BOOK REVIEW
『ブルーサーマル』(小沢かな/新潮社バンチコミックス)

特集「全力チャレンジ! 大学生活」記事一覧

 

青の世界に居場所を求めて

 

『ブルーサーマル』
小沢かな 著
新潮社バンチコミックス
定価①〜④(各)682円(税込)
  ⑤704円(税込)
FIRST FLIGHT 682円(税込)

 こんなにも部活に命をかける大学生は見たことがない。小さなドライバーを一つなくしただけで仲間が死ぬかもしれない。こんなリスクを背負っても一面の青に魅せられた主人公「都留たまき」改め、「つるたま」はグライダー競技全国制覇を目指す。
「恋がしたい! 体育会系の部活とは決別する!」と鼻息荒く入学した「つるたま」は、偶然にも青凪大学体育会航空部の1500万円もするグライダーの翼を壊してしまったことがきっかけで、脅されるようにこの航空部に入部する。「つるたま」のキャンパスライフはお先真っ暗……かと思いきや、グライダー界の「超天才」、部長の倉持の操縦に魅せられて、青の世界に染められていく。春に大学を去る身である私からすると、一年生でこんな運命の出会いができた「つるたま」が羨ましい。

 明るくて頑張り屋な「つるたま」だが、両親の離婚が原因で生き別れになっていた姉と父との悲しい過去を背負っている。新人戦がきっかけで、姉と再会し、姉妹で同じグライダーに乗り、地上から400メートルも離れた場所で、誰にも邪魔されず、お互いの思いを打ち明けるところは胸が熱くなる。「つるたま」は、優秀な姉のように自分の存在を認められたい思いから一番を目指し、そのひたむきな姿が部活の仲間を勇気づけていたのだった。「つるたま」は「ブルーサーマル」と呼ばれる目に見えない上昇気流を掴む才能があるのだが、それはただ運動神経がいいからという理由では説明できない。果てしない空から「ブルーサーマル」を見つけて、ぐるぐると旋回しながら上昇していく様子は、自分の居場所を見つけてのびのびと飛んでいる鳥のようである。どんな過去を背負った者も受け入れる青い空は、時に冷酷で死の世界にもつながる。そんな世界にも、謙虚に誠実であろうとする大学生の姿に勇気づけられない人はいないだろう。


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