【特集】大学と大学生協のシナジーで進める施設環境づくり キャンパス、再構築。 【特集】大学と大学生協のシナジーで進める施設環境づくり キャンパス、再構築。 【特集】大学と大学生協のシナジーで進める施設環境づくり キャンパス、再構築。

2030年に創立150周年を迎える法政大学では、長期ビジョン「HOSEI2030」の方針に沿った「キャンパスの再構築」が進められています。これは取り組むべき重要課題の一つとして掲げられているものですが、なぜ、これが重要なのか。
なぜ、これを150周年に向けて掲げているのか。施設環境の整備、維持管理に携わる関係者の方々への取材を通じて、施設環境の面から見た法政大学の未来への展望に迫ってみました。

取材にご協力いただいた皆さん


細田 泰博さん
法政大学
学生支援統括本部長
保健体育センター事務部長


立石 誠さん
法政大学
施設保全部 部長


菊田 典子さん
法政大学
施設保全部
総合管理課 課長

[コーディネーター] 法政大学生協 専務理事 古本 暁徳

法政大学の施設環境における基本的な考え方

2030年に創立150周年を迎える法政大学では、長期ビジョン「HOSEI2030」およびその実現を着実に推進していくための「中期経営計画」に基づく、さまざまな取り組みが進められています。創立150周年にあたっては、もちろん数多くの記念事業の計画が模索されているようですが、特に重点的に取り組むべき課題として、キャンパス再構築、ダイバーシティ化の推進、ブランディング活動の3つが掲げられています。

法政大学には、市ケ谷キャンパス、多摩キャンパス、小金井キャンパスと都内に3つのキャンパスがあります。法学部・文学部・経営学部・国際文化学部・人間環境学部・キャリアデザイン学部・デザイン工学部・GIS(グローバル教養学部)のある市ケ谷キャンパスは、市ケ谷・飯田橋駅から徒歩で約10分、都会的で洗練された都市型キャンパス。最近建て直された校舎が多く、特にシンボルであるボアソナード・タワーは地上27階・地下4階建てという近代的な高層ビルになっています。経済学部・社会学部・現代福祉学部・スポーツ健康学部のある多摩キャンパスは、広大な敷地・自然に囲まれた環境です。合計敷地面積は82万4千㎡もあり、これは東京ドーム約17個分に相当します。また、情報科学部・理工学部・生命科学部のある小金井キャンパスは、最先端科学・技術を学ぶための情報・研究設備が充実したインテリジェント・キャンパス。静かな住宅街に囲まれたスタイリッシュな校舎に、中庭の緑が彩りを添えています。

キャンパスの再構築では、点在する各キャンパスにおいて必要な施設の整備を行うとともに、教育・研究の場としての魅力を最大限に高めることで、教育機関としての価値そのものを向上させることを目指しています。しかし、一口にキャンパスの再構築と言っても、一筋縄ではいかないのが現実。どうやら法政大学のキャンパスに関しては、立地の問題、安全性のさらなる向上、施設の老朽化への対応等の独自の課題が存在し、それらを勘案した上でより効果的かつ実効的なキャンパスの再構築が求められているといえそうです。

キャンパス再構築のための取り組み施策

  • キャンパスグランドデザインの確立
  • 市ケ谷キャンパスの将来構想の策定
  • 多摩将来計画キャンパス環境のリ・デザイン実施
  • 小金井キャンパスの将来構想の策定と実施
  • 国際高校の学校構想の実現に向けた検討

【市ケ谷キャンパス】ボアソナード・タワー
【市ケ谷キャンパス】ボアソナード・タワー

法政大学ならではの施設環境の特徴と課題とは?

法政大学には、3キャンパスに加えて、3つの付属校があります。このうち市ケ谷キャンパスは、キャンパス再構築にともなう再整備事業が2021年に完了しています。

多摩キャンパスは、1984年の開設以来、各種の整備が行われてきましたが、完工から約40年を経た校舎も多く、設備等の更新の時期を迎えています。広大なキャンパスですが、交通の便など、多摩キャンパス固有の課題があるといいます。さらに各学部棟がキャンパス内で分散しているために、学部間で連携した活動が見えづらいことから、キャンパス全体としての魅力を発信できていないことも指摘されています。

また、小金井キャンパスは、2013年の中央館完工によって再整備事業がおおむね完了しました。学生や教職員にとって魅力のあるより安心・安全な教育・研究環境の実現や、住宅街に位置することに起因する諸問題の解決が引き続き課題となっています。

【市ケ谷キャンパス】富士見ゲート
【市ケ谷キャンパス】富士見ゲート

「法政大学には、各キャンパスおよび校地に合わせて3万人超もの学生・生徒が集っています。建物だけでも百数十棟もあるのですから、全国の大学の中でも屈指の大所帯と言っていいでしょう。こうした中で施設環境を整備していくには、やはり安心・安全が何よりも重要であり、大学全体の限られた財源の中で、計画的に進めていくことが求められます。単年度の工事だけではなく、中長期的な計画を立てながら、重要性が高いものに関して確実に工事を進めていくことで設備等の施設環境の維持管理を図っています。市ケ谷キャンパスについて言うと、ここ20数年ほどの間に、地上27階・地下4階建てのボアソナード・タワーや富士見ゲート、大内山校舎などの建設といった大規模な再開発を実施してきました」と法政大学の施設保全部の立石さんは言います。

さらに学生支援統括本部長の細田さんは、「施設環境が学生のニーズに合っているか」「学生のニーズに応えるために学内部局の協働ができているか」という2つの課題を指摘します。

「与えられた施設を学生がどのように使っているかは、基本的に学生センターで把握しており、有効な利用を促すためのアピールや工夫をしているのですが、これまでは根本的なところにコミットできていなかったように感じていました。それがようやく学内タスクフォースの設置を経て、学生のニーズによりコミットした施策が打てるようになったと思っています。ただ、どこの大学も一緒かもしれませんが、1日のうちに利用の山と谷があり、それが1年のうちにも歴然とある。その利用の差を運営する中でどのようにカバーしていくのかが大きな課題です。一方、学生のニーズに応えるために学内部局の協働ができているかは、それこそ大学生協さんともきちんと連携をしながら進めていくことが肝要と思っています」。

課題解決のための取り組みを大学生協とともに

【市ケ谷キャンパス】セブン - イレブン
【市ケ谷キャンパス】セブン - イレブン

法政大学の3つのキャンパスには、それぞれ個性があります。大切なのは、そこに通う学生が求めるホスピタリティに、キャンパスによってあまり大きな差が出ないよう、一つひとつの環境整備を充実させていくことです。さらには、キャンパスの再構築の過程の中で、同じ長期ビジョン「HOSEI2030」に掲げられているダイバーシティ化の推進を同時に進めていくことで、一人も取りこぼすことのない多様性への対応を実現していくことです。

そこで施設環境におけるさまざまな課題に対して、解決へのスキームとして重要な位置を占めているのが、大学生協をはじめとする事業者とのソリューションシップといえるでしょう。その象徴的な取り組みとして挙げられるのが、市ケ谷キャンパスの外濠校舎1階にあるセブン - イレブンの大学生協への運営移管です。

「大学の中のアメニティーを考える時、多くの場合、採算ベースではどこも手を挙げてくれません。しかし、市ケ谷キャンパスのセブン - イレブンは、かつて全国で一番売り上げが多い店舗のうちの一つと言われていたくらい潜在的なポテンシャルを秘めていました。その利を上手に生かすことさえできれば、十分に採算の見合う商いになると考えていました」と細田さん。確かに大学という場所では、季節や時間帯によって売り上げにばらつきが出るなどの難しい面もありますが、見方を変えればターゲットが基本的に学生なのですからその特性を見極めることで、より効率のよい商いができる可能性もあります。「学生の興味を惹くような売れ筋をラインナップすることはもちろん、無人レジや無人接客などコンビニ業界における新たな取り組みを、ここをアンテナショップのような感覚で運営していくのも一つかと思いますね。大学生協さんに移管する前はセブン - イレブンの直営店だったので、あまり冒険をすることもできなかったというふうにも聞いています」。

また、近年は多様性に関する施策の一つとして、学生食堂におけるハラル食、ビーガン食の提供を実施する大学が少なくありません。「法政大学でも、その提供は提案がありました。実施にあたっては上智大学さんをロールモデルにしたいと考えたのですが、そこには超えるべき壁があり、いくつかのステップを踏む必要がありました。そこで大学生協さんをはじめ、お付き合いのある業者さんとも相談しながら、まずはスモールスタートを切れたらと考えているわけです」と細田さんは語ります。

法政大学くらい大規模な大学であれば、ハラル食やビーガン食は、それを提供していること自体に大きな意味を持ちます。長期ビジョン「HOSEI2030」にも掲げられている国際化への取り組みの一つとしても評価され、法政大学のブランディングの一助にもなることでしょう。

これからの法政大学の、施設環境のあるべき姿とは何か

【多摩キャンパス】6号館食堂
【多摩キャンパス】6号館食堂

【小金井キャンパス】東館食堂
【小金井キャンパス】東館食堂

法政大学における施設環境とは、いったいどこを目指していくのか。この命題に対して、「あえてシンプルな言い方をすれば、大切なことはやはり大学の主役は学生なので、学生一人ひとりが法政大学で4年間を過ごして、本当に良かったと思ってくれることかもしれません。そのためのステージを、私たちは精いっぱい用意しようと……。そこに大学生協さんが直接的・間接的を問わず、大きく関与して、それがよりよい方向に進んでくれたら関係としては理想的だと思います」と立石さんは笑顔で語ります。

さらに「そうですね。卒業して何かの機会に振り返ったときに、そういえば学生の時には考えもしなかったけれど、当たり前に大学生協でご飯を食べて、本を買って、免許を取得して、成人式の晴れ着や卒業式のはかまを借りて……あれってすごいことだったんだな、と。意識することなく、でも実はそこには大学生協がいたんだっていうふうになっていたらうれしいですね」。おそらく大学の施設環境に携わる多くの人が抱く理想的な施設環境の在り方は、それに尽きるのかもしれません。そのためにも法政大学と大学生協とのシナジーによって、これからどのように施設環境を充実させていくか、が大変重要になります。

そのことについて細田さんは「大学は大学生協さんのことを、大学生協さんは大学のことを、お互いがお互いのことをよく知って、お互いに理不尽に無理なことは言わず、任せられるところは任せて……。結局は、そういうことだと思うんですね。学生にはどこまでが大学で、どこまでが大学生協かなんて、そんなことは全然意識してもらわなくていいんです。それよりも大切なのは、大学と大学生協さんが、常にフィフティー・フィフティーで意見を交わせられること」だと言います。法政大学には、大学と大学生協のシナジーが発揮される関係が確かにある。今回の取材を通じて、これからの施設環境の構築を通じた法政大学の未来を少しだけ感じることができました。