BOOK REVIEW
時をかける日本史

時をかける日本史

『平城京』
安部龍太郎 著

本体1,800円+税
角川書店
  西暦710年、藤原京から平城京に遷都しました──この1文だけで平城京がどのようなものなのか、見た目や構造まで理解することはできません。教科書を開いてみても、都の表面の姿しか見つかりません。それを奥深くまで肌で感じることができるのがこの小説、『平城京』です。
 平城京について私は中学生の頃にテストのために覚えたなと、単語としての記憶しかありませんでした。日本史はひたすら暗記。日本史で学ぶ、ひとつひとつの出来事にそれぞれ劇的なドラマがあるはずで、それを無視することはもったいないですね。この『平城京』を読み、私は華やかな歴史の裏に隠された、人間同士の確執の多さに驚きました。作品の主人公である、安倍船人は元遣唐使。つまり、船とともに生きてきた海の男です。そのため船人の感じ方はすべて海。上手くいくときもいかないときも、ただ広く大きな自然にゆだねる心の持ち主です。彼が平城京建造計画に関わるなかで、朝廷でも遷都賛成派と反対派に分かれていることが徐々に明るみになります。船人は不利な立場に立たされますが、広い心で受け止める彼の姿勢に、関わる人間はみな彼に協力するのです。朝廷で権力を握る人々、遷都に反対し妨害してくる謎の集団、権力に脅かされ徴収されるばかりの庶民、姿かたちがヴェールに包まれた帝、そして船人と彼を支持する仲間たち。それぞれの考えがぶつかりあう物語。
 過去のものを知りそれが現代で何の役に立つのか? 疑問を投げかける人がいるかもしれません。確かに歴史を学ぶことが今忙しい日々を生きていく上で必要になるのか。過去を知ることで現代の生き方がわかるのではないでしょうか。大きく荘厳な都をつくることで人々は、新たな時代の幕開けと達成感を得ました。それは現代も同じで、新しいものができるとわくわくしますよね。遥か昔に汗水たらして生きていた人たちに本書を通じて出会うことで、今を生きる私たちにも共感できることがあります。同じ人間同士、私はたくさんわかりあえましたよ。

東北学院大学4年
母里真奈美


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