「実家から通う私立大学と、一人暮らしをしながら通う国立大学では、親の負担がどれくらい違うのだろう?」。
受験生が進学先を選ぶ際には、こうした点も重要なポイントの一つになっているようです。
特に地方の国立大学の場合、学生の多くが下宿やアパート、あるいは学生寮などで一人暮らしをしています。
もちろん、山口大学もその例に漏れません。
山口大学では、そんな学生たちの一人暮らしをいかに支えているのか。関係者にお話を伺いながら、最新事情をリポートします。
取材:キャンパスライフ編集部
山口大学生協 専務理事
中井 傑
山口大学生協 職員
池田 康恵
学生会館 管理人
西田 京子さん
山口大学農学部 2年生・
学生会館学生スタッフ
前田 桃花さん
「例えば、山口大学の場合、2020年度の入学者数は1,959人でしたが、そのうちの1,569人が親元を離れて一人暮らしをしており、その割合は実に88.5%におよびます。よりよい学生生活の支援を標榜する大学生協としては、一人暮らしの学生の住まいをどう考えるかは重要な命題でもあるのです」と山口大学生協の中井専務は語ります。
もともと山口大学では、さらなる教育・研究の発展・充実を目指すため、保有している土地などの資産の有効活用を模索していました。その呼びかけに応える形で山口大学生協が提案したのが「
生協食堂「buono」の受け渡しカウンター。
おしゃれなくつろぎ空間「FAVO Cafe」。
この学生会館があるのは、山口大学吉田キャンパスの中。正門を入って右側、守衛室の脇の道をまっすぐ進むと、やがて豊かな緑の中に鉄筋5階建て、洗練された真新しい建物が見えてきます。
最も大きな特徴は、キャンパスが学生の学びの場であり、生活の場でもあるということ。例えば、食事は全てキャンパス内の生協食堂やベーカリーカフェ、ワンプレートレストラン、ショップでの手作り弁当など、各人のライフスタイルに合わせて自由に取ることができます。図書館や銀行、郵便局、保健管理センターなども身近にあり、必要なもの全てが、まさに毎日の学生生活圏内にあるのです。「高校時代、片道10キロの道のりを毎日通っていたので、大学くらいはなるべく近くで過ごしたいと思っていました。なので、合格するとすぐに申し込みました。ここ以上に近いところはないですからね」と農学部2年生の前田さんは言います。各居室には家具家電が付いているので、生活のための新たな準備は不要。女子専用フロアやオートロック、モニター付きインターホン、宅配ボックス、コミュニティールーム、売店など、学生が安心で快適な大学生活を送るための設備が整っています。「お部屋自体にそれほどのこだわりがあったわけではないのですが、全体が白色で統一されている感じがとても気に入りました」(前田さん)。
学生会館の管理人の西田さんにとっては、入居している学生は全て自分の子どもだといいます。本当の親御さんの代わりに、時には嫌われることもいとわずに接してきました。「例えば、ゴミ出し。ゴミの出し方一つにもそれぞれの地域にルールがあって、社会に出れば社会人としての常識が問われます。それがきちんと守れる人間に育っていってほしいですし、そんな一つ一つの物事との向き合い方が全てに通じるのだと思っています。だから、守れない人がいると、ちょっと厳しめに張り紙をしたりしますね」。
焼きたてパンが並ぶベーカリー。
「FAVO Cafe」のテラス席。
山口吉田学生会館内のショップ。
明るい生協食堂で仲間とランチ。
住環境が充実していることに加え、新たな試みとして「学生スタッフ制度」を採用しています。これは入寮している学生たちが主体となって、「学び合う・支え合う館内のコミュニティーづくり」「学生と地域社会とを結ぶ学びと交流のイベント」「生活環境や環境改善のための生活向上プロジェクト」「年間の取り組み発表・来期の募集プロジェクト」といった活動を行っていくものです。そして、こうした活動を通じて、学生たちは行動力や協調性、規則正しい生活習慣と自立性を身に付けていきます。
実は、前田さんも、そんな学生スタッフの一人。
「学生スタッフ自体は現在10人ほどいます。この10人を中心に、さまざまな活動を行っています。もちろん、こうした活動に積極的な人もいれば、興味すら示してくれない人もいる。いろいろな人がいて、それを理解することも必要だし、あわよくばそういう人にも参加してもらえたら…そんなことを考えているだけで楽しいんです」。
そんな彼女たちの活動を常にそばで見守ってきた池田さんは、「前田さんも含めて、何人かいる学生スタッフの話を聞くと、口をそろえて言うのが『自分たちにとってはチャレンジすることを促してくれる場所だ』と。何かにチャレンジしたいと思っても、なかなかそれを実行に移すのは難しい。でも、そんな場が身近にあることを感じてくれているのは、本当にうれしいことです」。入居している学生の要望から、館内の売店の夕方のお弁当販売事業を自分たちで企画し、運営することも試験的に始めています。
「私たちが提案させていただいた
学生スタッフがオープンキャンパスで訪れた高校生に山口吉田学生会館を説明。
オートロックでセキュリティー対策にも配慮。
エントランス脇には、 便利な宅配ボックスも完備。
白い壁と天井が気に入っている室内。
趣味のコーナー。お花を生けるのも大好きな前田さん。
熊本大学生活協同組合 住まい事業部 店長 吉谷 裕哉さん
2016年4月14日に起きた熊本地震では、本震後も震度6以上の余震が何度も続き、生協管理物件も損壊するなど大打撃を受けました。被災した職員もおりましたが自宅に帰らず、被災者の誘導、避難所の確保、食料の調達と、応対に追われる日々を送りました。
一方で、オーナーさんを駆け回って被災学生のための仮住まいを手配し、大学が休みになった期間に何とか物件の修繕を終わらせて、授業再開のタイミングまでに住める状態にして、学生を迎え入れることができたのは幸いでした。
やはり住まいというのは、蛇口をひねったら水が出るのが当たり前、風呂はお湯が出て当たり前、雨漏りしなくて当たり前、ガラスなんか割れていなくて当たり前、入居するときは掃除が行き届いていて当たり前。でもそれが当たり前でなくなったとき……雨漏り、火事、河川の氾濫、地震等々の当たり前ではない事態が起こったときにこそ、私たち生協職員の力が試されます。そのあたりが住まい事業の難しさでもあり、それが一般の不動産業者さんに比べて、生協として本領を発揮するところなのだと思っています。災害は怖いと思うので、今も台風が発生したらすぐに情報を見て、ことに備えています。
学生さんには、より快適なお部屋を準備して入居してもらい、4年間ないしは6年間何事もなく卒業してもらうのが一番です。トラブルが起こったときには、オーナーさんとの間に入って対応をするなど、きめ細かな配慮を心掛けています。学生さんが困らないように「安心・安全の管理」をご提供して、来年もそれ以降も長く続く熊本大生協の住まい事業が、熊本大生にとって最良の住まいのパートナーになれるよう、実践していこうと思います。熊本大生協には学生組織で100人以上の規模のサポートセンターがあり、新入生へのサポートを通して、保護者さまにも高い満足度をいただいております。
2016年熊本地震発生直後の熊本大生協が管理していたアパートの様子。キッチンにはあらゆるものが落下したまま。
熊本大生協では窮地に立たされていた熊本大生のために、
職員自ら食事を準備しました。
岩手大学生活協同組合 不動産部 店長 和田 恵さん
岩手大学では、22年度の新入生1084人中74%が自宅外生で、留学生173人を加えると、一人暮らしに不安を抱える新入生に求められているものはとても大きいと言えます。岩手大学生協の不動産部では、生協管理物件の管理、大家さん・業者管理物件のあっせん・仲介、合わせてガス事業を行っています。
ガス事業では、24時間集中監視システムが導入されており、安心してガスを利用できる仕組みとなっています。岩手の冬はとても厳しく、水道管凍結事故が多発します。今年の冬は半導体不足の影響で給湯器が壊れると納期が何カ月も遅れると聞いていたため、部内で「凍らせるな!キャンペーン」(笑)を張り、「ブレーカーを切らない」「必ず水抜を」と訴えるチラシを何度も配布し注意喚起しました。それが功を奏したのか、今年は水道管凍結による大きな事故は起こりませんでした。
入居者募集時の工夫の一つとしては、「ゼロシステム」という、家賃・敷金・礼金・仲介料なし、2年以上居住で退去時に通常のクリーニング費用はいただかないという仕組みがあります。生協管理物件だけでなく他のオーナーさんにも広く導入していただいているので、初期費用を抑えることができ、学生さんに大変喜ばれています。
新学期は新入生サポートセンターにてアパートのあっせんを行いますが、職員、運営担当の学生サポーター(Anchor)と一緒に考え、より多くの新入生にお部屋をあっせんできるように取り組みを行っています。思いついたことはみんなで議論し、効率化したり、慣習にとらわれずにやめてみたり、そして新たなことにチャレンジしてみる。こういった考えで2023年新学期も全スタッフで取り組んでいきます。
新入生サポートセンターにて学生スタッフ“アンカー(Anchor)”の活動。