魔法使いと聖地巡礼の旅

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任 冬桜
 手紙を届けてくれるフクロウに、姿を消してくれるマント。杖を一振り、火花が散る—こんな世界にあこがれるのは、私だけでしょうか。誰もが一度は夢見る、ハリー・ポッターの魔法の世界 。物語の舞台、イギリスに留学した筆者は物語にまつわる各地を訪ね、その魅力、(いや魔力?)を再確認してきました。シリーズ自体はフィクションながらも、物語に登場する場所やロケ地など、実際に足を運べる場所はたくさんあります。ポッタリアン心が踊らされるゆかりの地をいくつか紹介します。
 

キングス・クロス駅

 人間界と魔法界の境界の一つと言えば、キングス・クロス駅。駅の9と4分の3番線でホグワーツ行きの列車に乗れるそうなのですが……4分の3?? 実は9番線の柱に突進していくと、ホグワーツ特急専用のプラットホームにたどり着けるようになっているのです。

 キングス・クロス駅はロンドンの北部にあり、イギリス各地へ電車を送り出すターミナル駅であり、ハリポタファンにとってはもはや聖地。ファンのために9と4分の3番線が設置されているのですが、入場券必須のホームにあるのではなく、人が行き交うコンコースにあります。壁から突き出た荷物カートには、スーツケースとフクロウのケージが。ハンドルに手を添え、走っているポーズをとれば、まさにホグワーツ特急に遅れそうになっている魔法使い見習い! これは早く写真を撮って自慢したいところですが、柱よりも突破しなければいけないものが……そう、テーマパークを彷彿とさせる長蛇の列。しかも隣にはご親切にも「9と4分の3番線ショップ」があり、店員さんが写真を撮ってくれます。マフラーまで貸してくれて、シャッターを切るときに店員さんがマフラーをバっとたなびかせてくれて、とても素敵な演出……、なのですがシャッターを切るタイミングが難しく、店員さんが微妙な角度で写真に入ってしまうのです。上手く撮れるのは店員さんだけ、フレーム付きで売ってくれるということで、写真撮影が終わると、いい感じにショップに誘導されます(笑)。このショップがまた凝っていて、魔法の世界に浸れます。結果、ちょっとお財布の紐は緩くなるかもしれませんが、ファン心をしっかり掴む演出でホグワーツに初めて行くわくわく感を満喫できます。

  • いざ、ホグワーツへ!
  • 映画に登場する杖屋さんを彷彿とさせる、ショップの一角。某新キャラもお目見え。
  • モダンなキングス・クロス駅。隣のセント・パンクラス駅の建築が豪華なので、映画では本家よりも映えるように撮ったのだとか。
 

ケンブリッジ・オックスフォード

 映画で美しく描写されたホグワーツそのものに憧れる方も多いのでは? それならばおすすめはイギリスの古き良き大学。実際に多くの大学が物語で登場する場所のモデルになっていたり、映画のロケ地として使用されていたりと本物のホグワーツが楽しめます。日本でも有名なケンブリッジとオックスフォードも例に漏れず、中世の建築を堪能できる大学都市です。ケンブリッジでは敷地内の荘厳な教会が有名なキングス・カレッジを訪問しました。それぞれの「カレッジ」は学生の住まいであり、図書館や食堂も完備された寮。入場費を取られたりガイドさんがいたりと、思ったより観光地化が進んでいます(実際に住んで勉強している学生さんには騒がしくて申し訳ないですが……)。さすがに見応えがあって、芝生が美しい中庭は中世の建築に囲まれ、今にも箒にまたがった魔法使いの卵たちが飛んできそう。ホグワーツの一年生が汽車を降りて学校に向かう時に湖をボートで渡りますが、ケンブリッジでも街を緩やかに流れるケム川をボートで巡れます。
 オックスフォードでは、何棟も建物のある巨大図書館の一角にある、映画の撮影に使われた部屋を見学しました。ディヴィニティ・スクールというこの部屋、1500年代に設けられた大学最古の教室だとか。「賢者の石」では保健室、「炎のゴブレット」ではダンスの練習場など、何度も映画に登場したこの部屋、ハリポタのロケ地なんだよ!と主張してくる展示がいくつもあり、図書館のみなさんも鼻高々な様子。天井の彫刻が見事なこの部屋で、ダンブルドア校長先生が百味ビーンズを食べたのかと思うとクスッとしてしまいます。
 中世の街並みが今に残る世界最古の大学街。ホグワーツを思い浮かべながら歩いてみるのも乙な楽しみ方です。
  • 今にも箒に乗ったハリーが飛んで行きそうなキングス・カレッジの中庭。
  • 天井のディテールが秀逸な、ディヴィニティ・スクール。ここでマクゴナガル先生が学生たちにダンスを教えました。
  • 初めて登校の坊やたち、はしゃぎすぎ!
 

スタジオ・ツアー

 もともと原作のファンだった私としては、映画では好きな場面がカットされていたり、自分の想像が裏切られたりともやもやしたこともありました。しかし、映画版ハリポタを撮影した映画スタジオを見学したことで、映画版ならではの魅力を発見しました。
 スタジオ・ツアーは大人気で、予約制のチケットは1ヶ月以上前から売り切れ始めます。映画全8作の撮影拠点だったスタジオは、ロンドン郊外、電車やバスを乗り継いでようやく辿り着く場所にあります。入るとさっそくシアターに通され、全ての作品を怒涛の何分かで復習。するとスクリーンが開き……そこには夢にまで見た、ホグワーツのあの部屋が!
 次から次へと現れるお宝の大宝庫。小道具、衣装から部屋のセットそのもの、おまけに魔法生物たちまで勢揃い。CGだと思っていたものの大抵が現物であるのでびっくり。展示だけでなく、実際にボタンを押してセットの中の小道具を動かせたり、特殊効果付きで写真が撮れたり、テーマパーク的な楽しさもあふれています。何よりも巨大なアーカイブを通して、多くの人が技術やアイディアを凝縮させてできた映画シリーズであることに感動させられました。映画を見ている側としては深く考えず映画館の席やソファーにもたれているわけですが、スクリーンの向こうでは、著者ローリングさんの想像力を可視化するために無数の汗と涙が流されているのです。 映画をまた全て観たい、しかも感謝と敬意を持って観たいと思わされる場所でした。
 新たな映画シリーズも始まり、今なお興奮冷めやまない魔法の世界。イギリスは遠いよ、という方もまずは本や映画を読み解き、あらためてその魔力に浸ってみてください。
  • グリフィンドールの談話室では主人公たち(?)がお出迎え。
  • ホグワーツ橋で筆者もパシャリ。
  • ライトアップされ、幻想的なホグワーツの模型。撮影時にはこの模型で部屋の位置の整合性などを確認したそう。
P r o f i l e
任 冬桜(にん・とうおう)
東京大学文学部3年。小学生のとき、小学生なりのつらいことがあると「でもハリー達はもっと大変だから頑張らなくちゃ」と言って自分を励ましていました。今作品を読み返すと、ハリー達の置かれた状況がヤバすぎて鼓舞されるというよりかは大人しくしたらどうよと言いたいところです……。


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