学生のこころとからだの健康を考える

岐阜大学発~新型コロナ後の「ありたい学生の姿」につなげるために~

「ストップ新型コロナ2週間作戦(岐阜県)」の学校への臨時休業要請を受け、岐阜大学は令和2年4月6日から6月3日まで学校閉鎖措置を実施しました。

その後、対面授業が再開されましたが、マスクの常時着用や三密の回避など、キャンパス内では緊張度の高い健康行動の遵守を強いられています。100年に一度といわれるパンデミックの状況下で生活や学習環境が大きく変化した学生の間に戸惑いや強い不安感が広がりました。

編集部では令和3年3月、同大学保健管理センターで行政との連携やオンラインでのメンタルヘルス相談等を通じて学生の健康をサポートされているお二人の先生方に取材し、コロナ後の大学と学生へのメッセージを頂きました。

学生の「人間力」を培う健康教育を

岐阜大学 保健管理センター長
(教授・内科医・産業医)山本 眞由美

岐阜大学の新型コロナウイルス感染症予防対策の特徴

岐阜大学 保健管理センター長(教授・内科医・産業医)山本 眞由美 先生
岐阜大学
保健管理センター長
(教授・内科医・産業医)
山本 眞由美 先生

本学の感染症対策の大きな特徴は、内科医でもある本学学長が「正しく理解し正しく恐れながら正しい感染対策をとり、最大限の教育の質を維持する」という理念を打ち出し、全教職員が一丸となってこの方向に沿って動いたことにあります。保健管理センターもこの理念に従い、教育現場の安全・安心を守るという使命に尽力し続けています。岐阜県で唯一医学部および附属病院を持つ本学の保健管理センターと岐阜市保健所は太いパイプを持ち、特に感染症対策では情報を共有して協働しています。新型コロナに限らず、結核や食中毒が発生したときも同様です。日頃から保健所との情報共有がしっかりできているのは地方ならではといえるかもしれません。

また、学長と私ども現場の人間との距離が近かったことは、感染症予防対策の機動力につながったと思います。

コロナ禍での保健管理センターの動き

感染症体策では当然のことですが、感染症関連情報を保健管理センターに集約することの徹底を行いました。発熱や体調変化のあった学生・教職員、あるいは報告を受けた学務・総務担当者から保健管理センターに情報が集まってきます。これを俯瞰することで、感染のつながりが見えることがあります。

一見つながりがないようでも、アルバイト先やサークル活動の接点が見えてきたこともあります。一方、発熱した学生の相談には個別に対応し、発熱外来やPCR検査など適切な医療機関への手配もいたしました。外国人留学生の場合は、受診の段取りがわからないケースも考慮し、クリニックの先生と直接連絡を取り合い、十分に説明をして行かせました。

新型コロナウイルス感染者の濃厚接触者となり一人暮らしで自宅待機中の学生には、保健管理センターからも体調確認をしました。一人で気持ちが滅入っていないかも併せて確認できました。このような感染情報の管理と感染者への寄り添いは、新型コロナウイルスに限らず、インフルエンザなど「学校において予防すべき感染症」全てに日頃より実施してきたもので、日頃の業務体制は間違っていなかったと確認できてよかったと思っています。

秋学期開始前の令和3年9月24日には、「岐阜大学における新型コロナウイルス感染対策について」という文章をHP上にアップし、各部局にも配布しました。この中では、感染しても無症状のままウイルスを拡散させてしまう可能性のあるという新型コロナウイルスの性質を正しく理解すれば、誰しもがウイルスを持っている可能性がある前提で、マスク着用、手洗い、三密回避と正しく予防する行動ができるはずだと説明しています。このような科学的根拠に基づいて正しい健康行動をとる自己健康管理能力を養う健康教育も、保健管理センターの役割と自覚しています。

after コロナの大学生活のために

この自己健康管理能力はafterコロナにおいても重要と考えます。科学的根拠に基づき冷静に考えて物事を判断する能力です。そして、その決断を一生懸命やるという「人間力」です。
大学で身につけるべき最も重要な能力のひとつだと思います。

この人間力教育のために大学がすべきことは、コーチングスタッフの充実です。学生に寄り添い、時には人生の先輩として支援し、時には友人の様に伴走してくれる人材の養成がafterコロナにおける大学の課題だと思います。

『2021 大学生の健康ナビ』
キャンパスライフの健康管理

『2021 大学生の健康ナビ』キャンパスライフの健康管理

『2021 大学生の健康ナビ』
キャンパスライフの健康管理

2021年4月発行

企  画:
岐阜県大学保健管理研究会
監  修:
山本眞由美
発  行:
株式会社 岐阜新聞社
編集制作:
岐阜新聞情報センター 出版室

本書は大学生が生涯にわたっての自己健康管理能力を身に付けるうえで一助になることを願い、1998年に岐阜県大学保健管理研究会が発刊しました。その後毎年改訂を重ね、2015年版からは大学生のこころの問題に関係する内容を大幅に拡充して、現代の学生生活に一層適した内容になりました。

好ましい生活習慣は将来の病気を予防するだけでなく、人生の満足度や生活の質も向上させることにつながります。健康に生きる知恵の蓄積は、自己健康管理能力を磨いていく人間力の成長過程と言っても過言ではありません。ひとりひとりの学生さんが、生涯の健康を維持するために健康に生きる知恵を身に付ける際に役立ててもらえることを願っています。

オンライン メンタルヘルス相談で見えてきたもの

岐阜大学 保健管理センター
(教授・精神科医・産業医)西尾 彰泰

分断され、不安を分かち合えない学生

岐阜大学 保健管理センター(教授・精神科医・産業医)西尾 彰泰 先生
岐阜大学
保健管理センター
(教授・精神科医・産業医)
西尾 彰泰 先生

本学保健管理センターでは、昨年4月という比較的早い時期からオンラインでこころの相談を受付け始めました。

4月当初、大学が閉鎖され自宅にこもっていると世界中の悲惨なニュースが流れ、それに過敏に反応して悲観的になった学生が多く見受けられました。

5月の連休明けからオンライン授業が始まり、出席代わりに毎日全科目課題が出ます。連日自宅で何時間もレポートを書いていると疲れてしまい、気を抜くとどんどん課題が積み重なっていく。1年生はレポートに慣れていません。人と照らし合わせることができず不安なので、全ての課題に全力投球します。日本に渡航できず現地に留まっている留学生にもオンラインで課題が届きますが、日本型のレポートが分からず困り果てているという相談もありました。

6月には一部で対面授業が復活し、続いて前期試験が行われました。1年生にとっては初めてのテストで、通常なら友達に相談したりサークルの先輩に過去問をもらったりできるのですが、それができない学生もいます。人間関係を結ぶのが苦手な学生は、今更サークルに入ったり友達をつくったりすることもできず、ますます孤立していきます。

単位の認定が出る9月以降は、単位をたくさん落とした人の相談が次々に来ます。オンライン授業ではそういう学生の発見が遅れ、センターに相談された時点で卒業が危うい、リカバリーが難しいという案件もあります。例年春休みはメンタル相談に関してさほど多くないのですが、今年は留年が決まった人の相談を今でも受けています。

学生と同じ立場に身を置いてみて

4~5月の2カ月間、私も学生同様自宅に引きこもって仕事をしましたが、感染が蔓延したニュースを見るのは非常につらく、精神状態を維持するのが大変でした。そこで昼間パソコンに向かうのは不健康だと思い、自宅周りを散歩したり近くの山に登ったりして心身の健康に努めました。夜にも診察時間を設けると、学生は昼夜都合のいい時間に相談してきます。そんなとき、昼間の運動の効用を、身をもって学生に伝えられるわけです。

本学は岐阜県・愛知県出身者がほとんどで、国立大学としては自宅生率が高い大学です。下宿生でも実家が岐阜・愛知にある人が多く、他大学に比べ完全に下宿に引きこもりという人が少なくて、それがうまく作用した学生、親と一緒にいるのを苦痛に感じた学生、さまざまであったと思います。

after コロナに大学・学生に望むこと

今年度、例年以上に1年生から学習相談を受けて分かったのは、教科書や課題とうまくリンクしていない講義が多いということです。多くの講義は、ある程度大学に来させてみんなで相談して解決することを前提に組み立てられており、独学で習得できる仕組みになっていないと感じました。中には理不尽と思われる難問もあります。学生がそれを見ながら学習すると課題が解けるような、講義内容と関係性のある教材を用いて授業を構築していただきたい。リモートに限らず、学生は一人で勉強しています。先生方には、友達と相談し、過去問を見ながら勉強する人たちだけではないということを考慮して、講義や課題を考えていただきたいと思います。

コロナ世代と言われる今の学生は、さまざまなアプリやソフトを使って新しい勉強や仕事の仕方を模索し、今までとは全然違う経験をしてきました。ただ社会に出たときに、コロナ後のハイブリッドな働き方に全然適応していない企業はいくらでもあることでしょう。でも、そこで落胆しないでください。この災禍を乗り越えた人は、何も適応しないとかする態度を見せない会社と、そこで変化を遂げていく会社とを見比べられると思います。そういう眼を養い、その目線で会社や社会を評価してほしいと願います。

インタビュー取材内容を、ノーカットで掲載しておりますのでご覧ください。

岐阜大学発:Withコロナの学生生活のこころとからだの健康を考える