BOOK REVIEW
『終わりと希望のありかについて』

政治をみつめなおしてみる

『はじめての政治哲学』
デイヴィッド・ミラー 著
〈山岡龍一・森 達也=訳〉
岩波現代文庫
本体1,080 円+税
 あなたは政治に関心がありますか? 昨今、若者の政治離れが顕著であるといわれています。その要因の一つとして、政治に無関心であることが挙げられると思います。しかし、この『はじめての政治哲学』を読めば政治に興味を持てるようになるかもしれません。
 この本はタイトルの通り、政治哲学の入門書で、「政治的権威はなぜ必要なのか」や「自由」や「正義」など政治哲学における重要論点が各章ごとに論じられています。各章ごとのテーマに関して、問題提起や反対意見を取り上げ、随時哲学者の考え方や例を挙げながらそれに対する答えを示していきます。著者はまえがきにて「正確さを犠牲にせずにできるかぎり簡潔な文章とするよう努力した」と書いているように、内容こそやや難しめですが、文章が整然としていて難解なワードに詰まることがなかったので、非常に読みやすく理解しやすい印象でした。
 では、なぜ政治哲学という分野が必要かと疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。その理由は、本書の第一章「政治哲学はなぜ必要なのか」にあるように、現在の政治システムには歴史のなかで培われた哲学的な考え方が含まれているからです(本文中では「基底的で隠された前提」と表現されています)。確かに私たちは中学高校で政治について学びました。しかし、それはあくまでシステムを学んだに過ぎず、政治がなぜ重要なのか、なぜ今の形になっているのかなどは詳しく習いません。しかし、これらも重要なことなのです。

 例を挙げてみましょう。統治を考えるうえで、「自然状態」という概念があります。ロックは著書『市民政府論』にて自然状態とは平等が保たれており、完全に自由な状態だとしています。また、人は自然法に違反するものを処罰する権利を持つとも主張しています。しかし、ホッブズは著書『リヴァイアサン』で自然状態を「万人による万人に対する闘争」であると問題視し、自然権を国家に委譲すべきだと論じました。こうして、ホッブズの考え方が今の政治の一部となっているように、現在の統治システムの根源的背景には哲学の議論があるのです。つまり、哲学(ここではとりわけ政治哲学)を学ぶことにより、なぜ現在の統治システムがこのようになっているかなどを知る手掛かりがつかめ、政治をより理解しやすくなるのです。
 皆さんもこの本を読んで、政治を見つめなおすのも面白いのではないでしょうか。
 
愛媛大学3回生
河本 捷太
 
 


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