アトム法律税務グループ 代表 岡野 武志 氏 インタビュー

SNS時代を生きる大学生へ
弁護士が語る「自分を守る法リテラシー」とは・・・・・。

SNSやマッチングアプリ、副業募集、投資情報など、大学生を取り巻く環境は大きく変化しています。便利になった一方で、犯罪やトラブルへの入口が日常の中に溶け込み、気づかないうちに巻き込まれてしまうケースも少なくありません。

今回、アトム法律税務グループ代表で弁護士の岡野武志氏に、現代の大学生が直面しやすい法律トラブルやSNS利用の注意点、そしてこれからの時代に必要な「法リテラシー」について、学生からの質問にご回答いただきました。

 
アトム法律税務グループ 代表 岡野 武志 氏

アトム法律税務グループ 代表 岡野 武志 氏
プロフィール
インタビュイー

全国大学生協連 全国学生委員会 委員長 佐藤佳樹

全国大学生協連 全国学生委員会
委員長 佐藤 佳樹
インタビュアー

全国大学生協連 全国学生委員会 島田大誠

全国大学生協連 全国学生委員会
島田 大誠
インタビュアー

(以下、敬称を省略させていただきます)

質問

質問①現代における大学生を取り巻くトラブルには、過去と比べてどのような変化が起きているのでしょうか。

岡野氏
岡野
私自身は大学に通っていたわけではなく、高校を卒業してからフリーターを経て弁護士になったので、いわゆる大学生活を送った立場ではありません。ただ、若い頃の感覚と比べると、今の学生を取り巻くトラブルは、入口がかなり変わってきていると感じます。

昔も、アルバイト先でのトラブル、人間関係、お金の貸し借り、飲み会など、若い人が巻き込まれやすい問題はありました。そこは今も大きくは変わらないと思います。
ただ、今はその入口がスマホの中に移っているんですよね。
SNSの広告、DM、動画、マッチングアプリ、オンライン副業、投資話、闇バイトなど、何気なくスマホを見ているだけで、トラブルにつながる情報に触れてしまうことがあります。

昔であれば、怪しい話は怪しい場所や怪しい人から来るイメージがあったかもしれません。でも今は、友人のように見えるアカウント、同じ趣味を持っているように見える人、キラキラした生活を発信している同世代など、身近で自然な形で近づいてくることがあります。だから、本人も「これは危ない話だ」と気づきにくいんです。

たとえば、雨が降っていれば傘を差そうと思えますが、今のトラブルは霧のようなものだと思います。気づかないうちに近づいてきて、いつの間にか濡れている(巻き込まれている)。そんなふうに、日常の中に溶け込んでいるのが現代のトラブルの特徴だと思います。

だからこそ、今の大学生には、「危ないことには近づかない」という意識だけではなく、スマホの中で出会う情報や人間関係、お金の話に対して、一度立ち止まる習慣を持ってほしい。「ちょっと都合が良すぎないか」「誰にも相談できない話になっていないか」と考えるだけでも、かなり防げるトラブルは多いのではないでしょうか。
 

質問②大学入学直後の学生が特に気をつけるべきトラブルにはどのようなものがあるのでしょうか。

岡野氏
岡野
大学に入って少し生活に慣れてきた頃こそ、広がった行動範囲や人間関係の中に、トラブルの入口が混ざっていることがあります。
入学直後は授業や新しい生活に慣れることで精一杯だと思うんですけど、少し落ち着いてくると、アルバイトを始めたり、サークルやSNSで人間関係が広がったり、自分で使える時間やお金も増えてきますよね。もちろん、それ自体はすごくいいことだと思います。大学生活の面白さって、行動範囲が広がることにもあると思うので。
ただ、その広がった先に、思わぬトラブルが入り込んでくることもある。

たとえば最近だと、「高額報酬」「即日即金」「簡単に稼げる」といった言葉で誘われる、いわゆる闇バイトや高額報酬案件があります。本人としては、ちょっと割のいいアルバイトを見つけたくらいの感覚かもしれません。でも、気づいたときには詐欺や強盗の片棒を担がされていて、取り返しのつかない犯罪に巻き込まれてしまう危険があります。

もう一つ気をつけてほしいのは、SNSやマッチングアプリを通じたトラブルです。
直接会ったことがない相手でも、毎日やり取りをしていると、だんだん親しい人のように感じてしまうことがありますよね。そこに恋愛感情や信頼感が乗ってくると、「一緒に投資しよう」とか「この副業なら稼げるよ」と言われても、なかなか疑いにくくなるんです。

人間って、知らない人の話は疑えるけれど、少しでも関係性ができた人の話は信じたくなるものだと思います。だから、大学生になって人間関係が広がる時期ほど、「この人が言うなら大丈夫」と思い込まないことが大事です。

気をつけてほしいサインは、意外とシンプルです。
「すぐに稼げる」「一回だけでいい」「身分証や口座情報を送って」などといった言葉が出てきたら、かなり危険だと思ってください。
大学生活は、色々な人と出会える楽しい時期です。だからこそ、少しでも違和感があったら一人で抱え込まないでほしいですね。友人や家族、大学の窓口でも、弁護士でもいいので、早めに誰かに相談する。それが自分を守る一番現実的な方法だと思います。
 

質問③大学生が「これはおかしい」と気づきにくいケースには、どのような特徴がありますか。

岡野氏
岡野
先ほども少し触れましたが、一番気づきにくいのは、身近な人や、ちょっと憧れている人を通じて話が来るケースだと思います。
たとえば、サークルの先輩や友人から「いい副業がある」「自分もやっている」と言われると、やっぱり疑いにくいですよね。しかも、その先輩や友人自身にも悪意がなく、本当に良い話だと信じている場合もあります。そうなると、誘われた側も「あの人が言うなら大丈夫かな」と思ってしまう。ここがすごく難しいところです。

SNSでも同じようなことが起きます。キラキラした生活を発信している同世代や、有名人・インフルエンサーに見えるアカウントを見て、「自分もこうなりたい」と思う。その流れで、投資や副業の話に入ってしまうことがあります。
「スマホだけで稼げる」「今だけ」「あなただけ」などと言われると、怪しむより先に、チャンスを逃したくないという気持ちが出てきてしまうんですよね。

さらに厄介なのは、最初に少しだけお金が入るケースです。一度でも「本当にお金がもらえた」という体験をすると、人はその話を信じたくなります。そうすると、その後に高額な振込を求められたり、身分証や口座情報を渡すように言われたりしても、違和感にフタをしてしまいやすくなるんです。

人って、「怪しい話かどうか」を内容だけで判断しているわけではなくて、「誰が言っているか」にかなり影響されやすい。だから、同じ話でも、知らない人から来たら警戒できるのに、友人や先輩、憧れている人から言われると、一気に現実味が出てしまう。

しかも今は、SNSで「成功しているように見える人」を簡単に演出できる時代です。本当に稼いでいるのかどうかよりも、「多くの人がやっている」「自分だけ乗り遅れてしまうかもしれない」と思わせる空気づくりが、すごく巧妙なんです。
だから最近のトラブルって、「騙された」というより、「気づいたら流れに乗せられていた」という感覚に近いのかもしれません。
そこが、昔よりも気づきにくくなっている理由の一つだと思います。
 

質問④近年、若者に多いSNS関連の法律トラブルにはどのような傾向がありますか。

岡野氏
岡野
近年のSNS関連トラブルで特に注意してほしいのは、被害者になるだけではなく、自分でも気づかないうちに加害者側に回ってしまうことです。

たとえば、SNSで高額報酬をうたうアルバイト募集や副業案件に応募した結果、詐欺や強盗などの犯罪に関わってしまうことがあります。本人はアルバイトのつもりでも、荷物を受け取る、現金を引き出す、口座情報や携帯電話を渡す。こうした一つひとつの行為が、犯罪の一部になってしまうんです。

SNSでの誹謗中傷も同じです。自分では軽い悪口や冗談のつもりでも、内容によっては名誉毀損や侮辱の問題になり得ます。しかも、自分で書いた投稿だけではなく、他人の悪質な投稿を広めることにもリスクがある。SNSは匿名に見えるかもしれませんが、実際には投稿者が特定されることもあります。

さらに最近は、迷惑動画や、いわゆるバイトテロなども問題になっていますよね。友人同士のノリや、身内だけに見せるつもりで投稿した動画でも、一度外に出て拡散されると、もう自分たちだけでは止められません。店舗や企業に損害を与えれば、刑事責任だけでなく、損害賠償の問題にもつながります。

SNS上の行動は、画面の中だけで完結しているように見えます。
でも実際には、画面の向こうに相手がいて、社会があって、法律がある。
そこを忘れないことが大事だと思います。
 

質問⑤若者にリスクや法律問題を「自分ごと」として捉えてもらい、動画の視聴に留まらず実際の行動へ移してもらうために、啓発する側ができる工夫やアプローチはどのようなことになりますでしょうか?

岡野氏
岡野
トラブルを「自分ごと」として捉えて、実際の行動につなげてもらうためには、まずは「知ること」のハードルを下げることが大事だと思います。
誰しも、自分が事件や事故、深刻なトラブルに巻き込まれるわけがないと思いがちですよね。しかし、あらかじめ最低限の知識を持ってさえいれば、いざという場面に遭遇したとき、パニックにならずに落ち着いて対処することができます。

私のチャンネルでは、この「知る」という入り口をかなり大事にしています。「大人から子供まで法律が100倍楽しくなる」をテーマにしているのも、法律を難しい勉強としてではなく、日常の中で自然に触れられるものにしたいからです。

弁護士が法律を解説すると、どうしても大学の講義のようになりがちです。でも、それでは本当に届けたい人にはなかなか届かない。だから、難しい法律用語はできるだけ噛み砕いて、テンポや見せ方も含めて、エンタメとして見られる形を意識しています。

今の若者は、自分が知りたいことなら、ネットやSNSを使っていくらでも情報に触れることができます。ただ、大事なのは情報に触れることだけではなく、受け取った情報をどう選び、どう判断するかだと思います。情報が多い時代だからこそ、「これは本当に信用できるのか」「自分に関係する話なのか」と考える力が必要になります。

だから啓発する側も、上から目線で学びを押し付けるのではなく、若者の日常のタイムラインに自然に入っていくような工夫が必要だと思います。こちらが言いたい法律論をそのまま出すのではなく、視聴者が今気になっていること、身近に感じていることを入口にする。

そうやって、まずは見てもらい、知ってもらう。そのうえで、「自分だったらどうするか」と考えてもらう。この順番を作ることが、動画を見て終わりではなく、実際の行動や判断につなげるために必要なアプローチだと思います。
 

質問⑥大学生に必要な「法リテラシー」とは、どのような「力」でしょうか。

岡野氏
岡野
大学生に必要な法リテラシーは、六法全書を暗記するような知識ではなく、自分の身を守り、他人を傷つけないための生活の防衛力のようなものだと思います。
私が皆さんくらいの年齢だった頃は、法律というと、トラブルが起きた後に使うものというイメージが強かった気がします。何か事件や問題が起きてから、弁護士に相談するとか、裁判になるとか、どこか自分たちの生活からは遠い存在だった。

でも今は違います。SNSに投稿する、誰かの投稿を拡散する、アルバイトに応募する、ネットで契約する。こういう日常の行動が、そのまま法律問題につながる時代です。
特に、今の大学生に必要な力は大きく3つあると思います。

1つ目は、違和感に気づく力です。
うますぎる副業、身分証の送付を求めるアルバイト、やたらと急がせる契約などに対して、「これは少しおかしいぞ」と一度立ち止まれる力ですね。

2つ目は、加害者にならない想像力です。
軽い悪口の投稿やリポスト、友人同士のノリで撮った迷惑動画でも、相手を傷つけたり、お店や会社に損害を与えたりすれば、法律上の責任を問われることがあります。自分の行動が、画面の向こうの誰かに、どう届くのかを想像する力が必要です。

3つ目は、助けを求める力です。
トラブルに巻き込まれたときに、「周りにバレたら恥ずかしい」「親に怒られる」「もう手遅れだ」と思って、一人で抱え込んでしまうのが一番危険なんですよ。悪質な大人や組織は、そうやって人を孤立させようとしてきます。でも、家族でも、大学でも、警察でも、弁護士でもいい。早く大人にSOSを出して相談すれば、解決できる道は必ずあります。プライドが邪魔をして相談しづらいこともあると思いますが、そういうときほど、早めに周りを頼ってほしい。

現代の法リテラシーは、法律家になるための知識ではありません。
スマホを持って社会とつながる以上、誰にとっても必要な交通ルールのようなものです。
日常の中で法律トラブルへのアンテナを張っておくことが、自分を守り、他人を傷つけないための力になると信じています。
 

アトム法律税務グループ 岡野代表からのご回答を受けて・・・

佐藤佳樹
佐藤
岡野代表、ご回答ありがとうございました。
「違和感に気づく力」、「加害者にならない想像力」、「助けを求める力」の3つが今を生きる誰にとっても必要な交通ルールのようなものであるということ、非常に共感しました。
大学生は自分で選択できることや機会が増えることを実感していますが、やはり自分だけの経験や考えでは、盲目的に『ひっかかってしまう』と感じています。だからこそ、日常的に話す友人との会話の中で違和感に気づいたりと人と人とのつながり・コミュニティで解決していくことも大切だと思っています。
 
島田大誠
島田
本当にそうですね。お話を伺って、今の時代のトラブルは「騙された」というより「気づいたら流れに乗せられていた」という感覚に近いのだと深く納得しました。
信頼している先輩や友人、SNSで憧れている人から誘われると、内容そのものより「誰が言っているか」で信じてしまって、違和感を見過ごしやすいというのは本当に盲点だと思います。
だからこそ、自分一人で抱え込まずに、友人同士のコミュニティの中で「これちょっと怪しくない?」と気軽に話し合える空気を作っていくことが、最大の防衛策になりますよね。
 
佐藤佳樹
佐藤
私たち全国学生委員は『大学生が狙われる50の危険』という本の共同執筆を通して新しく大学生活を始める学生にリスクの啓発と、そのうえでのチャレンジを呼び掛けています。
 
島田大誠
島田
まさにその「知ることのハードルを下げる」「日常のタイムラインに自然に入れる」という工夫として、私たちの活動にも通じる部分がありますよね。
岡野代表が仰っていた「日常にあるリスクから知ることで、パニックにならずに落ち着いて対処できる」というお話は、まさに私たちがこの『大学生が狙われる50の危険』という本を通して、新入生に「リスクを正しく知ったうえで、新しい生活に思いっきりチャレンジしてほしい」と伝えたいメッセージそのものだと感じました。
 
佐藤佳樹
佐藤
大学生や若者を取り巻くリスクが日々変化する中で、トラブルになる前に冷静に選択ができるように社会でたすけあえたらと思います。
岡野代表、ありがとうございました。
 

PROFILE

岡野武志氏
アトム法律税務グループ 代表
岡野 武志
 
資格 弁護士、税理士、弁理士
所属事務所 アトム法律事務所
所属団体 第二東京弁護士会
出身 大阪府
資格・経歴 旧司法試験合格、Beasley School of Law at Temple University (LL.M. Programs) 修了

アトム法律税務グループ URL アトム法律税務グループ公式サイト

 

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