【特集】「これからの学生生活をともに考え、見守る研究会」が目指すこと

特集 TOP明日につながる、大学生協の「住まい維新」。

新型コロナウイルスはもはや収まったのか、まだまだ油断できないものなのか。
先が見えるようで見えない世の中で、学生たちの生活はこれからどうなっていくのでしょうか。

そして、学生生活の今とこれからのために、私たちに何ができるのでしょうか。
学生の今に寄り添い、明日への希望を模索する。

それこそが「これからの学生生活をともに考え、見守る研究会」が目指すことです。
2022年4月に第1回の研究会が開催されてからはや4回の開催を数える研究会を特集し、その活動と参加された皆さんの思いをご紹介します。

私たちはこれから、学生たちをどう見守っていくべきなのか。

コロナ禍に置かれた学生たちの意識

コロナ禍の真っただ中、大学生協が初めて行った2020年夏の学生アンケートでは、当時の1年生が「大学入学後にできた友達は何人いますか?」という問いに「0人」と答えた人が約28%という衝撃的な数字となりました。彼らが3年生になった現在では、その値が4.8%と改善していますが、それでも他の学年と比べると少ないと言わざるを得ません。学生生活の充実度やメンタルヘルスへの不安、就職活動への不安といったその他の質問項目についても、おおむね傾向は同じ。

2022年に入ってようやくコロナ禍は落ち着いてきましたが、本当のところはどうなのか。そして、大学は、私たち大学生協は、学生たちの今とこれからにどう向き合っていけば良いのか。「これからの学生生活をともに考え、見守る研究会」は、大学教員、学生、大学生協スタッフのこうした思いから発足しました。

研究会設立の目的や意義、目指すべき方向

2021年に好評のうちに開催された「全国大学生サミット」。「これからの学生生活をともに考え、見守る研究会」はこの成果を踏まえて、今のコロナ禍の学生生活を継続的に見守ることを通じて、コロナ禍後も視野に入れた「学生生活の充実」を支援することを目的に設立されました。研究会では学生の困りごと・悩みごと、頑張りや活躍、また学生生活でこれから実現したいことなどを参加者と共有することで、学生生活の現状認識を深めることにつなげています。

大学生協としては、事業と組織を通じた学生の困りごとや悩みごとの解決や、学生の願いや希望の実現可能性などを検討すると共に、この研究会での成果をさらに広く大学関係者や社会に発信し、学生の現状と今後について問題提起を行い、協力して取り組めることを模索します。

第4回までの研究会開催を経て

2022年4月に第1回が開催され、12月までに計4回の研究会が執り行われました。基本的に毎回設定されるテーマに沿ってゲストスピーカーが報告、その報告を受けて、学生生活の実情について意見交換が行われます。第1回は会の活動方針について話し合われ、第2回以降は「就職活動の今~ガクチカなど学生の困りごと、生協や社会でできること~」「after/withコロナ授業の現在地~コロナ禍の変容と今後の展望」「学生相談から見えるコロナ禍の学生の心身の健康と支援課題」などをメインテーマとして開催されました。

先生や学生自身の報告と共に参加者間の情報交換により、学生の心身の健康実態を明らかにして、大学生協や社会で何を支援できるか、何をしていったら良いかを探っていきました。

研究会に参加者した方々に感想をお聞きしました

【Member‘s Voice01】 人によって濃淡のある「つながり」にいかに対峙していくか

研究会委員長
米山 高生 先生
(東京経済大学教授、一橋大学名誉教授、全国大学生協連副会長理事)

研究会を重ねる中で浮かび上がってきた「つながり」は確かに重要なワードではありますが、皆さんのお話をよくよく聞いてみると、どうやらつながりには学生によって濃淡があるということが分かってきました。自粛を強いられた反動で強く求める人もいれば、ほどほどの相場観で保っていたいと思う人もいます。そういう意味では、「人とつながることは素晴らしく、人とつながることはコミュニティーの一員として当たり前のことなのだ」という、ステレオタイプな価値観はもはや通用しない世の中になってきたと言えるのではないでしょうか。

では、そんな学生たちと向き合う上で大切なこととは一体何なのか。それはひとえにこうした個々の考え方を、これまで以上に尊重して対峙していかなくてはならないということだと思います。しかしながら、どんな人であれ「孤立」するのは恐ろしいものです。つながりへの思いにグラデーションはあっても、誰一人孤立しないし、孤立させないこと。毎日の学生生活の中で、私たちが常に関心をもって見守っていることを知らせ、時に手を差し伸べることのできる環境を整えていく必要があると考えています。

【Member‘s Voice02】 「人が集まり、対話することの価値」を改めて問い、提供していく責任

山形大学 学術研究院 准教授
松坂 暢浩 先生
(山形大学 キャリアサポートセンター センター長)

就職活動の採用面接などで聞かれる「大学生活で、あなたが力を入れてきたこと(頑張ったこと)は何ですか?」という質問を「ガクチカ」と学生は呼んでいます。いま、この「ガクチカ」に悩んでいる就活生がいます。なぜなら、コロナ禍で行動が制限され、課題活動などに取り組めなかったことで、頑張った経験が不足していると感じているからです。

また、コロナ禍前の学生は、就職活動で不安を感じた時に友達や先輩、大学の教職員など身近な人に相談することである程度解消できました。しかし、コロナ禍でコミュニケーションの機会を奪われた学生の多くが、就職活動について相談できる相手を見つけられずにいます。このように、コロナ禍は就活生に対して非常に深刻な悩みや不安をもたらしました。今回の研究会を通じて、このような時だからこそ「人が集まり、対話することの価値」が改めて問い直されていると思います。困った時に集まって対話することで、お互いが刺激を受けたり、交流を通じて化学反応が起こることで偶然の発見(セレンディピティ)が生まれたりもします。学生のために「集まる機会」を私たちが作っていかなくてはいけないと感じました。

【Member‘s Voice03】 ほんのささいな一言やサポートが、学生たちの命をつなぐ

名古屋大学 教授
鈴木 健一 先生
(名古屋大学 学生相談センター長 心の発達支援研究実践センター)

「もしも自分がそうされたならば、大学が自分たちのことを見捨てていない、ちゃんと考えてくれていると思えるでしょう」。研究会で実際に行われてきた名古屋大学の取り組みを報告した際、全ての在学生と丁寧な面接を行う「全員面接」について大学生協の学生委員の一人から寄せられたコメントです。報告を通じて感じたのは、不自由な生活の経験から、キャンパス全体の学生支援力がアップしていたことへの再認識。青年期というのは、どうしても自分自身のことだけに目が行きがちです。困った事態に遭遇すると、こんなことで困っているのは自分だけと思ってしまいがちです。

でも、大学の中での困りごとのバリエーションは、ある意味そんなに多くはありません。困った時は、同じことで困った経験のある先達が必ずいると思ってもらえれば気持ちも楽になる。「みんな元気だった?」「大変だね、卒論」などほんのささいな一言やサポートで、学生たちは本当に命をつないできたのです。コロナ禍を経て、新たな価値観を獲得した学生たちには、これからの日本をリードし、新しい社会を築いていってほしいです。

【Member‘s Voice04】 経験をもっとポジティブに、もっと前向きに考えていきたい

京都大学 教授
喜多 一 先生

正直なところ、大学という組織は、一人一人の学生にじっくりと寄り添うというきめ細かさには長けていません。理系の場合はまだ実験や実習などで共に行動する機会も少なくありませんが、文系の場合はカリキュラムの構成上どうしてもバラバラになりがち。そういった構造上のデメリットが、コロナ禍の中で露呈してしまいました。

でも、それは悪いことばかりでもありません。授業もすべてがオンラインやオンデマンドで行われるようになりましたが、逆に授業はそれでもできることが分かったわけです。確かに学生にとっては厳しい状況であることに変わりはありませんが、私としては、何がもう少し良くなればいいのかを前向きに考えていきたいと思うのです。経験したものをよりポジティブに使うにはどうしたらよいのか。今はないけれどほしい技術は何なのか。そんなことを考えていけたら、次の一手が見えてくるのではないかと思っています。

私たちの国自体が今は難しい問題を抱えています。難しい問題を自分で考えて、誰かと相談しながら解決していく、その経験はこれからの人生にも大いに生かされると思います。

【Member‘s Voice05】 個人としての思いや考え、不安に寄り添える環境をつくってほしい

横浜国立大学4年
佐々木 優菜 さん

研究会への参加を通じて、多様な、階層を超えた「つながり」の重要性というものを再認識することができました。コロナ禍の中で、本当に大変な大学生活を送っている学生がまだまだ数多く存在します。しかし、どんな状況にあっても人とつながることで、困難を乗り切る知恵や勇気を得ることができるはずです。状況が少しずつ落ち着きを取り戻し始めて、あらゆる制約が緩和されるに伴って、世の中がポジティブな方に流されているようにも感じます。これはうれしいことでもありますが、一方で行き過ぎた偏見にならないことを願っています。「一時は大変だったかもしれないけど、もう大丈夫でしょ?」「学生の生活はもう心配ないよね」と学生をひとくくりで見るのではなく、個人としての思いや考え、不安に寄り添える環境をつくってほしいと思います。

私自身は、頼れる人は身近にいることを伝えていきたいです。同じ思いを抱えているのは一人じゃないので。そのうえで、挑戦する勇気を持ってほしいですね。はじめから諦めるのではなく、トライしてみたからこそ分かることも絶対にあると思います。

【Member‘s Voice06】 コロナ禍が落ち着いても続く苦しみに、しっかりと向き合っていくこと

岐阜大学3年
髙須 啓太 さん

自分が抱えている不安がコロナ禍によるものなのか、コロナ禍でなくても抱いていた個人的な悩みなのか分からない。しかし、この辺りをしっかり認識できていないと、いざ問題が起こった時の対処に齟齬をきたしてしまうこともあるでしょう。

研究会では、こうした私自身も抱いていた学生たちの状況について、率直にお話をさせていただき、それを真摯に聞いていただくことができたので大変有意義だったと思っています。世の中が少しずつ落ち着きを取り戻してきているように感じますが、新型コロナウイルスが収まってきたからといって、大学生の苦しみがなくなったわけではありません。これまでに培ってきた知見や経験を生かして、問題を抱えている学生一人一人の思いに耳を傾け、大学として、大学生協として、問題の本質にしっかりと向き合っていくことが重要。私自身も研究会が掲げる「学生生活をともに考え、見守る」という姿勢を大切に、より積極的な活動を進めていきます。また、こうした中でも学生たちには、自分のやりたいこと、挑戦したいことを見つけ、成長していってほしいと思います。

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