世界の本棚から②


 若い世代の声として人気急上昇の作家A・トーマス。黒人に対する警察暴力を扱った前作につづくOn the Come Upは、大学進学よりもプロのラッパーになることに夢中の女子高生ブリアナを描いた小説だ。迫真のフリースタイルラップバトルのくだりはヒップホップ好きにはたまらない。家族の幸せ、自分の夢、そして将来にむけて迷いながら一所懸命生きているブリアナから目が離せなくなる1冊。
 

 たった一滴の血液から身体のすべての不調が分かり、遠隔操作で医師が診断し治療や処方を行えるという機械が登場するBad Blood 。実は真っ赤なウソで、開発した医療ベンチャー企業セラノスはデモ機が動かない時に嘘のデータを使ったり、技術研究員が頭を抱え次々に辞職したりするような問題だらけの会社だった。一時は時価総額1兆円とも言われたセラノス。本書はスタートアップの光と影を描き、ファイナンシャルタイムズ(FT)とマッキンゼーが選ぶ、ビジネス・ブック・オブ・ザ・イヤー を受賞している。

   Bad Blood とは真逆に、スタートアップの苦労を語りつつ、なぜか常に明るく楽しそうな本がティナ・シーリグのWhat I Wish I Knew When I Was 20 だ。「5ドルだけ資金を与えるから2時間でお金を増やせといわれたら?」など、スタンフォード大学で教える教授が、若き起業家に自由と刺激を感じるエピソードを紹介する。邦訳『20 歳のときに知っておきたかったこと』もあるので手に取りやすいのだが、わりと長いので、気になったところだけパッと開いて読むのがお勧め。必ずしも本を端から端まで読まなくてもいい、というのも既成概念から自由になる考え方だ。
 
  • Angie Thomas On the Come Up
    Harpercollins
    ISBN: 9780062844378
  • John Carreyrou Bad Blood
    Pan Macmillan
    ISBN: 9781509868087

  • Tina Seelig
    What I Wish I Knew
    When I Was 20

    Harpercollins
    ISBN:9780062047410





    紀伊國屋書店バンコク店
    タニャシリさん

     

     
P r o f i l e

角 モナ(すみ・もな)

海外に30店舗持つ書店チェーン・紀伊國屋書店で洋書仕入に携わるバイヤー。子供のころはインターナショナルスクールで学び、洋書は日常生活の一部。

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