本と猫と人間
卒業生のひとりごと 特集編

特集「どうぶつ」記事一覧

本と猫と人間

 猫はよいものです。もふもふで、ぴょんと伸びたおひげがあって、いつも少し高いところから人間を眺めています。犬もよいものです。ふわふわで、しっぽをパタパタさせて、人間の散歩にも付き合ってくれます。
 人間と一緒に暮らすことの多い猫や犬は、文学作品や漫画にも頻繁に登場しますが、どちらかというと犬よりも猫の方が登場頻度が高いような気がするのは気のせいでしょうか。猫が登場する、あるいは猫が主人公(主猫公?)として活躍する作品はそこそこ読んだことがあるのですが、犬がメインで活躍する物語にはあまり触れた記憶がないのです。……犬の物語が少ないのではなく、単にわたしが知らないだけなのかもしれません。
 今回は「特集」にちなみ、猫が登場する作品をいくつか取り上げたいと思います(もしこれを読んでくださっている方の中に「犬が大活躍するおもしろい作品を知っているよ!」という方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。読んでみたいので)。

猫による猫のための教科書

ポール・ギャリコ〈灰島かり=訳〉
『猫語の教科書』
ちくま文庫/本体580円+税
 実はわたしは、猫が書いた本を読んだことがあるのですよ。そう、『猫語の教科書』(ポール・ギャリコ/ちくま文庫)です。『猫語の教科書』は、猫による猫のための教科書で、当然すべて猫語で書かれています。ですが猫語のままだと人間は読むことができないため、ポール・ギャリコ氏が頑張って読解し人語に翻訳してくれたそうです。ありがたいですね。
 この教科書には「猫が人間の家で人間と共に暮らす際、一体どうしたら快適に過ごすことができるのか」「猫はどのように人間をしつける(!)べきなのか」といったようなことが書かれています。人間と暮らすタイプの猫には、まさに必携の書と言えるでしょう。確かに人間向けの「猫と仲良く快適に暮らす方法」的なハウツー本があるのですから、猫向けのそういう本があったとしても、何も不思議なことではありません。ですよね、全世界の猫の皆様?
 いつか猫になる機会があったら、わたしも『猫語の教科書』の内容を参考にしようと密かに企んでいます。そしてそのあかつきには、人語に翻訳されたものではなく、猫語で書かれたものを読みたいですね。
 

猫の社会もどろどろじめじめ

宮沢賢治
「猫の事務所」
(『新編 銀河鉄道の夜』収録)
新潮文庫/本体430円+税
 言うまでもなく人間の社会はサラリとした手触りでもなければ、からりとした空気でもありません。では、猫はどうでしょうか。「猫の事務所」(宮沢賢治)は、猫のためのよろず相談所といった雰囲気の事務所で、所長と4匹の猫たちが働いています。その中のひとり「かま猫」は、毎晩かまどで眠っているので、身体が煤だらけ。煤だらけで見た目がよろしくないかま猫は、事務所の他の同僚猫たちから「猫の事務所にふさわしくない」と思われ、嫌われています。「異質なもの」を嫌い、それゆえに排除しようとするのは、人間社会でも珍しくありません。自分がかま猫側になってしまうこともあれば、同僚猫側になってしまうこともあるでしょう。当然どちら側にもなりたくありませんが、完全にそこから抜け出すのは「社会」に存在してしまっている以上、残念ながらなかなか難しいものです。
 かま猫が仲間外れにされてしまった猫の事務所は最終的に獅子によって強制解散させられますが、人間社会には獅子はいません。そのため、「あ、ここは猫の事務所っぽいな」と思ったら、自分で早めに脱出するしかないのです。自分がどちら側になりそうだとしても。
 

猫ならざるものとの愉快で奇妙な生活

コットンバレント
『CreepyCat
  猫と私の奇妙な生活1〜3』

星海社コミックス/本体(各)860円+税
 道を歩いているときにすれ違った猫、隣の家の屋根でよく寝ている猫、大学に住み着いていた人馴れしすぎ猫——あの猫たちは、はたして本物の猫だったのでしょうか。もしかしたら、中にはクリーピーキャット(不気味な猫)もいたのかもしれません。 『Creepy Cat 猫と私の奇妙な生活』(コットンバレント/星海社コミックス)は、親戚から譲り受けたお屋敷に引っ越してきたフローラが、不気味だけれど可愛いクリーピーキャットと一緒に生活をすることになる物語です。クリーピーキャットは見た目こそ愛らしいもふもふの猫ですが、口の中から数匹のクリーピーキャットが突然出てきて増殖したり、前触れなく巨大化したり、ハロウィンのお菓子を子どもたちから奪ったりするので、どう考えても普通の猫ではありません。そんな不気味でおさわがせなクリーピーキャットですが、それでもやっぱり可愛いので、フローラは許してしまうのです。「本物の猫なのかどうか」なんて、結局のところ些末な問題なのかもしれませんね。
 わたしも可愛い猫や犬と共に暮らしてみたいなと思いますが、アレルギー体質なので現実的には難しそうです。けれど、猫のようで猫ではないクリーピーキャットとなら、あるいは、一緒に生活ができるかもしれません。それはそれで、巨大化したクリーピーキャットにうっかり食べられてしまったり、身体がうにょーんと伸びたクリーピーキャットに絞められてしまわないように、気をつけなければいけなくなりそうですけれど。
 
P r o f i l e
門脇 みなみ(かどわき・みなみ)
いずみ卒業生。猫になりたいけれど猫は猫でそれなりに大変そうなので、どうしようかなあと悩んでいます。

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