連載エッセイ 50 好きならしょうがない

好きならしょうがない

 みなさま、お元気でしょうか? 早いものでもう一年が終わろうとしていますね。みなさんの一年というのはとても濃くて、きっと一ヶ月前くらいのことが「あれ?もうすごい昔のことの気がする」などと思うのではないでしょうか。時間は平等です。効率的にいくも良し、のんびりいくも良し。でも心情的にも知識やその他においても一年前の自分よりも何かしら成長していたいですね。
 さて今回は、せかせかした日常世界(ワタシだけ?)から目線を上げて、ロマンと想像力を掻き立ててくれる一冊をご紹介します!『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』(クリストファー・ロイド/文藝春秋)。出版社の帯曰く、理系と文系が出会った初めての歴史書です。発刊は2012年で私が某出版社で営業していた頃ですが、大判で分厚く(でも企業努力であまり重くないのです!)値段も3000円近くするのにも関わらず、驚くほどの重版の早さでロングセラーだったのを覚えています。みなさんのなかにもひょっとしたら親御さんが買ってきて家にあるとか、テレビで放映されたことがあるので見覚えがあるという方がいるかもしれません。
 著者のクリストファー・ロイドがこの本を執筆した動機は「自分の子どもにこの地球の歴史をどう教えたらいいか」が出発点となっています。大学で歴史を学んだ後に、科学記者として新聞社で活躍していた著者は、自然と歴史双方からの視点が必要だと感じたのでしょう。ジャーナリストらしい目線で読者の興味をかきたてる文章で読みやすいです。 
 私は、もしも時間旅行できるなら、ビッグバンと、地球の最初の人類を眼にしてみたいです。いのちのはじまりは、どのようなものだったのでしょう? 20世紀半ば、ノーベル賞受賞者のユーリーとその教え子ミラーは、初期の地球に存在したと思われる物質を入れて実験を行い、そこからアミノ酸が生成されることを証明しました。でもそれは、「生命の構成要素」であり、それがいかにして私たちを構成する「生きて繁殖する細胞」になったのか、というのは未だに謎なのです。宇宙のはじまりから今までを俯瞰して見られるなら、すべての答えがわかるのになあと思うことがあります。私たちが生きていられるのは、太陽が、人間やすべての動植物にエネルギーを与えてくれるからだし、そのおかげで植物が酸素を出してくれるからだし、動物の肉をいただくことで活力をもらっているからだし、そもそも地球が生態系を維持できるバランスを保っているのは、月というパートナーがいるからです。根底は「共生」であり、私たちも動植物も、生かされているたいせつな命といえます。そこに感動と感謝の気持ちがわいてくるのです。そういう意味で、この本は私にとっては、ある意味癒し本であり、視点を高くさせてくれる本です。
 みなさんが本に向き合うときに、その本が自分にとって何をもたらしてくれたのか、振り返ってみるとまたよいのではないでしょうか。
 さて、実はこの連載50回目を迎えます。区切りもよく、この回をもちましてお別れでございます。振り返ってみると、連載1回目は12年前の2005年秋号でした。学生のみなさんがまだ小学生のころですね。ちなみにそのとき取り上げたのは、リリー・フランキーさんの『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(扶桑社)でした。発売前から一部で話題になっていたので、発売後すぐに買って読んで、すごく感動して、それまでのイラストレーターやエッセイストとして活躍していたリリーさんの認識を改めたのを覚えています。今リリーさんは役者としてもすばらしい才能を発揮して活躍されているので、若い方は俳優だと思っているかもしれませんが、マルチにできる方なんですよ〜。本書は発売して約半年後に100万部突破。翌年には200万部突破となり、映画やテレビドラマにもなりました。近年では又吉さんの『火花』が単行本だけで250万部突破していますが、2005年当時は、今ほどSNSが発達していないので情報の拡散がさほど早くありません。それを考えると当時の話題の凄さが想像つくのではないでしょうか。
 あと、せっかくなので編集のOさんに頼んで、過去のいずみスタッフさんのアンケートを参考に、今までの連載の反響を伺ってみたところ、意外にもBL(ボーイズラブ)作品を取り上げた回の反響がいつも以上に大きかったそうです(笑)。そうかー出版業界で働いてるときは感覚が麻痺してしまうのだけど、いずみで取り上げるの!?と普通の感覚のひとは思いますよね。でもBL出身の作家さんは、「(少女)女性向け」「(少年)青年向け」といったジャンルにとらわれない、才能ある漫画家さんが多いと個人的に思っていまして、営業時代は、いいセンスをもっている新人さんの本を読むと、若手編集に「この作家さん面白いよ!」と薦めました。それはBLに限らずですが、私にとってBLは面白い作品を描ける漫画家さん発掘の場でもありました。もしみなさんにオススメするなら、小説ですが『美しいこと』(木原音瀬/講談社文庫)と『箱の中』(同左)です。ここでこの作品を語りだすと紙面が足りないので割愛しますが(笑)、これはもうどちらも普遍的な名作です! しょせんBLジャンルの中の話でしょ!?という見方をする方もいるかもしれませんが、その予想はガツンと裏切られるのでご安心ください。この二作は最初にBL系の作品を出している出版社から刊行され、とりわけ『箱の中』は雑誌『ダ・ヴィンチ』でも話題となり、数年前に講談社文庫で刊行されています。そのことをとっても、この二作は別格だと感じていただけると思います。
 あとOさんに印象に残った本を伺うと『武士道シックスティーン』『武士道セブンティーン』『武士道エイティーン』(誉田哲也/文春文庫)の3部作のシリーズというお答えをいただきました。この作品は出張先の京都の書店員さんにオススメされて買ったもので、一気読みして同僚や上司にも貸し、全員に「面白いね!」と言わしめた傑作青春小説です。これを紹介した回は、私の熱量があふれて本作のみの紹介で紙面が尽きてしまい(笑)、Oさんが元々大好きな小説ということもあって印象深かったそうです。これも未読の方がいたらぜひ!! 時間を忘れる面白さと爽快感を味わえます。
 こうして振り返ると、私自身が書店でふっと本を見つけるよりも、周囲の方からのオススメのほうが圧倒的に多かったなあと思います。実は学生時代は漫画ばかりでそれほど小説を読んでいたわけではなく、書店に就職して文芸書を任されたときも名前のわかる作家さんはごく一部でした。でも本に触れていくうちにお客さんから教えてもらい、同僚から教えてもらい、初日に売り切れた本があればすぐ発注して自分でも気になって読んでみたり。そんな日々が本との絆を深めてくれ、出版社にいっても今度は全国の書店さんを仕事で巡るなかで、本好きの書店員さんとお話できることが僥倖でした。その出会いをこうやって連載という形にさせていただき、こんなにも長く続けさせてもらったことに本当に感謝です。最初にお声をかけてくださったKさん、ずっと二人三脚でともに歩み続けてくれたOさんには言葉に尽くせない感謝の思いでいっぱいです。この場を借りつつ、本当にありがとうございました。
 この連載のタイトル「好きならしょうがない」は、私の経験則のようなものです。好きなら何とか続けられるし、がんばれます。人間正直です。好きでもないことを何十年もなかなか続けられません。また好きであっても、体力面やその他の理由で辞めていかれた書店員さんを何人も見てきました。これからみなさんが「働く」ということにいよいよ向きあうとき、その価値観をどこに置くか、自分に正直になって時間をかけて考えてください。もう20年以上も昔になるので参考にもならないと思いますが、私は就活は出版社と書店しか受けず、出版社は全て落ちて書店に就職して2年後に出版社に転職しました。でも書店に勤めたあの2年間が、どれほど出版社の営業として財産になったかわかりません。人生にまわり道も近道もありませんから、神様があなただけにくださった個性を花咲かせてくださいね。これからもみなさんを、『izumi』を応援しています。最後までおつきあいくださり、本当にありがとうございました!

 
P r o f i l e

西村 朱美(にしむら・あけみ)
1972年生まれ、愛媛県育ち。大学進学を機に上京し、卒業後は、書店員2年、出版社の営業職を16年余り勤め、他業種を経たのち長野市へ移住。
 
 
●編集部より●
 本エッセイ「好きならしょうがない」48回(誕生は爆発だ)について複数の読者の皆様より「現在の科学的な知見とは相いれない内容の記述があり問題ではないか。」とのご指摘をいただきました。
 著者に科学的知見を否定する意図はなく、生命の神秘への感情表現としての文章ではありましたが、確かにご指摘された印象を抱かせる文章でございました。
校閲の精査を怠った編集部に責任がございます。読者の皆様にお詫びを申し上げます。
 著者の西村氏とは協議の結果、今回にて科学的な視点を提供する書籍のご紹介をさせていただきました。
 編集部一同「読書のいずみ」をお見守りいただいておられます読者の皆様に励まされ、より一層気持ちを引き締めて取り組ませていただきます。
 これからもご意見をよろしくお願い申し上げます。

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