わが大学の先生と語る
「対話で知る学び方」横田 明美(千葉大学)

対話で知る学び方 インタビュー

 横田先生の推薦図書


P r o f i l e

横田 明美 (よこた・あけみ)
1983年生まれ、千葉県出身。
千葉大学大学院社会科学研究院 准教授。
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(博士<法学>)。
2012年(一社)行政管理研究センター研究員、2013年千葉大学法経学部准教授、2014年同法政経学部准教授を経て、2017年より現職。
専門は行政法・環境法・情報法。

■著書
主な著書に『義務付け訴訟の機能』(弘文堂、2017年)、『シン・ゴジラ 政府自衛隊事態対処研究』(共著 ホビージャパン、2017年)、『カフェパウゼで法学を 対話で見つける〈学び方〉』(弘文堂、2018年)、『ロボット・AIと法』(共著 有斐閣、2018年)、『法学学習Q&A』(共著 有斐閣、2019年)。
  • 竹内 謙太郎
    (法政経学部4年)
  • 笠原 光祐
    (法政経学部3年)

 

1.分野をつなぐ

横田
 ようこそお越しいただきました。とりあえずコーヒーをどうぞ。

竹内・笠原
 ありがとうございます。

笠原
 では研究の道に入られたきっかけを教えてください。


横田
 私の専門は「行政法」といいまして、法律科目の中でも行政と法律の関係をやっている学問です。なぜ研究者になったかというと、大学で行政法の授業が難しかったので、ゼミに入りいろいろやっているうちに楽しくなってきたというところが一番大きいです。生活と行政がすごく密着していることもあり、行政法は、ほとんどすべての分野に接点があるんです。ですから「これをやればなんでもできる、どこへでも行けるな」と思いましたし、行政法の事件は内容自体がけっこう面白いのでどんどんハマっていきました。

竹内
 当初の研究テーマを超えて、今では環境法や情報法も研究されているそうですが、そのきっかけは何ですか。

横田
 まず、最初の研究テーマは行政法の中でも特に訴訟法に興味がありました。ちょうど私が学部3年生のときは行政事件訴訟法が改正になったばかりの頃で、手つかずの問題が多かったのです。授業中よく分からなかったところをノートに書いていたら、それが後に博士論文の研究テーマになってしまったというのが実際のところなんです。
 ではその後の研究はどうするのかという話ですが、元々私はいろいろな分野をつなぐのが好きで、様々な研究会に顔を出していました。そんな中で「ある分野の人だと当たり前のことが、他の分野では当たり前ではない」ということがけっこうあるなと薄々気づいていたので、環境法と消費者法と情報法を一緒にやったら面白いのではないかと閃きました。元々「環境法と消費者法は個人それぞれの被害(個別的利益)だけではなく、みんなが薄く広く困っている(拡散的利益)という状況に対応している」と思っており、学部生のころから興味があったんですね。ということで若い研究者向けの科研費に応募したら申請が通りました。そこで、更に研究を進めると、ロボットやAIに関連する問題についても、両分野からのアプローチで進められると気づいたんですね。

竹内
 内容的には情報法でもありますね。情報法の研究は、どういった経緯からですか。

横田
 元々私は「ブログを書いていたら研究者になった」という経緯なので、インターネットの世界でコミュニティーをつくったり、いろいろものを書いたり、発信したりすることも好きなんです。自然と、情報法政策についての仲間もできまして、この5年間ぐらいは情報ネットワーク法学会であるとか、最近では情報法制学会に入りました。AIと行政法の関係について、環境法のリスク管理手法を、消費者行政的な意味で行政法研究者としても生かせないか、という観点から考えていますが、その議論を聞いてくれる情報法政策研究者の皆さんが居てくれることがとても心強いです。

 

 

2.やり方探しの伴走者

笠原
 最近大学生向けのご著書『カフェパウゼで法学を』(弘文堂)が出版されましたが、どの様な思いを込めて書かれましたか。


横田
 実はこれは2つのブログが合わさった本なんです。1つは学び方やレポート、卒論といった学生全般の悩みは社会人になっても使える知恵につながっているという視点から書いた対談形式もの。もう一つは、出版社の方から専門分野を限定して「法学部生向け」にも書いてもらえませんかという依頼があって叙述式で書いたもの。2つのブログの内容と表現形式を合わせた本が『カフェパウゼで法学を』なのです。今回まとめるにあたって、飛ばし読みでも全体を把握することができるし、じっくり項目ごとに一個ずつ読んでもいけるように丁寧な記述になっているという、何層にも読めるような本を心掛けました。



竹内
 元々対象層が少し異なるブログを本として大学生向けに内容を寄せた際には、どういった工夫をされましたか。

横田
 元々どちらも大学生向けではあるんですね。ただ意図的に、高校生が読んでも社会人が読んでも納得するようなつくりにしています。さらに、梅棹忠夫『知的生産の技術』(岩波新書)という名著のように、知的な情報の取り扱い方や生み出し方が書いてある本を目指しています。

笠原
 この本は、特にどのような学生に読んで欲しいですか。

横田
 書店では「法学入門」の棚に置いていただくことが多いのですが、千葉大生協書籍部には「卒論・レポート作成技術」の棚にも置いて下さいと頼みました。実は、本書は全体を通して読むと、「どうやって自分の考えをアウトプットするのか」ということをトレーニングするための本なのです。〈発想・整想・成果物〉という手順や、〈書き手目線〉と〈読み手目線〉の往復という考え方は、分野を超えて活用していただけると思います。
 法学との関係では、いままでの法学教育って「答案作成の技法をあまり教えて来なかった」とよく言われますね。私自身、学部3年生頃まで、手探り状態で成績不振でした。この本は自分で学び方を見つけていくための補助輪として、あるいはアウトプットのための伴走者として、「こういうやり方もあるよ」というのを示すために書きました。この考えは近刊『法学学習Q&A』(有斐閣)にも引き継がれていて、自分のやり方を見つけるために、「やり方や答えは色々あるから一緒に考えよう」というスタンスで、小谷昌子先生、堀田周吾先生とともに書きました。答案作成過程についても書きましたので、合わせてお読みください。

 

 

3.本棚を育て合う

竹内
 今だったらこの『カフェパウゼで法学を』に付け足してみたいトピックスはありますか。

横田
 「自分の本棚を育てよう」という項目ですね。この研究室の本棚の一つは貸出用です。しかも、貸し出すときに自分の付箋を付けながら読むように勧めていて、その付箋を付けたまま返却する仕組みにしています(図書館等ではダメですよ)。次に手に取る人は、どこがオススメの箇所なのかわかります。一種のソーシャルリーディングですね。ぜひこの『izumi』をご覧の皆さんも本を紹介し合ったり、貸し合ったりするような友人を作ってください。「自分がこういう本棚を育てているんだけれどあなたはどう?」と聞いてみると楽しくなると思います。
 貸出用本棚には新書や文庫を少し多めに並べています。これは、読む習慣を付けた上で、学生には学割が効いているうちにどんどん本を買って欲しいからなんです。1週間に一冊本を買うだけでもそれを4年間やったら、けっこうな数になりますよね。
 買うときも例えば同じテーマについて全然違う立場や主張の人の本を選んでみるなど、本を多角的に読む。あるいは同じテーマでも時代や場所が違う人の本を読むと、その世代を越えても共通するような要素の発見や、自分にしっくり来る本との出会いになるでしょう。3冊新書・文庫を買ったら1冊普通の本を買うみたいなペースで買うと楽しいですね。

笠原
 そうやって本棚を育てるのですね。

横田
 この研究室の本棚は、いくつかの可能性や選択肢を提示することによって、自分で学び方を考えるための本棚にしようと思ってやっています。またインターネットの情報収集については、「フィルターバブル」という自分の好きな情報ばかり入ってしまう傾向が問題視されています。本屋さんとか図書館とかあるいは友人のお薦めやフォローしているフォロワーさんお薦めなど、自分とは少し共通点はあるけれど違う角度の人から教えてもらって本を読むという習慣付けは、自分の世界を広げることにもなりますよね。

竹内
 最近話題の情報法のネタですね。

横田
 やはりこれからインターネットを使って好きに楽しくやっていくためには必要なリテラシーですから。今後はその社会が触れている情報の違いによって分断されていく怖さに気をつけなければいけません。分断を防ぐためには、能動的・意識的な情報収集が必要になります。本の読み方も、構造的に読んだり、意図を持って飛ばし読みしたり、没入して読んだり、色々な読み方があります。実はこの『カフェパウゼで法学を』でも冒頭で読み方を提案したり、コラムでそういう本の読み方についての本を紹介したりしています。本書自体がブックガイドにもなっていますよ。

 

 

4.Try & Share を

笠原
 最後に大学生に向けてメッセージをお願いします。

横田
 大学の先生や大学の設備、そして友だちを「使い倒して」ください。学生の間は、学生だというだけで話を聞いてもらえたり、研究書や資料に気軽にアクセスできたり、色々なことにチャレンジできる大事な時間です。ただ、その分「やばくなったら引き返す」という勇気を持ってください。いろいろなことにチャレンジして、それのいいものを人にシェアできるような過ごし方をしてもらえればなと思います。友人に教えるというのも立派なシェアで、アウトプットの一つですよ。あともう一つだけ。今の世界は勉強と遊び、オフィシャルとプライベートは全部つながっています。だから学習で面白かったことをプライベートに生かしてもいいし、プライベートで面白かったことを学習に持っていってもいいわけです。逆にプライベートだなと思ってシェアしても、いつの間にか公開されているということも。これは今の時代の空気だし、いままでの時代の人にはあまり理解されないかもしれません。その切りわけやつなぎ方も一つ一つ学ぶと摩擦も少なく、自分の場所がつくれるような人生が送れていいんじゃないかなと思います。仲間うちのノリだけで理解されようと思っちゃうといけないし……。とはいえ堅苦しいことだけやってもつまらないから、どっちにも言い訳が効くような人生を歩んでいただければと思います。

竹内・笠原
 本日はありがとうございました。
 
(収録日:2018年12月25日)

 


対談を終えて

 元ゼミ生で、現在も研究室を時々訪れますが、先生がどういった経緯で研究に入り、どう自分の分野を広げていったのか等をインタビューするのは新鮮でした。インタビューでは話がかなり盛り上がり、カフェパウゼ本の話、読書の話、先生のご専門に絡めた情報法の話、と話題が尽きなかったというのはさすがだと思いました。また改めて勉強になったことも多く、今回の企画に参加出来たことを嬉しく思いました。
(竹内謙太郎)
 

 この講義は今まで受けた法律科目とは何かが違う。そう感じた講義が横田先生の行政法の講義でした。そんな先生との対談は白熱し、また自分の学び方や本の読み方について改めて考えさせられました。研究室を学生に向けて広く開放しており、学生の近くで一緒に考え、指導してくださる先生ならではのアドバイスも多数いただけたと思います。紹介できたお話はごく一部ですが、先生の圧倒的な熱意を少しでもお伝えできていれば幸いです。

(笠原光祐)

 

コラム

SNSは世界に開いた自分用の窓
大学教員の仕事とは
新書多読のすすめ

SNSは世界に開いた自分用の窓

笠原
 SNSとの付き合い方について大学生にアドバイスがあればお願いします。

横田
 SNSの使い方で一番気をつけてほしいことは、見られている範囲を過剰に意識しても、過少に意識してもだめということですね。例えば、いわゆる「バカッター」……公開されているTwitterにおいて本当は何か犯罪に該当したり、人を傷つけたりしかねない投稿をするというアレです。それが今の時代だと一種のスティグマ、消えない痕跡として残ってしまうわけです。それは多分今の皆さんのように若い人の方が感覚的に分かっていると思います。それを防ぐにはどうしたらいいかというと、公の場所で人を無闇に傷つけたりしないようなふるまいを心掛けることです。でもこれは別にリアルもネットも一緒なんですよね。他方でそれに気を使い過ぎて全然投稿しない、見ているだけの人になるというのはもったいない。自分が好きなコンテンツを薦め続ける、良い情報をシェアし続けるというのも立派な情報発信ですから。自分では特に発信せずリツイートするだけのアカウントだったとしても、溜まっていくとあなたの関心を示す一つの情報の束になるわけです。それに対してちょっとコメントをしてみるというところから始めてみれば、「長いブログ私には書けないよ」という人にとってはお手頃ですし、実は書名とちょっとした感想をつぶやくだけでも、いまの著者や編集者はエゴサーチをいっぱいしていますので、こんな読み方があるんだとか、こういう意味で届いたのかと分かってにこにこするわけです。ですからなにも怖いことはなくて、自分の興味・関心を見つけたり共有したりするために使う……これをまとめて言うと「SNSは世界に開いた自分用の窓」だという表現をしているんですけど、窓をどこまで開けているのかとか、あるいはどういうふうな人に向けてやっているのかというのが分かれば使い方も変わってくると思います。色々なやり方があると思うのですが、そういう自分をプロデュースできるいい機会だと思うので、そう思って使ってもらえばいいんじゃないですかね。

 

大学教員の仕事とは

笠原
 先生は普段どのようなお仕事をしていらっしゃるのですか。

横田
 大学の先生が大学で授業を教えるだけ、学生と話をするだけだと思ったら大間違いなんです。研究もしていますがそれ以外のこともたくさんあります。皆さんも進路を考えるときに「職業名」だけで考えないようにしてください。組織の名前で仕事をしているのか、個人の名前で仕事をしているのか、が結構重要です。例えば弁護士でも法律事務所の名前での仕事と、個人の名前で仕事では結構違うんです。研究者もそうで、「千葉大学」の組織として仕事をしている場面もあるし、「横田明美」という名前で仕事をしていることも。しかも、その仕事の仕方も、義務付け訴訟の専門家としての個人として出ているときもあれば、食べ物に詳しい行政法の先生として厚生労働省の会議に出ているときもあり、かと思えば本の寄稿やイベントで講演を依頼されることもあるんです。何か千葉大学という母屋を貸してもらっている個人事業主のような側面が非常に強くて、両方の評判や実力の維持に努めないといけなくて……めちゃくちゃ忙しいですね。ただ、学生とこうやって話ができる機会は非常に貴重で、また早めに相談してもらうほうが精神衛生上も助かるので、気軽に来ていただけるような雰囲気にしています。

 

新書多読のすすめ

横田
 竹内さんは私のゼミで報告をしましたね、テーマは何でしたっけ。

竹内
 僕はプロファイリング規制です。

横田
 AIが人間のデータを収集して分析し、その結果から「先回りしておすすめ」するような社会になってきたときに、どんな困り事が起こるのか、という話ですね。調べていたら、ゼミ報告後に新書が出ましたね(後掲・山本龍彦『おそろしいビッグデータ』)。竹内さんが調べた時点では、どの教科書にも載っていませんでした。なぜかというとまだ研究者たちが言い始めたレベルだからです。新書ではそれをまさにその分野の専門家が一般の人向けに書いているんです。学生に「ネットだけでなく、新書と文庫をいろいろ読んでください」と勧めているのは、きちんと編集された書籍であれば、コンテンツをきちんとつくるために、編集会議にかけているはずだからです。手をかけて発信するとそれだけでコンテンツの質が上がるんですね。もちろん、あまり手が掛けられていない本や煽っている本もありますが、注意深く読めば本の構成から見抜けるでしょう。例えば帯や目次、奥付や参考文献などから全体の構成を大つかみでみたうえで、この本が自分で読みたい本かどうかや、適切な見出しが付いているか、反論に耐えるつくりかどうかというのがわかるようになるまでたくさん読みましょう。そうすれば、ものすごい勢いで書く方の能力も上がると思います。

 

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