読書マラソン二十選! 159号


長〜いながい夏休み、せっかくですから、いろいろな本を読んで、世界をさらに拡げてみませんか。今回の二十選では、昨年のコメント大賞応募作品のなかから20点をピックアップしました!

【お詫びと訂正】
季刊『読書のいずみ』159号(冊子)、「読書マラソン二十選!」内(P.34)、『忘れられた巨人』の中で、コメント最終行の所属大学/筆者名に誤表記がございました。関係者のみなさまには大変ご迷惑をおかけしましたことを、心よりお詫び申し上げます。
(誤)大阪市立大学/みなと → (正)京都府立大学/ひだまり
 


  • 『夜行』
    森見登美彦/小学館

     どこまでも夜は広がって、私たちをいつの間にか取り囲んでいた。朝と夜は繰り返すはずなのに、夜が永遠に続いていくような気がする。「世界はつねに夜なのよ」。その言葉に、幻のような恐ろしくも美しい夜を感じる。世界はつねに夜だった。しかし、世界は一瞬のうちに反転もする。今までいたはずの世界からはずれ、1人取り残されるような心もとなさに指先が冷たくなる。自分は今、どこに立っているのか。分からなくなるのは一瞬だ。その時にはもう夜に囚われている。暗闇はどこまでも続き、これからも続く。きっと私たちは今も夜の中にいる。
    (弘前大学/ニラ玉)

  • 『じっと手を見る』
    窪美澄/幻冬舎

     ひとは皆、なにかが欠けている。それは当たり前のことだ。しかしこの世に生きる私たちはそのことを忘れがちである。自分にないものを相手に求め、補完しながら支えあって生きているようで実は相手を傷つけていることがある。張り詰めた危険な状態をかろうじて救う「愛」の存在に、振り回されてしまうこともある。人は脆い。そしてどんなにボロボロになっても生きている。生きるとは。
    (武蔵大学/匿名)

  • 『もういちど生まれる』
    朝井リョウ/幻冬舎文庫

     これは子供と大人の狭間で生きる私たちのためだけの物語だ。キラキラしたあの子への嫉妬、夢に向かって順調そうなあいつ、その姿を冷笑することでしか保てないプライド、忍び寄る才能の限界。この本はそんな少しつつくだけで今にも破裂しそうな爆弾を誰しもが隠し持って生きていることを教えてくれた。もしかしたら、授業中いつも後ろの席で騒いでいるあいつも、投稿するたびに「いいね」がたくさんつくあの子も爆弾を抱えているのかもしれない。そう思うと、教室の最前列と最後列の距離や「いいね」の数の差では私たちを測ることはできない。
    (東洋大学/匿名)

  • 『からくりからくさ』
    梨木香歩/新潮文庫

     幾重にも糸が重なり、複雑に編み込まれた織物のような物語だった。古い日本家屋で暮らすことになった女4人と人形のりかさん。彼女たちを取り囲む大きくゆったりとした流れと、それに逆行するような小さく激しい流れ。愛することと憎むこと。一見すると正反対の感情が共存している。なんとも言えない生々しさがあった。しかし、それが心地よいのだ。「心地よい生々しさ」は最後まで私をとらえて離さなかった。
    (明治薬科大学/いちご)

  • 『蜜蜂と遠雷 上・下』
    恩田陸/幻冬舎文庫

     私は薄暗いコンサートホールの中にいた。会場の人々の視線は、スポットライトを浴びてキラキラと輝くグランドピアノと、目をキラキラと輝かせながらピアノの前に座ってあどけない雰囲気を醸し出している少年に向けられている。少年の体がわずかにのけぞり、演奏が始まった。その瞬間、風が私の体を吹き抜け、遅れて優しい音楽が会場を包んだ。彼の演奏に聞き惚れていたが、「そろそろご飯やでー」の声で現実に引き戻された。ああ、もうそんな時間か、と思って本を閉じた。この本を開けば、私はいつでもあのホールに戻れる。そう思うと、現実の辛いことも、忘れられるような気がした。
    (立命館大学/レモン)

  • 『にじいろガーデン』
    小川糸/集英社文庫

     理想的かもしれない。好きな人と結ばれて生きていくことは、とても理想的なのかもしれない。私と私が一緒に生きていこうと思っている人も、カカとママのように生きればいいと思う。でもそれは私たちマイノリティには難しいかもしれない。だから泣いた。涙が止まらなかった。この本は私たちが望む愛を描いていると思った。そしてそれは私たちだけではなく、どの人にも当てはまる。この1冊は性別を越えた個と個が愛しあい、生きていく物語だ。
    (広島大学/シロクマ)

  • 『烏は主を選ばない』
    阿部智里/文春文庫

     正直、嫉妬した。まず著者に。執筆当時、私の年齢で、こんな複雑で面白い話が書けるとは。次に、雪哉に。「良い子」にしているよりはるかに難しい、周囲から怒られ失望され侮られる「ぼんくら」を、家族・里のために演じきれる、情の深さと優秀さ。「忠誠」とは何かの回答を持ち、その「忠誠」を誓ってもいいと思える人と出会えたこと。私にはない。そのことに感銘を受けるが、羨ましいと思った。ただ、この本で彼らの世界を少し共有できること。なんて幸運なのだろう。読書の醍醐味だ。
    (岡山大学/さわ)

  • 『青の数学』
    王城夕紀/新潮文庫

     なぜ、数学はこんなに美しいのだろうか? 問題を始める前の、真っ白の時間、まっさらの時間。目の前にある、何も書かれていない紙の中に飛び込んで、解くだけ。解き放たれたように飛び出す。目の前のゲートが開いた競走馬のように。鎖を解かれた犬のように。答えは私たちの中にある。ただ。思い切り、ぶつかればいい。栢山の数学にかける青春、永遠の問いである「数学って、何?」にきっと、あなた自身の答えが見つかるだろう。
    (東京農工大学/どらやき)

  • 『原稿零枚日記』
    小川洋子/集英社文庫

     エッセイだと思って読み始め、「苔料理専門店」が出てくるあたりで勘違いに気づきました。作家の「私」が書いた日記の形で文章が続きます。でもそこに書かれているのは自分とは何の関係もない小学校の運動会を見に行ったことや、役場の生活改善課から来るRさんとの会話、集合時間に遅れた参加者がどこかへ消えてしまう現代アートの祭典見学など、少し不思議なことばかり。現実世界にありそうで起こらない出来事に包まれた一冊です。「私」が小説よりあらすじを書くことが得意、という「一月のある日(火)」の日記がオススメ。
    (早稲田大学/橙)

  • 『声の網』
    星新一/角川文庫

     まるで今日の社会を予言していたかのようで鳥肌が立った。自我を持ったコンピュータに支配されていることに気づかない人々の物語。しかし本書の単行本が出版されたのは、黒電話が主流だった1970年なのだ。先見の明がある星の物語は、時を経ても色褪せることはなく、むしろ私たちにネット社会への警鐘を打ち鳴らしている。現代社会のコンピュータが私たちを支配するほど優秀でないと、どうして言えよう。
    (茨城大学/ R.H)

  • 『忘れられた巨人』
    カズオ・イシグロ
    〈土屋政雄=訳〉/ハヤカワepi文庫

     奇妙な霧のせいで健忘の呪いにかかった人々。老夫婦は失った記憶を取り戻すために、もうこれ以上忘れてしまわないために、命をかけた旅に出る。しかし、記憶というのはいつも美しい思い出ばかりとは限らない。もしかしたら、怒りや不満、嫉妬などの感情まで思い出してしまうかもしれない。今私が築いている人間関係も、ある程度の忘却の上に成立しているなら、それは本当の愛、友情と呼べるのか。衝突した記憶など、忘れたままでいるほうが楽なのではないか……。だが「許し」と「忘却」は違うということをこの物語は教えてくれる。相手を思いやる気持ちによって、負の感情は、「水に流される」。忘れることとは違うのだ。生きている限り、私はすべての記憶を大切にしていきたいと思わずにはいられなかった。
    (京都府立大学/ひだまり)

  • 『魔的』
    森博嗣/中公文庫

     あなたが今居る場所は、曖昧。学ぶ理由を答えられる者はどれほどいるだろう。別段少ないことが悪いとは言わない。どうしてってそりゃ、学ぶ理由を知らない連中が学んでいるのだよ(「飛ぶと飛ぶ」より)。日常が変わらないように、守って護って衛って……。そんな生き方で、あなたは何を学ぶのか(「何を学んだのか」より)。そして、そんな生き方を選ぶなんて、誰があなたを操っている?(「人間を操る」より)本書は詩集である。さらさらと読むだけでも受ける衝撃、また衝撃。
    (東京農業大学/カトリーヌ)

  • 『春の数えかた』
    日高敏隆/新潮文庫

     桜の花が咲いたとき、モンシロチョウが飛んだ時、ツバメの雛が鳴いたとき。春の数え方は人それぞれですが、そこには必ずわくわくする不思議が隠されています。思考を有さなくても道理に適ったしくみを持つ生きものもいれば、理論でははかり知れない行動をとる生きものもいます。そういった混沌を許している懐の深さが、自然の何よりの魅力なのだろうと感じさせられる一冊です。
    (慶應義塾大学/あるぎにん)

  • 『アナ・トレントの鞄』
    クラフト・エヴィング商会/ 新潮社

    「余計なもの」とは何だろう。それは、決して「必要のないもの」とイコールではないはずだ。すべてを切り捨ててしまったら、それは、とても窮屈な生き方ではないだろうか。この可愛らしい赤い本は、読んだ人にそう問いかけているのだと思う。そしてその答えは、「どこかの誰かの鞄」の中に眠っているような気がする。
    (東北学院大学/朽葉)

  • 『女生徒』
    太宰治/角川文庫

     自分を見ているようだった。最初は常識外れな女性だと思ったが、読んでいるうちに思った。そうか、人間みんな頭の中で考えていることは常識外れだ。みんな常識外れなら、常識ってなんだろう。結局、ただの誰かの理想論なのだろう。理想と現実がかけ離れているから人生は面白い。私は今日も、この女生徒と同じように一人考えごとをする。
    (広島修道大学/友愛数)

  • 『「読み」の整理学』
    外山滋比古/ちくま文庫

     本はたくさん読めば良いというものではない。「アルファ読み」と「ベータ読み」があり、「ベータ読み」をすることが重要である。ベータ読みは、例えば洋書や古典などを読むことで鍛えることができる。理解できないものを何回も読むと、自然と意味がわかるようになる。そういえば、私も高校の授業で古文を学んだときは脳が活性化されたように思う。日々忙しいが、これ、と一冊本を決めて、深く読み込む時間が必要である。大学生に対して「本を読もう」という言葉がよく寄せられるが、これはたくさん読む、という意味のほかに未知の文章をじっくり読むという意味も込められていると感じた。
    (早稲田大学/こうちゃん)

  • 『新訂 孫子』
    金谷治=訳註/岩波文庫

     孫子を読むと知っている熟語やことばが出てくる。「百戦百勝」「風林火山」「動かざること山の如し」……。だが、何を説きたくて使ったかは、案外知らないものだ。「兵法に優れた者は、戦をする前に勝つ」「百戦百勝をする者は善い人とは言えない(わざわざ開戦して、何回も敵・味方に負担をかけているから)」戦乱の世ではないけれど、納得したり考えさせられたりする話が多い。孫子の示す考えは、現代の私たちにとって全く新しいものとして映るかもしれない。さて、孫子の門下に入ろうではないか。
    (岡山大学/さわ)

  • 『となりのイスラム』
    内藤正典/ミシマ社

     3人に1人がイスラム教徒って聞いて、実感とかあるか? あまりなかったりするよな。2人に1人が女ですって言われても、男子校の生徒がピンとこないのと一緒かもな。でも、たとえ物理的にとなりでも、自分の家のおとなりさんのこととか、全然知らないこととかないか? 相手の実情を知らないから、ご近所トラブルはヒートアップする。そういうものだろ。なら、知っておくことはより良く関わるってことだ。“となり” っていうのがそれぞれの心の距離になるといいな。
    (岡山大学/ n-supra)

  • 『オリンピック・デザイン・マーケティング』
    加島卓/河出書房新社

     佐野研二郎氏制作の東京オリンピック・パラリンピックのエンブレムデザインの盗作が疑われ、取り下げられる騒動が起こったのは2015年のことである。実は、過去のオリンピックのエンブレムに関する騒動は燃え広がる前に鎮火していた。それでは、どうして今回は大騒動に発展したのか。本書では、商業主義の進展により起こったエンブレムの「作り方」と「使い方」、つまりはデザイン関係者と広告関係者の比重の変化、さらにはインターネットの「炎上」の構造まで、様々な角度からエンブレム騒動について解析する。オリンピックを目前とした今だからこそ、読みたい一冊。
    (早稲田大学/ C.E.S.)

  • 『一緒にいてもスマホ』
    シェリー・タークル〈日暮雅通=訳〉
    /青土社

     もはや生活に溶けこんだ、いや軸にさえなりつつある「スマホ」。「スマホ」を持つことで、得られたものと失ったものは何なのだろうか。SNSから受けとる情報が、一体、どれほど生活の基盤となっているかは計り知れない。家族と、友人と、恋人と、誰かと一緒にいても、スマホの存在を気にしている自分がいないだろうか。話題といえば「ツイッターで何かバズっていた」とか、外食するときには「インスタグラムで話題のお店だから行ってみよう」など、そんな日常に疑問や違和感さえ持たなくなってきたこの世の中。今一度、スマホについて気軽に考えてみようではないか。
    (奈良女子大学/サジテール)

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