いずみ委員の 読書日記 159号


レギュラー企画『読書のいずみ』委員の読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 愛媛大学3回生 河本捷太 
    M O R E
  • 千葉大学4年 笠原光祐 
    M O R E
  • 東京大学大学院M1 任冬桜 
    M O R E
  • 奈良女子大学 北岸靖子 
    M O R E
  • 早稲田大学卒業生 田中美里 
    M O R E

 

 

愛媛大学3回生 河本捷太

4月X日

 今日はバイト先の本屋で本を見ていた。以前その店のコーナーで特集されていた際に買った米澤穂信さんの小説『儚い羊たちの祝宴』(新潮文庫)にドハマりしたので、次に読む米澤さんの本を探していたのだ。その後私はタイトルをどこかで聞いたことがあった『満願』(新潮文庫)を読んでみることにした。結果的に『満願』は『儚い羊たちの祝宴』と並んで自分のなかで大当たりだった。正直に言うと、僕は古典文学なら読むけど、最近の小説はあまり読まない。なぜなら、僕は本を買う派で、小説を読むのがそこまで得意じゃないので、自然と小説よりも新書や専門書、ビジネス書を買って読むことのほうが多い。だからこそ今回ドハマりできる小説に出合えたことはかなり嬉しいことだった。『満願』は6つのミステリーが入った短編集である。この小説のいいところは、人間の黒いドロドロした部分が描かれていて、トリックの回収がされるときに思わずゾッとしてしまうところだ。実際読んでいると、危うく気分が悪くなりかけるほどだった(笑)。これほど文章表現が巧みで、ここまで感情を揺さぶられるようなミステリーは初めて読んだ。これは米澤さんの他の作品も読まねば。早速本屋へ行ってこよう。
 

4月Y日

 ようやくこの本を読み終わる日が来た。『タイムマシン』(ウェルズ〈池 央耿=訳〉/光文社古典新訳文庫)を読み終えたのだ。僕は積ん読を考えずに、そのときに読みたい本、もしくは読まなければならないと思った本を買ってしまうことが多い。そのため積ん読が僕のなかで大きな問題となっており、知り合いの方に薦められて買ったこの『タイムマシン』も、その積ん読本の中の一冊だ。『タイムマシン』はSFの中でもかなり古く、元祖的な作品らしく、SFのお薦めを聞いたらこの名前が挙がった。物語の内容は、タイトル通り、タイムマシンを発明したタイム・トラヴェラーが時空を超える話なのだが、ただ「時空を超えた先はこんな世界でこんなことが起こったよ」だけではなくて、タイム・トラヴェラーが「その世界はどうしてそのような世界になったのか」とか「そこに住む人類はどうしてこのような生活をしているのか」などを考察するシーンがとても興味深いのだ。SFの良さは面白いところに加えて、例えば「現代の科学技術の発達に対する警鐘」みたいに、何か考えさせられるところだと思う。僕の積ん読本の中にはSF作品がまだ他にも何冊かあるので、減っては増える積ん読の山から少しずつ読んでいくことにしよう。
 
 
 

 

千葉大学4年 笠原光祐

4月7日

 地元の図書館で10年前の私に会った。「これが10年後のぼくか。あんまり大人っぽくないね」
余計なお世話である。そう思っていると“ぼく” は1冊の本を渡してきた。
 これは『ダ・ヴィンチ・コード 上』(ダン・ブラウン〈越前敏弥=訳〉/角川文庫)か。
「よくわからないところもあったけどすごくおもしろかったよ」
 懐かしい記憶が蘇る。小学6年生の時の担任は学級文庫としていろいろな本を読ませてくれた。確かにこの本は小学生にはかなり難しかった。それでも西洋名画を巡る怒涛の展開と壮大な謎解きにワクワクして、最後まで読破してしまえるほどの魅力があった。鳥肌が立つほどの迫力が物語に真実味を与え、怖くなるほど面白かった。良い機会なので改めてラングドン教授シリーズに挑戦しよう。
 
 

4月19日

 今日は久しぶりに本屋を訪れている。私にとってのテーマパーク、その文庫コーナーにまたしてもあの頃の私がいた。
「ぼくのおすすめは『ゴールデンスランバー』(伊坂幸太郎/新潮文庫)だよ」
とぼくは自信満々にその本を指さした。
 これも当時の学級文庫で読んだ、首相暗殺の濡れ衣を着せられた青年の逃走劇を描いた作品である。自分はやっていないのにどうにもできないという追い詰められた状況は、小学生だった私にはとても恐ろしく感じられた。また、パズルのピースが美しくはまっていくように物語が進む様子や最後のほんのりとした温かさに感動したものである。間違いなくこの本は名作だ。
 

4月24日

 天気が悪いのでお昼寝でもしようかと思った私の耳に、いまや聞き慣れた声が届く。
「ねえねえこの本とっておいてくれたんだ」
そういってぼくが取り出したのは有川浩の『海の底』(角川文庫)。
 この本は、初めて自分のお小遣いで買った本である。謎の生物との戦いに目を輝かせながら読んだものだ。また、取り残された潜水艦内の子供たちの少し歪んだ人間関係を見て、自分は友達に恵まれていたと気が付いたりもした。今読み返すと、各所に散りばめられた対立と協力の鮮やかなコントラストに感嘆するばかりだ。当時の興奮は、最近発掘した小学生の頃の読書記録ノートからもわかる。
 この本の「おもしろかった」だけ太字になっているのだ。
 
 
 

 

東京大学大学院M1 任冬桜

桜が散りはじめた日

 旅先で体調を崩すという経験をした。海外で屋台メシを食べたわけではない。卒業旅行先の京都で、である。言葉も通じるし、友人もいたが、慣れない土地ではやはり心細かった。
 高校生のとき読んでいい意味で衝撃を受けた作品に「おかあさーん!」がある(『デッドエンドの思い出』(よしもとばなな/文春文庫))。主人公は毒入りカレー事件の被害者になってしまう。本人は気丈に振舞うが、心と体がかみ合っていない状態が続く、という話だ。一年に一回は読み返すのだが、年を重ねるとともに、読んだ時の感想も変わってきている。
 主人公は事件がきっかけで、同僚・母親・恋人といった、まわりの人びととの関係を捉えなおし始める。「死ぬかもしれなかった」経験は、日常のかけがえのなさを浮き彫りにする。そういえば私も、心配してくれた友人たちや、這って帰った私を看病してくれた家族との関係性、考えさせられたなぁ。
 私の病気は、時の人になるなんていうレベルの事件ではない。それでも、まわりの人びととの関係を再認識させられた点では、毒入りカレー事件に通じるものがあるのかもしれない。今までそういう読み方をしたことがなかったので、病気もいい仕事してくれたのかも。とにかく、この作品との思い出が増えて、ちょっと嬉しい。来年もまたよろしくね。
 
 

新緑が眩しい日

 修士課程に入り、授業と課題に追われている。謎の生命体として知られる文系院生の日々もなかなか過酷なのだ。
 ましてや読書のためにわざわざ時間を取ることなどできない。それでも、鞄に一冊の小説を忍ばせれば、通学中くらいは本の世界に没頭できる。
 今日入れてきたのは、『友情』(武者小路実篤/新潮文庫)。薄くて、積ん読してあった。それだけの理由で選抜入りである。なになに、主人公の野島くんは友達の妹のことが好きで、ほとんど崇拝状態である。しかし、女の子は美人すぎるのか、気付いたら恋敵だらけだ。本人の勘違いも激しく、うむ、非常に痛い。 
 貪るように読んでふと顔を上げると、なんと、もう最寄り駅である。逃げ帰るようにして帰宅し続きを読む、そんな面白くて痛くて若い小説だった。ネタバレでもなんでもなく、「大失恋小説」と裏表紙にも書かれているくらいだから、失恋する話である。恋とは1人の力ではどうしようもできないものだなぁ、とよくわからない目線で変にコメントし出す自分のノリも相まって、楽しい読書体験だった。日々の疲れもちょっと忘れられたかも。忙しい時こそ小説だ。
 
 

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