座・対談
「『短歌の詰め合わせ』できました」東 直子さん(歌人・作家)P2


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4. 連作短歌もおすすめです

杉田
 私にとって短歌は、長い間エッセイで紹介されているものや『短歌パラダイス』(岩波新書)など一首単位で読むものでしたが、歌集を読むようになって連作のようにまとめて読むことも面白いと知りました。アンソロジーを入口にして歌集を読むことをお勧めする以外に、連作で読むことの面白さを伝えるにはどうしたら良いと思いますか。


 束ねることもバラバラにすることもできるところが、短歌の面白さですよね。でもやっぱり歌集で読むのが、短歌の醍醐味だと思います。一首だけだとわからないものが、連作で読むことで理解できたり味わい深くなったりするものなので。短歌を紹介するときにも、一首だけではなく連作でまとめて紹介するような評論の仕方も、もっと試みられても良さそうですよね。「前後にこういう短歌があることで、色が変わって見えます」みたいなところももう少し深めていきたい感じがします。アンソロジーも連作単位で切り取って作るのも面白そう。

杉田
 ほしいです(笑)。


 連作をじっくり読むのって、いまは新人賞の選考くらいになっていますもんね。一首ずつ読むと全然違う基準だなと、選考しながら思います。連作は短編小説を読む感じです。流れがありますから。テーマだったり意識の変換だったり、全体のうねりの中から感じられる感動は確かにあるので。最近そのあたりが手薄になっている感じはありますね。

 

 

5. 短歌もカジュアルに……

杉田
 もし短歌の歴史に興味をもつ人が、もっと詳しく知りたいと思った場合はどうしたら良いでしょう?


アンソロジーや評論のようなもの、例えば三枝昂之さんの『昭和短歌の精神史』(角川ソフィア文庫)などを読むのが良いのではないでしょうか。色々な切り口があると思いますが、最初はアンソロジーで実際の作品の流れをざっくりつかむのが良いと思いますよ。

杉田
 今までざっくり知れる資料があまりないと感じていました。それこそ三部冊になっている戦後短歌史みたいなものに突然行きあたってしまうとなかなか難しいと思うので。高校の資料集と専門書の間くらいのものがほしいなと、ずっと思っています。普段短歌の歴史の話を聞いていると、大掴みにできるのは昭和までなのでしょうか。


 平成は「口語短歌の浸透」くらいで、まだ歴史づいていない感じがします。歴史となると、多少年月が経ってから振り返るところがありますからね。昨日のことを今日位置づけするとなるとまだわからない、みたいな。ですので、30 年くらいだと、まだなのでしょうね。大学短歌会のことなども、これから歴史に刻まれていくと思いますよ。

杉田
 大学短歌会出身の方も、最近はよく聞きますよね。


 プロの歌人として活躍していますよね。私が短歌を始めたころは、若い人がどこで短歌をやっているのか知りようがなかったんですよ。投稿欄に「常連さんがいるな」みたいなことしかわからなくて。今はインターネットで、あっというまに会えますもんね。ちなみに、杉田さんが短歌に出会ったきっかけは?

杉田
授業で短歌を作ったら「良いのができたんじゃないか」と思ったので、新聞の選歌欄に投稿したんです。そこで選んでいただいて嬉しかったのが始まりで、それから作り続けています。一方で母が穂村さんのエッセイを持っていて、それを読んだこともあります。ですので短歌文化に触れたのは『短歌パラダイス』や『短歌はじめました。』(角川ソフィア文庫)あたりからだと思います。


 私も、短歌を投稿していたときに選ばれたりするとすごく嬉しかったんです。だから選歌欄を持つことができたときは、本当に嬉しくて。面白い短歌があると「私がこの短歌のはじめての読者になって紹介できる!」と燃えています。

杉田
 その延長に新鋭短歌シリーズでの歌集プロデュースがあるのでしょうか。


 それも嬉しいですね。新しく生まれた歌集で短歌と出会って面白いと思ってもらえたら「そうでしょう!」と母親のような気持になります(笑)。最近だと寺井奈緒美さんの歌集が好評ですよ。内容が面白いと、新人賞などをとっていなくても、色々な人から読んでもらえます。それをプロデュースできたのが嬉しかったですね。たぶん若い人が歌集を出すのは、20、30 年前はかなり少なかったのですが、ここ何年かは20 代で歌集を出すのも珍しくなくなってきました。そういう流れを作れたのは嬉しいですね。

杉田
 若手の歌集が増えたというのは、短歌を作る若い人が増えたからでしょうか、それとも出版業界のあれこれでしょうか。


 新鋭短歌は両方が重なったのかと思います。完全自費ではなく最低限の負担で出版できるので、カジュアル化できた部分が大きいと思います。私が『春原さんのリコーダー』(本阿弥書店、のちに、ちくま文庫)を出したころは「ハードカバーじゃないと歌集と言われないよ」と言われていました。23 年前でもそんな感じだったんです。意識がどんどん変わっていっていますよね。今は、新鋭短歌シリーズだけじゃなくて、色々な形で若い人の歌集が出るようになったと思います。

杉田
 ということは、出版社がカジュアル化しているということですか。


 そういう印象はありますね。

杉田
 そうなってくると、読むほうも色々選びやすくなるので良いですよね。


 書店の本棚が増えていけば、目に留まる確率も上がりますしね。『短歌の詰め合わせ』も、目に留めていただければいいなと思います。

杉田
 最後に大学生読者に向けて、作品を「読む」方でお薦めの本を教えてください。


 若い作者の色々な短歌を知りたいなら、山田航さんの『桜前線開架宣言』(左右社)が良いと思います。今年出た歌集なら山階基さんの『風にあたる』(短歌研究社)と、寺井奈緒美さんの『アーのようなカー』(書肆侃侃房)がお薦めです。初めて短歌にふれる方にも、読みやすいと思いますよ。

杉田
 今日はありがとうございました。

 
(収録日:2019年10月15日)
 

サイン本プレゼント!

東直子さんのお話はいかがでしたか?
東さんの著書『短歌の詰め合わせ』(アリス館)サイン本を5名の方にプレゼントします。下記のアンケートフォームから感想と必要事項をご記入の上、ご応募ください。
プレゼントは2020年1月31日までに応募していただいた方が対象者となります。
当選の発表は賞品の発送をもってかえさせていただきます。

 

対談を終えて

“短歌入門”のいろんな形や楽しみ方を知ることができて、とてもワクワクする対談でした。昔に比べて門が広がっているのだと感じて、たくさんの人に短歌を知ってもらいたいといっそう強く思います。また自分にとっての短歌入門書は、東さんの登場する本たちだったので、今回の対談は、門から進んできた先での“再会”のようでとても嬉しかったです。ありがとうございました。『短歌の詰め合わせ』を“東さんの好きな短歌の詰め合わせ”として読み返すのが楽しみです。

杉田 佳凜
 

P r o f i l e

東 直子(ひがし・なおこ)
歌人、作家。「草かんむりの訪問者」で第7 回歌壇賞、小説『いとの森の家』(ポプラ社)で第31 回坪田譲治文学賞を受賞。「東京新聞」「公募ガイド」等の選歌欄の選者。歌集に『春原さんのリコーダー』『青卵』(ともにちくま文庫)、『十階』(ふらんす堂)ほか。小説に『とりつくしま』(ちくま文庫)ほか。評論集に『短歌の不思議』(ふらんす堂)等、著書多数。最新刊は『短歌の詰め合わせ』(アリス館)。
 
 

コラム

短歌のフィクション・ノンフィクション

杉田
 『izumi』冬号の特集テーマは「ノンフィクション」ですが、短歌のノンフィクションって言い出すとややこしいなと思うんです。


 微妙なテーマを含みますよね。

杉田
 ただ『春原さんのリコーダー』を(文庫版の解説まで含めて)読み返して思ったのは、写実ではないけど完全なファンタジーとも違って、東さんが見ている世界をまるごと渡してもらう不思議な手触りがあるな、と。花山周子さんの解説に「歌の背後に作者が居ない」、「読者をいきなり自らの現場に引っ張り込み、そこに置き去りにする」とありましたが、作者の存在はあるけど意図はわからないから不思議に感じるのかなと納得しました。東さんは、短歌を作るとき、現実から遠ざかることを意識されているのでしょうか。


 現実をそのまま書いても、ただの報告になってしまいがちです。私はファンタジーやフィクションの世界が好きで憧れがあるので、現実とはちょっと違うところを書きたいという思いはあります。ただ最初から宙に浮いたものだとつかみどころがなくなる気がするので、基本はフィクションですがそこに必ず現実の要素を入れるようにしています。現実とフィクションのブレンドとして、必ず両面から作品を作りたいと意識していますね。

杉田
 短歌を作ろうとするとき、作りたいフィクションの世界があってそこに現実の体験を引っ張っていくのと、現実の体験にフィクションの世界を入れるのと、どちらが多いですか。


 その時々によりますが、現実の出来事をきっかけにして物語がふくらむようにフィクションが入ってくることが多いですね。誰かが発した言葉で面白いなと思ったことを、小説のように場面を練りながら作るような感じでしょうか。でも多かれ少なかれ、どんなものでも「紙に書かれた時点でフィクション」になってしまうところがあると思います。  

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