【特集】大阪・関西発!次代の可能性を拓く人材育成 大阪公立大学における人材育成「アントレプレナーシップ教育」【特集】大阪・関西発!次代の可能性を拓く人材育成 大阪公立大学における人材育成「アントレプレナーシップ教育」

大阪公立大学では、大阪市立大学、大阪府立大学時代からの伝統を受け継ぎながら、統合後、さらに進化し、洗練された高度な人材育成教育体制が構築されています。
中期計画「大阪公立大学ビジョン 2030」においても重要な取り組みとされる大阪公立大学の「アントレプレナーシップ教育」とは果たしてどのようなものなのか。その概要と狙い、具体的な取り組みについて紹介するとともに、プログラムを実際に受講している学生の声をお届けします。

大阪公立大学ビジョン 2030

  • ビジョン1 / 教 育

    高い専門性に加え、幅広い教養と物事を相対化して捉える視野、および他者の視点に立てる能力を育む教育を通して、地域課題はもとより地球規模課題の解決を先導するグローバルリーダー人材を育成します。

  • ビジョン2 / 研 究

    多様な学問領域群を包含した大学として、卓越した学術研究の推進と、総合知の活用による新たな社会的価値の創出を通して世界の知的競争をリードします。

  • ビジョン3 / 社会貢献

    大阪の精神文化の中心たる大学として、生涯教育の拠点となるとともに、多様なステークホルダーとの連携のもとイノベーション・エコシステムを創出し、地域課題および地球規模課題の解決と未来社会の創造に貢献します。

  • ビジョン4 / 大学運営

    卓越した教育研究および社会貢献を通じた特色ある活動推進の基盤として、大学運営体制を革新します。

ビジョン2030の中にも掲げられるアントレプレナー教育への取り組み

2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学の統合によって誕生した大阪公立大学。両大学が持つ強みを生かし、高度な研究成果と総合知を結集することで、大阪を含む関西エリアだけでなく、いずれはわが国、そして世界をけん引する「知の拠点」として、さまざまな社会課題の解決に貢献すべく新たな船出をしました。そんな大阪公立大学が掲げる未来への道しるべこそが「大阪公立大学ビジョン2030」です。

国内最大規模の総合公立大学としての強み・独自性を踏まえた上で、2030年における大阪公立大学のあるべき姿(4つのビジョン)を提示し、そこからバックキャストしてビジョン を実現するための中長期戦略(20の重要戦略)を立て、各戦略を推進するための具体的な アクションプラン(51の具体的取り組み)を整理しています。ビジョン2030の基本的な考え方は、高い専門性に加えて国際的かつ分野横断的な視点を涵養する「教育」、卓越した学術研究の推進と総合知を活用した新たな社会的価値の創出を目指す「研究」、大阪という大都市に根差した大規模大学として、多様なステークホルダーとの連携の中でイノベーション・エコシステムを構築する「社会貢献」、そして上記3つのビジョンを支える基盤となる「大学運営」体制を革新することにあります。中でもビジョン3の社会貢献においては、具体的な取り組みとして「スタートアップ創出支援による創業環境の充実」および「国際的なアントレプレナーシップ拠点の構築」が進められています。その具体的取り組みを推進する中核的役割を担っているのが「高度人材育成推進センター」です。

新しい価値をどう世の中に生み出すかという大学としての役割


松井 利之 先生
大阪公立大学 副学長
(高度人材育成担当)

高度人材育成推進センターは、統合前の大阪府立大学で2008年に設置された産学協同高度人材育成センターがその前身です。「設立当時は博士課程を修了した優秀な人材が、アカデミアのポストを得ることができず、不安定な身分のまま研究生活を送るという、いわゆるポスドク問題が顕在化していた時期でした。博士の学位は取ったけれど安定した就職先がなく、高度な研究力を生かせずに欝々とした日々を送る状況を強いられている研究者もいましたね」と高度人材育成推進センターの松井利之センター長は当時を振り返ります。

こうした事態に国も乗り出し、文部科学省でイノベーション創出型若手研究人材養成事業の補助金制度が施行されるとともに、多くの研究型大学で博士人材のキャリア開発に関する取り組みが実施されはじめました。大阪府立大学も大阪市立大学とともに、産業界を志向する博士人材の育成に取り組み、ともすれば企業から扱いにくいとされてきた博士人材に対して、さまざまなキャリアをつくるため、多様なトランスファラブルスキル(チームマネジメント力、リーダーシップ、優れた国際感覚、異分野理解力など)やイノベーションマインドを教育する体系を作り上げてきました。現在、大阪公立大学の高度人材育成推進センターは、全学の共通教育を担う国際基幹教育機構に設置され、博士前期課程を含む全ての大学院生や学部・学域生を対象に正課および正課外のさまざまな教育プログラムを提供しています。「設立以来、絶えず意識してきたことは、この世にない新しい価値をどう世の中に生み出すかというのが大学の役割として重要だということです。研究成果の社会実装、すなわち人文科学、社会科学、自然科学の高度な知や科学技術の成果をどう社会で活かすか。そういうマインド、すなわちアントレプレナーシップを持った学生を育てていくことがセンターの使命となっています。もちろん、いたずらに起業を勧めるものではなく、起業は自らのビジョンを実現するための一つの手段であるというスタンスでアントレプレナーシップ教育を行っています」と松井センター長。こうした活動の影響もあって、一部の学生が自発的に起業部(いわゆるアントレプレナーサークル)を今年度になって設立しました。

次世代に向けた人材育成教育のロールモデルを提示し続けていく


谷口 与史也 先生
大阪公立大学 工学研究科
都市系専攻 教授

高度人材育成推進センターでは、主に3つの教育カリキュラムおよびプログラムを提供しています。1つ目は、大学院共通教育科目である「イノベーション創出型研究者養成」カリキュラムです。また、この一環で企業との連携を深める「研究インターンシップ」、「インタラクティブマッチング」や「企業交流会」を実施しています。学部・学域生に対しては、自らのキャリアビューを築くことを支援するための講義や、海外大学と連携し異文化理解とアントレプレナーシップを涵養する科目を開講しています。2つ目は、グローバルアントレプレナー育成のためのFledgeプログラムと名付けた、他大学学生や社会人なども含め誰もが学ぶことができるプログラムです。起業家精神を学ぶ各種講義や演習、スタートアップ企業や地域企業、金融機関、インキュベーション施設等と連携した短期プログラムやビジネスアイデアコンテストなどのイベント、米国、カンボジア、タイ、台湾等への海外派遣プログラムやオンラインプログラムなどを実施しています。3つ目は、博士課程教育リーディングプログラム(システム発想型学際科学リーダー養成学位プログラム)です。これは博士前期課程・後期課程5年一貫の学位プログラムで、専門分野の枠を超えてグローバルに活躍する研究リーダーを育成しています。

「いずれのプログラムでも企業出身の経験豊かなメンターが、きめ細かく学生を指導し、自らの将来を切り拓くための、有益な情報を提供しているのが高度人材育成推進センターならではの大きな特徴です」と谷口与史也副センター長。「大阪公立大学としてはやはり一人一人にしっかり寄り添っていくということを一番重要なポイントとしています。統合によって大学としてのスケールは大きくなりましたけれども府立大学、市立大学時代から受け継がれてきたこの強みは生かしていければなと思っています」と松井センター長も続きます。高度人材育成推進センターは、今や学生の教育を担う組織としてだけでなく、数多くの国内外の大学、企業、金融機関、公共団体、NPO、地方自治体などと連携を保つ、イノベーション・エコシステム拠点としても位置付けられています。大阪公立大学がビジョン 2030の一環で推進しているイノベーションアカデミー構想の一翼を担い、これからも常に大阪・関西発の次代の可能性を拓く人材育成のロールモデルを提示し続けていくことでしょう。

“FLEDGE: Fostering Links, Exploration, and Development of Global Entrepreneurship” PROGRAM(FLEDGE:ひな鳥が巣立つという意味を持つ単語)

グローバルアントレプレナー育成のためのFledgeプログラム

  • 柔軟な発想力、企画実行力のアップに!
    ビジネスアイデア創出

    ビジネスアイデア創出やデザイン思考・システム思考の基礎を学びたい人

    講義名

    • アディエーション演習
    • 戦略的システム思考力演習
  • インターンシップや就活前のスキルアップに!
    ビジネスプラン作成

    事業化のプロセスを学びたい人

    講義名

    • ビジネス企画特別演習
    • MOT事例演習
    • MOTコンサル演習
    • 知財戦略演習
    • マネジメント&マーケティング演習
  • 視野を広げるステップに!
    起業実践

    起業・新規事業創成の実践を学びたい人

    講義名

    • ベンチャービジネス&アントレプレナーシップ基礎
    • ベンチャービジネス演習
    • リーダーシップ演習

アントレプレナーシップを学ぶ 学生の声

次世代に向けた人材育成教育のロールモデルを提示し続けていく

千田 小春アリシアさん
大阪府立大学 農学部3年

Fledgeプログラムを通して、ビジネスに関わるさまざまな視点でアントレプレナーシップを学べたこと、そして、自分のアイデアの実現に向けた後押しをいただけたことは、大きな起点となりました。昨年の夏にタイに行かせていただいた際には、タイのビジネス教育をリードしているPIM(パンヤ ピワット経営大学)の学生とビジネスに関する講義を受けたり、チームで現地の課題に対するアイデアワークなどを行ったりすることで、英語を通じた、世界的な広い視野で社会課題を捉えることができました。また、大阪公立大学教育後援会支援「2022年度 チャレンジ事業」においては、私が企画した理系大学生のためのプレゼンテーションプログラム「STLIFT」が採択されました。

「専門の勉強に励むにも、何のために学ぶのか意義を見出せない」、そんな悩みを、意外と多くの理系大学生が抱えているのではないかと感じ、彼らが自分の学びや学術的関心をアウトプットし、意見交換を行っていく場を作ることで、より自発的な学びの場が増えるのではないかと考えたのです。「プレゼンテーション」を積み重ねていくことで、テーマに対する知識・思考の整理だけでなく、伝え方、資料デザインなどのスキル上達にもつながってくれればと考えています。これまでの活動を通して、アイデアを社会に還元していくには、学術研究だけでなく、国際的な広い視点や、事業として実装していく力がいかに重要かを実感しました。Fledgeプログラムで、自分の視野を広げ、深める機会を得られたことは非常に大きな糧となりました。これからも、たくさんの機会に挑戦をし、学んでいきながら、いつか日本における科学技術を応用したスタートアップがもっと増えていくことに期待をしています。

頭の中で描いているスマート農業をいずれは社会実装する

霜野 真佑さん
大阪府立大学 農学部3年

実家が農業を営んでいるのですが、父曰く「大学の研究は色々されているだろうが、それが現場で本当に役に立つのか疑問を持つことがある」と。現場に結び付く研究をするにはキャパシティーが足りず、農家は農家で大学の研究にどこかで見切りをつけている。どっちもどっちだし、仕方がないと言えば仕方がないのですけれども、ならば私がその橋渡し役になろうと思ったのです。私のまわりを見渡すと、大学の講義の内容を理論だけで固めてしまって、大学で得た4年間あるいは6年間の知識や経験はそのままで終わってしまっているように思います。さらに、バイオテクノロジーがあったらいいな、バイオ燃料があったらいいな、ゼロカーボンができたらいいな、って素晴らしいアイデアはたくさんあるんです。けれど「知識→アイデア→社会実装」の流れがあるとすれば途中で終わってしまっていることがよくあるんです。

難しい部分は多々ありますが、社会実装できる人がいないのはこの上なく勿体ないことだと思います。Fledgeプログラムのカリキュラム自体は、すごく多様性に富んでいて、それぞれのニーズに合わせて柔軟に対応してくれるところがとてもいいと思っています。何をしたらいいのかわからない人から起業をすでにしている人まで、なんとなく起業に興味があるから関わってみたいという人からガチで関わりたいという人まで、実にさまざまな意識の人がいますが、Fledgeプログラムはどんな人でもウエルカムな感じなんです。2022年度から総合大学になってFledgeも新たに生まれ変わってきていることもあり、私が1年生の時よりも、アントレプレナーシップを学びたいという学生が増えてきているような気がします。そんな彼らに先駆けて、Fledgeや大学の講義で得た知識や経験を通して、頭の中で描いたスマート農業に関する構想を社会実装できるようにしていきたいと考えています。