分が一番生協と関わりが深く、半分生協の中の人みたいな状態だったのですが、それで感じたのは、学生は結構生協のことを知らないんじゃないかということでした。自分たちが今回実施したアンケートは山口大学の福利厚生施設FAVOを中心としたもので、カフェや書店の利用頻度や全体に関してのイメージを中心に聞かせていただきましたが、本当に極端な話になると、このアンケートで「FAVOって生協が運営しているんだ!」と知った人もいました。ですので、結構根本的なことでも知られていないことがあるという印象を自分は持っています。
アンケートを取って、生協が運営していることすらも知られていなかったと分かったのですね。生協に対する認知がそれほど深くないのに、生協に対して期待を述べよと言われても困りますよね。
そうですね、本当に何も知らない人に「どう?」と聞くと、「生協って何してるの?」という返答が返ってきたように思います。逆に自分や他の学生スタッフのように生協にある程度関わっている側からすれば、「今こういうところが足りない」「こういうところをやってほしい」ということは学生目線で浮かびやすいですね。
どうしたらみんなが笑顔になり、寛げ、憩え、彩りのあるキャンパスをつくれるのだろうということですね。それは、生協がどうなったらいいのかという話ではなくて、大学が本来どういう大学を作りたいと思っているのか、そういう大学を作るためにどうしたらいいのかという議論ですよね。
今、中島専務のお話を伺っていて、確かに私も2030Goalsを大学や大学職員の立場で書いていたような気がします。生協をどうしようとかというよりも、キャンパスをどんなふうにしたら大学がより楽しくなって、 “行きたくなるようなキャンパス”になるかな、みたいに。生協のお店を振り返ると、「もしかしたら食堂も、ミールカード持っているから仕方なく来ている? それではだめだなあ」「学生が、今日はどこで食べよう、今日は何食べようという気持ちにならないといけないな」、そんな感じで発想を組み立てたように思います。
“貢献”に視点を切り替えるきっかけについて、今皆さんの話を聞いて考えたことを話します。新入生に学生委員の説明をする際に、私は「学生委員会は組合員のより良い生活を実現するためにいろいろな活動をしています」と、ひと言で説明しています。でも、組合員のより良い生活を考えたときに、大学生活の中で大学生協だけを見ると、4年間を通じて生協店舗と関わる時間は4年よりさらに短く、すごく瞬間的なものになってしまいます。でも実際に組合員のより良い生活はもっと連続的で、もっと持続的に考えなくてはいけないと思うので、生協店舗を利用する4年間のみではなく、大学を卒業した後も、いずれ大学に入学するだろう人たちも、その大学を中心とする地域の皆さんも、という視点がすごく重要になってくるかなと考えました。そういった意味でも“貢献”という視点がすごく重要なのだと思いました。
今“貢献”という言葉が出てきたので思い出したのですが、「キャンパス街化計画」について専務とお話をさせていただいた時に出てきたのが、“少子高齢化”という言葉でした。全国的に見てももちろん山口大学においても大学生がどんどん減ってきているので、大学も大学生協も、入学してくる、あるいは在学している学生にのみフォーカスを当てていると、いずれは衰退してしまうのではないかと分析していらっしゃいました。専務はそういったことも考えて、大学のみならず大学の周りの、例えば生協が管理する住宅の入居者や地域住民の方々も含めて「キャンパス街化計画」を考えているという話をされました。自分はそういうところからも学園都市のイメージが喚起されたので、大学生のみにフォーカスを当てるのではなくて大学全体、ひいてはその大学のキャンパスが位置する周りの場所に対してもアプローチをかけていくことによって地域社会にも“貢献”というかたちで関わりを持てるので、大学生協や大学が学生だけでなく、周りの方々にも働きかけていくような存在になることが大切なのではないかと感じました。
鈴木さんが「その先につながる感じ」と言われたのに、すごく共感しました。山口大生協は中期計画の「未来につながるアトラクション」という項目に、敢えて書籍事業を入れているのですよね。書籍事業を単体で見ると、事業的にはどんどん下がってきて厳しいのです。しかし、キャンパス内に書店があるというということを考えると、学生生活において本に触れるということがその先につながるんじゃないか、との議論に発展しました。本を人に勧めたいという学生がどんどん増えていって、そういう人が社会に出ていくと、それは大きな意味を持つのではないか。それができるのは大学生協ならではだということで、あえて中期計画には書籍事業にも触れました。しかも書籍事業を単体で考えるのではなく、いろいろな事業に絡ませながら本に触れる機会をつくっていく。具体的なことはこれからみんなで練り合わせていこうと思いますが、そんなことを考えています。
書籍の話がありましたが、立命の書籍でもいろいろなイベントを行っています。店内でトークイベントを開催して、先生方の書かれた本を先生や学生がテーマに沿ってトークして、生協はそれに関する書籍を案内し販売もしています。だからといって本がバンバン売れるということではないのですが、先生方にとってはある意味発表の場になっています。学内のしかも店内で、他学部の先生や学生と話ができるとか、他学部の先生のお話を授業以外で聞ける、そんな交流の場にもなっています。それが結構定着してきて、先生が「いいな」と思われたら、次の先生を紹介してくださったり、次に取り上げるべき本やテーマを提案してくださったりする。選挙前には日本の選挙制度のテーマでトークしたり、時にはヤングケアラーについて取り上げたり。テーマによってはほかのキャンパスでも店舗に集まってもらってインターネットでつながる、そんなこともしています。これも先程と同じく供給がどんどん上がるわけではありませんが、やはり先生方とお店をつくっていくという意味では、継続していきたいと思っています。
とてもいいですね。寺内さん、これどうですか、PBLで。笑
書籍を絡めたアイデアは、実は現行でも少し出ておりまして、我々は図書館と掛け合わせてなにかしらのイベントであれ事業であれ、できないかと目下ミーティングしています。かたちになりましたら、生協さんのほうにお話をさせていただくことになるかもしれないという段階ではあります。笑
それでは、まとめに入らせていただきます。角田委員長や中島専務のところで、感想やご質問はありますか。
私からは感想を述べさせていただきます。改めてどんな時でもこの「生活を中心に据える」ということは大切なのだと思いながら拝聴しておりました。中島専務が指摘しておられた、「大学生協をよく知らない組合員が大学生協に何を求めるのかと聞かれても、大学生協に何ができるのか分からないのでなかなか意見が言えなかったりする」ことはあると思います。でも生活を中心に捉えると、「自分は今この生活をしていてこんなことを思っている。大学生協に何ができるのかまだ分からないけれど、こういう自分の現状なら話せる」という声を引き出していくことができます。その場限りの対応ではなくて、その人の一生の中の2年間、4年間、6年間をどう過ごすかを見据えて、大学生協に何ができるのかをGoalsをきっかけに議論することで、理事会が学生の意見を言える場になるのだと思いました。本当に基本的なことですが、学生の生活、組合員の生活が中心に据えられているからこそ、そこからいろいろなことが派生しているのだと思いました。
多くの生協で「大学生協再生」の議論が2030Goalsと結びついて、価値ある未来の大学生協づくりにつながっていくにはどうしたらいいのかということをずっと考えながらお話を聞いていました。率直に感じたことは三つあります。
一つ目は、ぼんやりとした切り口でもいいので議論してもらう切り口を作ることが大事だということです。事例報告にもありましたが、初めからいろいろな人を巻き込むようなことを発想するのではなく、まずは自分がどんな大学になったらいいのか、どんなキャンパスがいいのかを思い描いてみる。そして、今の学生生活に対する提案、困り事にどう対応していくか、そこからスタートする。最初から完璧にしないというのがポイントだなと思いました。
二つ目は、生協の都合で考えるのではなく、大学や組合員への貢献に視点を向ける。さらに視点を広げ、大学を取り巻く地域も含めてどういうふうになっていったらいいのかと考える。一回り二回りも大きく考えたほうが、いろいろな意見が集まりやすいのだろうと思いました。
三つ目、これも非常に大事な点だと思いますが、生協職員だけで考えるのではなくて、総代や組合員や先生方との共創的な関係を仕組みの中に埋め込んでおくことです。
私自身も含め、これから大学生協再生計画、2030Goalsを具体化していくにあたり、二つの生協で特徴づけられるこのようなことを参考にしたいと思いました。大変勉強になりました。ありがとうございます。
私からも、少しだけ。数珠つなぎでワクワクがどんどん広がっていっているところがとても素敵だなあと思いました。視点の話がありましたが、Goalsが大学生協の今の経営状況をどうするということではなく、大学に、社会に、未来に向けて貢献していくという期待感が膨らんでいきました。全国の大学生協でもより視野を広く視点を広げて、このようなことができたらいいなと思いました。
私は最初に2030Goalsと聞いたとき、8年後の2030年に、今の学生で大学生協に携わっている人は、いるとは思いますがいない人が多いと思われて、自分はどういうふうに関われるのかなと思っていた部分もありました。しかし、鈴木さんや寺内さんのお話を聞く中で、2030Goalsの議論に関わること自体がとても大きな学びになるのだと思い、それが実現したらすごく大きな成功体験になって。 例えば就活などでも自信になると思いますし、社会にとっても良い働きをもたらすのだと思いました。そういう視点でしっかりGoalsで未来を見据えて、各大学生協でそのような議論が活発になっていくことを祈ります。
短い時間でしたが、本日はお時間を頂き、ありがとうございました。
2022年7月28日オンラインにて開催