第9回 ペン助のうただより 2019年夏号


うたいちもんめ面白かったです。短歌作りの入り口としていろんな人と遊びたい——と言うと、「えー!」と思う人がいるかもしれませんね。「カードを並べただけで、短歌を作ったって言っていいの?」って。いいんですかね?
 

私が短歌を作りました?

 うたいちもんめから一歩進んで、語句の組み合わせまでやってくれるのが短歌自動生成スクリプトの「犬猿」です。二〇の構文に五三〇の語彙を組み合わせて、ワンクリックで五首を生成。できた短歌に「星野しずる」の筆名を使うことが提案されているのは、実行者でも開発者でもなく、スクリプトそのものが作者だからでしょうか。

カナリアに愛されて影 あの人の風がほしくて眠る罪人

星野しずる

 一方で『和歌梯』は作歌の手引書として江戸時代に書かれました。様々な題ごとに五音と七音の句が五グループに分けて並べられていて、各グループから一つずつ句を選んでつなげると和歌ができます。同音の句の入れ換えや、複数題の組み合わせについてのアドバイス付き。

春きぬと空ものどかに明ゆけばもろこしまでも霞たなびく

ペン助

※「立春」の句例で作成

 そして「さっくり短歌メーカー」は「犬猿」と『和歌梯』の中間といったところ。一首が九つのパーツに分けられていて、ランダム生成後に各パーツを用意された語彙から入れ換えられます。

朝だからあなたに告白してあげる宇宙をぜんぶ愛する前に

ペン助

※ランダム生成後に二ヶ所入れ換え

 うたいちもんめも『和歌梯』も「さっくり短歌メーカー」も、手軽だけど手軽なだけじゃ終わらない。ここを入れ換えたいとか、こういう雰囲気で作ろうとか、やってみるところにつながっているから楽しいんだよなと思います。
 それからもう一つ。中島祐介『oval/untitleds』収録の「予測変換機能によるインプロヴィゼーション」には、タイトル通り携帯電話の予測変換機能で作られた短歌が並べられています。

世界的に宜しくお願い申し上げます。そこで私が迷っているので

中島祐介

 言葉を並べたのは予測変換機能でも、予測の語彙もクセも中島さんならではのもの。何より「せ」と中島さんが打ちこんではじめて一首が生まれたところに惹かれます。



今・月・の・う・た
 
     
弟が発ちたる朝に鼻紙の溢れて白い屑かご残る
花山周子『風とマルス』(青磁社)

「朝」に残された「白」として示されると、「鼻紙」も綺麗な気がしてしまいます。それはあくまで使用済みの「鼻紙」で、花でも雪でもないのに。
『風とマルス』は、こうした表現の絶妙さと同時に、そこに狙った感じがないのが楽しい一冊です。たぶん花山さんは見たままを短歌にしていて、でも「見たまま」が違うから、自分には絶妙に感じられるという。

こけしのようになってしまえり春雨を忘れて傘を忘れてこけし
吸われゆく水のはやさに吸われゆくわが眼球にふたたびの波

物は言いよう、の前に、物がどう見えるか、なんだと実感する一冊でした。

 

ー 掲・示・板 ー

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