気になる! スマホの使い方
スマホで勉強革命を!

医学博士・心療内科医師 吉田たかよし


 脳科学やメンタル医学の研究を取り入れ、スマホを上手に活用すれば、勉強のヤル気や集中力は飛躍的に高めることができます。これが、私がライフワークとして取り組んでいる「スマホ勉強革命」です。とはいっても、私は心療内科医の一人として、手放しにスマホを礼賛するつもりはありません。付き合い方を間違えれば、人生を棒に振ることさえあります。スマホの負の側面についても少し触れておきましょう。
 スマホの使用時間が1日20時間……。私のクリニックにはスマホ依存症の患者さんも来院されますが、これが今までの最高記録です。もちろん、心身が衰弱し、楽しいはずはありません。それでも、強い精神的な依存のため、スマホを手放すことができないのです。
 なぜ、そんな患者さんが生み出されるのか……。なぜ、普通の大学生や社会人も、ついついスマホを使いすぎてしまうのか……。それは、進化をとげた今のスマホが、実質的に私たちの脳の一部になってしまっているからです。
 そもそも人間の脳は、機能の上では、スマホの集合体みたいなものです。スマホは情報を処理して伝える装置ですが、人間の脳もよく似ていて、脳の中には前頭前野や海馬や扁桃体など様々な部位があり、それぞれが相互に連絡を取り合って働いています。大雑把に言うと、人間の脳は超高性能のスマホが30個くらい集まったようなものです。
 だからこそ、現在のスマホは、あたかも脳の一部であるかのように進化し、脳との親和性を極限まで高めることに成功したのです。その結果、無防備にスマホに接していると依存してしまうわけですが、逆に利用の仕方によっては、私たちの脳機能を飛躍的に高めることもできるはずです。このことに気づいたのが、私がスマホ勉強革命に取り組むきっかけでした。
 もっと勉強しないとマズいと感じている人は多いと思いますが、それを阻む最大の障壁が、ヤル気が湧いてこないことでしょう。実は、そんな悩みを解決することもスマホで可能になるのです。
 スマホによって勉強へのヤル気を高める有力な手段が、「エンカレッジメント」です。エンカレッジメントとは、メンタル医学で勇気づける言葉のことをさしますが、これにより、ものの感じ方や考え方を変えられます。
 例えば、テニスの大坂なおみ選手はバインコーチのエンカレッジメントの言葉によって粘り強くラリーを続けるメンタリティーを育み、これが全米オープンや全豪オープンで優勝するための大きな原動力となりました。
 もちろん、優秀なコーチが付きっきりでエンカレッジメントの言葉を与えてくれるのがベストです。でも、一般の学生や社会人には無理なことでしょう。でも、こうしたコーチの役割は、そっくりそのままスマホで代用できるのです。
 例えば、私のスマホには、毎朝、「カーテンを開けて音読をする」というエンカレッジメントのメッセージが表示されます。光を目に入れると脳内では睡眠ホルモンのメラトニンから、活動のために必要なセロトニンに切り替わり、さらに音読をすることで大脳全体が刺激を受け、意欲的に勉強に取り組める脳機能に変化するからです。
 もちろん、脳機能を専門にしている私にとって、そんな知識はスマホに表示しなくてもわかりきっていることです。でも、私にも弱い心があり、時にはサボりたくなるものです。しかし、毎朝、スマホに表示するようになってから、確実に実践できるようになりました。わかっていることでも、改めてメッセージを受け取ると心が変わる……。それがエンカレッジメントの力なのです。
 ありがたいことに、現在のスマホはカレンダー機能を利用すると、決まった時刻にエンカレッジメントを表示することが簡単にできます。スケジュールの名称の欄にエンカレッジメントのコメントを入力しておけば、その時刻になるとスマホに表示されるわけです。
 これを利用し、性格を望ましい形に誘導することも可能です。実際、私のクリニックでは、勉強嫌いの受験生を勉強好きに変える取り組みを行い、実績を残しています。
 たとえば、男子に効果が上がっているのは、「勉強して給料のいい仕事について女の子にモテたい」というエンカレッジメントの言葉です。性格を変えるためには、きれいごとではダメです。心に突き刺さる本音のエンカレッジメントが必要です。
 もちろん、それをスマホで1回読んだだけなら、考え方が変わるのはほんの少しだけです。でも、何度も何度も繰り返し読んだら、やがて、心が変わってくるものです。実際、600回のエンカレッジメントで変わるという実験結果があります。
 すごく多くて無理だと思うかもしれませんが、スマホならさほど大変ではありません。スマホの良さは、1時間おきでも、30分おきでも、何度でも繰り返しメッセージが出せるところです。
 しかも、一度、設定したら、半永久的に何度でも繰り返してくれます。600回であっても、だいたい1ヶ月でクリアーできます。実際、私が指導している受験生は、たったこれだけのことで勉強へのやる気が高まり成績のアップにつながっています。
 このほか、集中力については、1時間ごとにスマホのカレンダーに集中の高さを自己採点して入力すると、脳は集中力を意識するようになり、密度の高い勉強ができるようになります。さらに、集中力の一日のリズム、1週間のリズム、1ヶ月のリズムがカレンダー上で可視化できるので、集中力を妨げている問題点や改善点が見えてくるのです。
 記憶力についても、普通の勉強だと短期記憶にしかならないので、覚えても2週間以内に忘れてしまいますが、スマホの検索機能を上手に使うと、自分の頭で考えながら覚える精緻化リハーサルという現象が起こるため、半永久的に忘れることはない長期記憶になってくれます。ぜひ、身近のスマホであなたも勉強革命を起こしてください。
P r o f i l e

吉田たかよし(よしだ・たかよし)

医学博士・心療内科医師。本郷赤門前クリニック院長。灘高校、東京大学工学部卒業。東大大学院修了。北里大医学部を経て、東大大学院医学博士課程を修了。現在、心療内科「本郷赤門前クリニック」院長として、脳科学で受験生を合格へと導く。

※「気になる!○○」コーナーでは、学生が関心を持っている事柄を取り上げていきます。

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