「くりかえす」からこそ輝く瞬間
九州大学2年生 古田奈寛
「くりかえす」というテーマから私が連想したのは、高校演劇だった。同じ作品を何度も演じ、何度も観る。
全く同じ舞台は一度もない。今回は、私が大好きな高校演劇の「くりかえす」について書いてみたい。
舞台は“なまもの”
高校演劇の大会では、地区大会、県大会、地方ブロック大会を経て、全国大会まで、同じ作品の上演を「くりかえす」。ところが、地区大会から全国大会までは約1年の期間が空くため、地区大会時に3年生であった部員は、全国大会に出ることが叶わない。役者の交代が余儀なくされるが、先輩から後輩へと受け継がれることはある意味素敵だと思う。私自身は全国大会とは無縁だった。しかし、私が2年生のときに、同じ地区の高校が全国大会へと駒を進めた。私自身も地区大会で彼女たちの舞台に魅せられており、その後の県大会や、全国大会前の地元での上演の際も観劇した。既に観ている大好きな作品だから、次の展開はわかっていた。それなのに、毎回ワクワクしながら観劇し、感動で涙が止まらなくなった。もちろん、試行錯誤が重ねられているという点で、「くりかえす」中での洗練された新鮮さもあるが、ここで重要なのは空気だと思う。往々にして、“舞台はなまもの”と言われる。役者の息遣い、観客の熱量、その空気感全てを含めてひとつの舞台なのだ。その瞬間にしか味わえないものがある。これは演劇に限らず、音楽やバレエなど、様々な舞台芸術にも共通することだろう。「くりかえす」からこそ一回一回に意味が生まれる。
最初で最後の感覚
かくいう私も、舞台に立っていた。あれは2年生の地区大会。私はその1時間、役と共に生きていた。高校で演劇を始めてから、最初で最後の感覚だった。頭の中では次の場面転換などを冷静に考えていたが、心と体は役に支配されていた。この役ならこの状況でこう動く、と考えるまでもなく自然と体が動いた。“ああ、私は今、役と共に生きているのだ”と感じて身を任せていた。思い上がりだと笑われるかもしれないが、気付けばその大会で最優秀個人賞を受賞していた。審査員をはじめとする観客にも、この感覚が伝わっていたのかもしれないと思うと嬉しい。ちなみにその後の県大会では、地区大会でのような役との一体感を味わうことはできなかった。「くりかえす」中で得られた一度限りの“なま”の瞬間。これだから舞台は面白い。
名作を「くりかえす」
戯曲の名作といえば、『ハムレット』や『ロミオとジュリエット』に代表されるシェイクスピア作品や、原爆投下後の広島を舞台にした『父と暮らせば』などが有名であり、時代を超えて再演され続けている。また、同時期に上演される舞台で、ダブルキャストが組まれることもよくある。キャストによる演じ方や雰囲気の違いは、魅力の一つとなる。高校演劇においても、演じ継がれる名作がある。『七人の部長』、『うさみくんのお姉ちゃん』、『アルプススタンドのはしの方』など。何度も上演されるほど、その台本に新しい解釈が生まれ、濃いものになってゆく。これが「くりかえす」ことの良さの一つであると感じる。
観劇のすすめ
「くりかえす」というテーマからは外れてきたが、私の演劇経験として外せないエピソードを紹介したい。2025年7月の全国大会を観に行ったときのことだ。12の代表校が香川県に集まり、珠玉の作品を上演した。舞台のレベルの高さも会場の熱量も、桁違いで圧倒された。全国大会で上演された作品の台本は、一冊の本にまとめて出版される。『季刊 高校演劇』である。ぜひ一度手に取り、演劇の台本というものを読んでみてほしい。また、文字を読むのと実際に舞台を観るのとでは印象が変わるので、台本を読んだ後は、ぜひ高校演劇を観に行ってほしい。お住まいの地域で夏から秋にかけて、地区大会が行われているはずだ。
高校演劇の良さ
さて、ここまで高校演劇の魅力を熱く語ってきたが、なぜプロの舞台ではなく高校演劇なのか。個人的な見解にはなるが、高校演劇はメッセージ性が強いと感じる。そのときの社会の状況を反映した作品もあれば、普遍的なテーマを扱った作品もある。それを青春真っ只中の等身大の高校生が全力で演じている。誤解を恐れずに言うと、多くは技術面も精神面も未熟な部分があり、青さが残る高校生だが、だからこそ真っ直ぐに届く。未熟とは言ったものの十分レベルは高く、柔軟な発想を感じる。さらに、各校の特色や独自性が表れる。近年は創作脚本が多く、同じテーマを扱った作品でも、その設定や見せ方にこだわりが見受けられる。場面転換などの演出面においても、各校の工夫が凝らされているので、ぜひ注目してもらいたい。
私は大学生になって演じる側からは身を引いたものの、相変わらず高校演劇が大好きだ。これからもずっと「くりかえす」舞台の良さに心惹かれ続け、上演に足を運ぶことだろう。最後に、私の演劇人生に関わってくれた全ての人、隣で支え続けてくれた人へ、感謝を込めて結びとする。
関連図書紹介

高校演劇劇作研究会
季刊「高校演劇」
No.281(2025)
〜香川全国大会上演作品特集〜
演劇の台本は、セリフに加え、舞台装置や場面転換の指示、人物の動きについて書かれたト書きがあり、特徴的な構成となっている。全国大会上演作品はどれも秀逸で、考えさせられる。これを読めば、きっと“なま”の舞台を観たくなる。(古田)
P r o f i l e
古田奈寛(ふるた・なひろ)
放送、マジック、ボランティア、ワークショップの企画・運営という4サークルを掛け持ち中。中学は吹奏楽部、高校は演劇部。新しいことを始めるのが好きで、意外とアクティブだねと言われる。たしかに。
特集「くりかえす」