あなたは、本を何度も読み返しますか。
それとも、一度読んだら次の一冊へ向かいますか。
言葉のお守り
熊本大学4年生 伊瀬知美央
読み返すきっかけはいつだって些細なものだ。たまたま本棚を見ていて目に入ったからとか、読んでから時間が経ってまた、気になる場面が出てきたとか。特にたいした理由はなく、昔読んだ本を手にすることが多い。飽き性なところのある私は、読み終えた本を2周することよりも、中学生で読んだ本を久しぶりに捲るみたいに、長いスパンで読み返すことのほうが多い気はする。読み返すまでの時間が開けば開くほど、不思議な愛着が湧いてくる気もする。
昔から本は安心して自分のことを明け渡すことのできる存在だと思っていた。本に残された言葉の時間は長い。いつまでも待っていてくれる。はじめて読んだ時に、難しくて内容がよく分からなかったり、納得がいかない結末だったりしても大丈夫、いつかまた、自分が読みたいと思ったタイミングで本は楽しむことが出来る存在だから。
それに一度本の形になってしまえば、そこに記された言葉が変わることはない。ある本をひらけば必ず再会できる友達がいる、ワクワク出来る物語がある、覚えておきたい言葉がある。何らかの形で残された物語や考え方、言葉は、何十年、何百年と時代を超えてなお残ることさえもできる。どんなことがあろうとページを捲れば変わらないで私を迎えてくれる存在、遠くの時代から残っている言葉と繰り返し向き合う経験をさせてくれる存在、考えてみただけで、何度も手に取ることの出来る本は安心感がある存在だと思わされる。こんな素敵な永遠は、本以外ではなかなか体験できないような気もする。
もう一度、本をひらくこと。この行為を通して私はずっと、言葉のお守りを集めているような気がする。海辺でシーグラスを集めるように、物語の中から自分にとって大切なものを拾い集めていく。昔読んだ本のページを手に取る度、様々な気づきがある。たくさんの気づきを通して、本の言葉に対する解析度が高まっていく中で、お気に入りの言葉や場面も増えていく。そして、何度も読み返す中で自分の心に積み重なっていった印象深い場面や素敵な言葉は、いつも頭のどこかにいて、ここぞという時に私を助けてくれる。私があと一歩踏み出したいときやくじけそうになったとき、決まって思い出すのは、誰かが本に残しておいてくれた言葉のような気がする。
P r o f i l e
伊瀬知美央(いせち・みお)
いよいよ大学4年生!
最近よく読み返しているのは、最果タヒさんの『溶けていく氷にとってぼくらは永遠』です。詩集や歌集は読み返す度に、お気に入りの詩が増えていくので、何回読んでも楽しいと感じています。
何度も、何度も、何度も、読む
同志社大学3回生 山原和葉
私は何度も同じ本を繰り返して読む。そのことを当たり前だと思っていたが、世の中には再読しない人もいると言うことを知り、どうして自分は再読するのだろうと考えた。
ネット上で「一度読んだ本を読むのは心理的な労力が少ないから」という意見を目にした。確かに、日々忙しく本を読む時間も限られている中で、確実に面白い本を読みたい時、以前に読んで面白かった本をもう一度読むのが一番効率がよい。私もそのような思いが全くないとは言えない。しかし、私が今までの人生で何度も何度も繰り返し読んだ本を思い返してみると楽だからと言う消極的な理由ではきっとなかった。
では私はどうして何度も同じ本を読み、同じところで泣き、同じところで考え込み、同じところで笑うのだろう。ある日、再読について友人と話したとき、言われた言葉がヒントになった。「受験の時の参考書は自分に定着させるために何周も解くじゃん、同じじゃない?」
言われてみて気がついた。何度も読んでいる本というのはその本の文章が、登場人物の考え方が、自分の一部になっているように感じる本が多い。私が何度も何度も同じ本を読むのは、素晴らしい本を自分の中に定着させたい、この素晴らしい本を自分の一部にしたいという気持ちがあるからではないだろうか。
私が、今までに何度も読み返した本というのはどれをとっても、最初に読み終えた直後にもう一度最初のページから読み直している。
素晴らしい本に出会ったときにうまれる、何が何でもこの本を自分の中に取り込むのだという衝動が、最後のページまでめくった手を最初のページに戻すのかもしれない。そして、読んでから時間がたって、またもう一度読みたくなるときは、その本が自分の中で薄くなるのを悲しく感じ、取り戻したいのかもしれない。何度も読めば読むほど、大好きな本は確実に自分の一部になっていく。考え方、話し方、行動、振り返るときっとあの本を何度も読んでいたから今の私はこうなったのだと思う。何度も読んでいる本はやはり他の本と比べて表紙がすり切れていたり、ページが折れていたりする。その一つ一つが、私とその本が過ごした時間を表していると思うと、とっても愛おしくて、また読みたくなってしまう。自分はなんて幸せなんだろう、と本棚を眺めながら感じた。
P r o f i l e
山原和葉(やまはら・かずは)
奈良県在住。エッセイに出てきた友人とは京都の本のイベントで出会った。どこから来たのか聞いたら、奈良県からでまさかの最寄り駅まで一緒。お互い2時間かけてやって来て出会ったのだ。奇蹟だ。こんな出会いをもたらしてくれる本が大好きだ。
特集「くりかえす」