読書マラソン二十選! 153号

〜第13回全国読書マラソン・コメント大賞 受賞作品〜

★2017年6月1日〜10月10日まで開催されたコメント大賞の応募数は4,778通。今年も個性豊かなコメントが多数寄せられました。今回の「読書マラソン二十選!」は10月30日の選考会で選ばれた金賞・銀賞・銅賞・アカデミック賞、そしてナイスランナー賞から一部のコメントをご紹介します。

主催:全国大学生活協同組合連合会
協力:朝日新聞社・出版文化産業振興財団(JPIC)

 

  • 『斜陽』
    太宰治/新潮文庫

    真っ赤な物語だった。かず子の言葉に、意志に強固なものを感じるとき、赤い火花が飛び散る気がした。ちら、ちらと散った火がそのまま燃え広がって、その熱さに、かず子は身悶えしていた。登場人物たちは、皆、何だかもうどうして良いのかわからず、息を切らして迷っているようだった。傾いていく日の静かさと焦燥が彼女らの姿を燃やしていた。生き残っても死んでも滅びてゆく、革命を成し遂げても滅びてゆく、そんな気のする混沌とした時代の中で、泣き叫びながら、かず子は自分の見たい革命を目指したのだろう。
    (弘前大学/もももも)

  • 『中原中也全詩集』
    中原中也/角川ソフィア文庫

    この男が綴る言葉はなぜここまで心にまとわりつくのだろう。そもそも「綴る」という表現が間違いかもしれない。中原からは、ぼたぼたと言葉が滴り落ちているようだ。粘り気のある言葉たちが白紙にゆっくり沁みていく。失恋や子どもの死など波乱万丈な30年。中原中也という人間全てが詰まった全詩集。中原にかかると「春」「サーカス」といった爽やかで楽しげな言葉ですら実に悲しみを持たせ陰になっている部分を引き出す。キレイな言葉をただキレイな言葉で通過させない中原の感性こそが心にまとわりつく一番の理由なのだ。
    (北海道教育大学/KK)

  • 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
    フィリップ・K・ディック
    〈浅倉久志=訳〉/ハヤカワ文庫SF

    アンドロイドと人間の外見や内面、能力が全く同じであるのなら、両者の違いはどこにあるのだろうか。人間と同じように思考し、感情を持ち、人間と意思疎通ができるアンドロイドを奴隷として扱ったり、人間の都合で殺したりするのは果たして正しいことなのだろうか。この問題は一見すると、技術の発展した未来世界の、人とアンドロイドの間でのみ成立するものに見える。しかし、今現在世界中で見られる差別や衝突といった問題に通じるものでもあるのだ。あなたが敵だと認識している相手をよく見てみよう。それはあなたと同じように笑い、悲しみ、怒る人間に違いないのだ。
    (奈良女子大学/チカ)

  • 『美しい「日本語」の言いまわし』
    日本の「言葉」倶楽部/三笠書房 知的生きかた文庫

    「あゆちゃん、前より何だか優しくなった気がする」
    この本を読んでから、言葉を意識して使うようになった私に母はそう言った。言葉や口調を変えただけで人柄までも変わったような気がする。これは本当のことだと私は思う。映画『マイ・フェア・レディ』でも認められたように、美しい言葉を話す人間は美しく見られるのだ。日本には先人が残した柔らかい、温かな言葉が那由他ほどある。便利だがどこか貧しくなってしまった今の時代に、私は生成りのようなこれらの言葉を使おうと思った。
    (北海道大学/れもん)

  • 『何者』
    朝井リョウ/新潮文庫

    もう何年も会っていない、この先会うかどうかも分からない、どんな話をしていたかも覚えていないような友人の近況も、簡単に把握出来てしまう現代。「繋がった」友人の数は増えていくのみで、減っていくものを忘れ、私の世界は広がっていくばかりだと錯覚してしまいそう。そんな中で突きつけられた言葉。繋がりの数は増えていくものの、私の人生に本当に付き合ってくれる人はいったいどれくらいになっていたのだろうか。
    目に見えている状況に惑わされないで、流されないで、誰よりも私に真剣に向き合っていける「私」を大切に信じていかなければならないと、改めて考えさせられた。
    (愛知教育大学/あさ)

  • 『読んでいない本について堂々と語る方法』
    ピエール・バイヤール〈大浦康介=訳〉/ちくま学芸文庫

    「読書感想文」。聞いただけで苦い顔になる人も多いのでは? 私を含め、苦手な人にとっては最後まで終わらない夏休み最強の敵……。でも「本を読まずにあらすじを読んだだけで書いた」人の話、聞いたことありませんか? おまけに賞をもらったとか……。本を読んでも書けない人がいるのに!? と長年の疑問でした。でも本書を読んで、その謎が解けました。読書感想文は、本の内容について語るものではないのです。どういうことか? それは本書を読んでみたらきっと分かるはずです。(注)本書は読書感想文の指南書ではありません。
    (岡山大学/るーしー)

  • 『骨を彩る』
    彩瀬まる/幻冬舎文庫

    点が線になって、最終的に円になる。そんな物語たち。世の中ってなんて狭いんだろう!と思いながらも、人はそれぞれの場面でそれぞれの顔を持っているということに気付かされた。家族、友人、恋人、初対面の人、ネット上の知り合い……。物語を紡ぐ視点が変われば、同じ人がどこか別人のように見える。そして、どんな一面もいびつだ。人はみんないびつだけれど、それは決しておかしいことではなくて、いびつであることこそが普通なのだ。人は、互いのいびつさを認め合った時に分かり合えるのだろう。
    (神奈川大学/ナツ)

  • 『「教養」とは何か』
    阿部謹也/講談社現代新書

    「教養のある大人になりたい」という思いが私にはある。しかし、教養とは一体何たるか、教養の定義とは何か、それが分からないと教養を身に付けるための「正しい」努力ができないではないか。教養は、知識と人格との2つから成る。知識の方については、本を読めば知識は付けられる。しかし、人格の陶冶については如何なる手段を取ればよいのだろうか。そもそも人格とは何か。「やさしいので人格者」という安直な定義で良いのだろうか。人格についての本も読んでみよう。そう、これだ。1冊の本が、次の1冊へと導くのだ。
    (早稲田大学/レオ)

  • 『65点の君が好き 弱虫先生の日記帳』
    加藤久雄/風雲舎

    クラスの中には、いろいろな子がいる。優位に立つ子もいれば、そうでない子もクラスの中には混在する。先生は、よくできる子をほめて、できない子をできるようにするため叱ったり厳しい指導をする。“できることが幸せ"と、そう考える人が多い中、この本の著者は競争することではなく、大好きを深めていくのが学校の学びであると述べている。私は教師を目指している。教師になったら、生徒一人ひとりが様々な場面で活躍できるようサポートしたいと思う。そして私の生徒が自信をもって社会にでていけるようにしたい。
    (横浜国立大学/たけし)

  • 『理科系の作文技術』
    木下是雄/中公新書

    大学に入るまで、書いた文章は人の心情をいかに上手く表現できたかで評価されてきた。しかし、大学に入ると求められる文章の性質は一変した。いかに簡潔かつ正確に表現できたかで評価されるようになった。それまでの18年間で身に付けてきた作文技術は役に立たなくなり、かといって新しい作文技術を教えてもらえるわけでもなかった。提出した文章が返却された時の赤の多さに絶望していた時に、指導教員に勧められた本が『理科系の作文技術』である。レポートの書き方について極めて簡潔にまとめられており、理科系に限らず全ての学生の必携書と言える。 
    (北海道大学/理科系の男)
ナイスランナー賞は、総数200点が選ばれました。 今回はその中から10点をご紹介します。

  • 『ナミヤ雑貨店の奇蹟』
    東野圭吾/角川文庫

    人生は選択の連続だ。就活の中で、「この会社を選んだらどうなるだろうか」と何度も思った。私がナミヤ雑貨店に相談するなら、きっとこれだろう。ナミヤさん曰く、「相談者は答えを決めている」。確かにそうだなと思った。決断できない。勇気が出ない。そんな時どうしても誰かに背中を押してほしくなる。「大丈夫、間違ってないよ」と言ってほしくなる。でも結局決めるのは自分だ。他の誰かに決められたくない。自分の悩みと向き合う。その勇気を、私にくれてありがとう。
    (甲南大学/マタタビ)

  • 『ベルカ、吠えないのか?』
    古川日出男/文春文庫

    すさまじい熱量を持った一冊だった。犬によって、構築された20世紀の虚構の世界史を、加速する語りによって表現する。シェパードやアイヌ犬、さらには狼まで、さまざまな血統を持つものたちが、次々に血脈を広げ、ときには混血しながら、物語は展開する。その犬たちと人間たちとの関わりも、人間からの犬への信頼や裏切り、あるいは犬たちの反抗など多様なかたちで描き出されている。終焉へと向かうにつれて、ページをめくる指はとまらなくなり、読後、作中に登場する多くの犬たちの物語が余韻として残る。  (佐賀大学/無名)

  • 『六の宮の姫君』
    北村薫/創元推理文庫

    文学には作者の魂が宿り、私たちは読むことでその魂に触れることができる。しかしその対話の相手は、作者一人に限られるのだろうか。人間は他者との関わりの中で、その人格を形成する。ならば文学を通して作者の周辺の人々の心をのぞけるはずだ。この小説では芥川龍之介と菊池寛の交流がひも解かれる。芥川は菊池のことを「私の英雄」と呼んでいた。しかし芥川は自殺をした。「私の英雄」は何もできなかったのだろうか、天災の前の文学のように無用のものであったのだろうか。答えはまさに藪の中。しかし芥川と菊池の絆をたどる冒険のゴールにはとびっきりの宝物がある。それは無用・有用を越えたものだ。
    (広島修道大学/ムラスズメ)

  • 『お父さんは時代小説が大好き』
    吉野朔実/角川文庫

    昔ほど読書が楽しくないな、と感じることがある。手当たり次第に読む気力も時間もないし、そうしているうちに流行もわからなくなるし。なんだか距離ができてしまったような、好きなのにのめりこめない寂しさを感じてしまう。けどそんなのは杞憂で、読書はちゃんと楽しいままだと吉野さんが思い出させてくれた。友人と感想が食い違うこと、しおりの流儀が気になること、あの本が面白かったのは覚えているのに内容を思い出せないこと……。 『本の雑誌』に連載されていた読書エッセイだけあって、各エピソードで紹介された本が読みたくなるのはもちろん、「本を読むこと」にまつわる楽しさがギュギュッと詰まっているのが魅力的。この本を読むたびにきっと思い出す。読書はこんなにも楽しいということを!!
    (広島大学/甘蛙)

  • 『勝手にふるえてろ』
    綿矢りさ/文春文庫

    ギリギリ、ストーカー手前の女の子が主人公です。「彼は自由だ。毎日毎時間毎秒自由だ。縛りきれない、私は彼の自由を愛せない」すごくないですか? 彼の自由を愛せないって。だから彼のことを諦めるって。友達と今カレが嫌すぎて妊娠したことにして仕事も辞めちゃうし、好きじゃない彼とは付き合うし、それなのに大好きな彼はそんな理由で諦めるし。もう行動力に思考が追いつかないです。飛んでるなぁって何回も思います。でも恋するってそういうことなのかな。
    (札幌学院大学/文香)

  • 『四季 秋』
    森博嗣/講談社文庫

    ああ、交差点だ。読み終えて思った。「真賀田四季」をキーワードに、これまでに出てきた登場人物、空間、時間がちょうど「秋」でクロスする。真賀田四季の驚異的な思考の速さが、彼女を天才たらしめている。すべてがFになってから6年半後、犀川らは当時の真賀田四季の思考にやっと触れようとしていた。そして、彼らの前に謎の死体が現れる。
    これまでの出来事の点と点が繋がる快感、そして深まる謎と、届きそうで届かない真賀田四季の思考と行動にわくわくさせられた。
    (愛媛大学/かんちゃん)

  • 『あつあつを召し上がれ』
    小川糸/新潮文庫

    たべものは、ずるい。見て、匂って、箸でつついて、じうじうと鳴る音を感じて。味わって。写真よりも何よりも鮮明にあの頃の思い出を語るのは、当たり前かもしれない、とこの本は気づかせてくれた。……ちょっと強引だったけれど。それぞれのエピソードは、<食>にまつわるからだろうか、私たちに強く強く訴えかける。ふと、私のばあちゃんの言葉を思い出した。「何で若ぇもんは、喉が火傷するくれぇチンするんだか」。今思えばそれは、コンビニ弁当でもなんでも、ほかほかの、素敵な思い出に浸りたかったかもしれない。さぁさどうぞ。あつあつを、召し上がれ。
    (法政大学/春町)

  • 『文豪たちの手紙の奥義』
    中川越/新潮文庫

    最近、メールばかりでめっきり手紙を書いていない。だが、この本を読んだ後、無性に手紙が書きたくなった。文豪たちはどんな手紙を書いたのだろう。そんな興味から読み始めたが、意外にも気さくで、あまり堅苦しくない文章が多く驚いた。特に印象に残っているのは、芥川龍之介が妻に送ったラブレターだ。あれ程の文豪がどんなラブレターを書いたのかと思えば、分かりやすい言葉で純粋な気持ちをストレートに綴っている。素敵な手紙というのは、高尚な文章で書かれたものではなく、相手のことを想って、自分の気持ちが素直に伝わる言葉で書かれたものなのだろう。ああ、手紙が書きたい。
    (東京学芸大学/θ)

  • 『マチネの終わりに』
    平野啓一郎/毎日新聞出版

    「人は、変えられるのは、未来だけだと思い込んでいる」。もしも、過去を変えられる、と言ったら、多くの人は首をかしげるかもしれない。しかし、未来のこれから起こる出来事によって、かつては許せなかったことが、時が経つにつれて、笑い話になったり。あるいは、温かな日々の思い出が、一転して、すべて虚構の愛だと叫んで憎しみになったり。過去がそのように変わってしまう可能性は、いくらでもある。大人になればなるほど、深い雪道を歩くように、一歩一歩が重くなる。甘酸っぱい青春はとうに過ぎ去って、大人になった。愛を知る者へ。人を愛することの喜びと痛みと切なさをあなたは体感するだろう。
    (慶應義塾大学/シベロク)

  • 『約束』
    石田衣良/角川文庫

    短編集ということで、通学時間に読む本としてちょうどいいなと軽い気持ちで手に取った。しかし、後悔した。一つ一つの物語にあまりにもひきこまれ、本を閉じるタイミングを失い、ふいにぐっときて、ほろりとしてしまう。「電車で読んではいけない本だ」これが第一印象。22年間生きてきて、挫折や絶望をまだ経験していない私に、「生きる」ということを考えるきっかけを与えてくれた。数年後、数十年後、傷つき、苦しんだとき、もう一度この本を手に取り、人生を再び歩きだしたい。
    (白梅学園大学/やーちゃん)

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